第39話退院(銘々に命名)-1
退院の日、両家が総出でやって来た。
「兄ちゃん!退院おめでとう!」
「お姉ちゃん、良かったわね~!」
「ありがとう」
「結局、マスコミにバレなかったわねぇ」
この日の為に買ってきたと思われるヒラヒラのワンピースに身を包み、寒そうにしている美千歌が、残念そうに笑った。
「本当に、ねぇ」
お義母さんも上品なスーツできちんと髪が巻かれていた。
「まあ、こんな話、誰も信じないわよ」
「案外、嗅ぎつけたマスコミを教授が陰で始末してたりして」
「……笑えない冗談だなぁ……」
あの教授ならやりかねない。
「もう名前は決まったのかい?」
子供の顔を覗き込みながらお袋が聞いてきた。
「ああ、それなら……」
自分から聞いておきながら、俺の言葉を遮るようにお袋が喋ってきた。
「母ちゃんねぇ、考えてきたんだけど『愛』ちゃん、ってどうかねぇ?」
急に子供に名前を名付けだした。
「それだったら『今日子』とかはどうだ?」
親父まで参加してきた。
「私は『春奈』ちゃんがいいわぁ」
お義母さんまで参加しだした。こほん、と軽く咳払いしてお義父さんも発言した。
「ん、『真奈美』……とか……」
こうなると収拾が付かなくなってくる。
「はいはいはい、は~い!!俺は『安奈』ちゃんがイイと思いま~す!」
由まで参加しだす始末だ。
「まったくみんな好きに名付けちゃって…。ねぇお姉ちゃん、『理紗』ちゃんなんてどう?良い名前でしょ?」
どうやら美千歌は自分の子供が女の子だったら、この名前にしたかったらしい。
そんな事をしているうちにだんだん親父とお袋がケンカ腰になってきた。
「だいたい、『今日子』だなんて、どこの飲み屋のお姉ちゃんの名前なんだい!」
「それは、3丁目の……って何言わせてんだ!かわいい名前じゃねぇか、なあ!理!」
こっちに飛び火してきそうだった。
「なっ、名前は俺達で考えてるから……」
「え~……。そうかい?残念だねぇ……」
お袋がそう言うと、みんなが一斉に溜息をついた。みんな本当に残念そうな顔をしていた。
「とりあえず、家に戻ろう!」
俺達はぞろぞろと家路についた。
「この荷物はここでいいのかい?」
「ああ、その辺に置いといて」
お袋やお義母さん達が部屋の片付けとかを手伝ってくれた。
ベビーベッドに赤ちゃんを寝かせた。
その寝顔をみんなで見つめている。とても幸せだ。
「そういや、理、結局この子は何て名前なんだい?」
「それは……」
子供の名前は静流から一任されていた。俺が産んだから俺が付けるのが良いんじゃないかと静流は言った。
俺は鞄の底から一枚の紙を取り出した。あらかじめ入院中に書いておいたのだ。
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