第38話分娩(オチ無し)-3

 次に目を覚ますと、そこはいつぞやの病室だった。

「……ひるる(静流)……」

まだ少し麻酔が残っているのか呂律が回らなかった。

「赤ひゃんは?」

「大丈夫よ!これからも色々検査が有るけど、とりあえずは五体満足、健康そのものだって!」

「しょうか(そうか)……ひょかっは(良かった)……」

俺は心底ほっとした。

麻酔が切れて会話もスムーズになってきた頃、扉をノックする音がした。

「巡回で~っす」

山田と姫野が部屋に入って来た。

「どうですか?具合は?」

「ああ……、ちょっと麻酔が切れてきたから痛くなってきたけど……」

「『mob細胞』のおかげで傷の治りは早くなると思いますよ。まあ、麻酔の切れる痛みまではどうしようもないんですけどね」

「ああ、そうなんだ……」

(ん?あれっ?!)

「『mob細胞』っていうか、子宮は摘出したんじゃなかったのか?!」

「それについては私から説明しましょう」

 いつになく真剣な教授が病室を訪れた。

「教授……」

それからの教授の話は俄かに信じられないものだった。

「実はあの後『mob細胞』で出来た子宮を摘出して培養液に入れて研究しようと思っていたんですがねェ。キミの出産が終わって子宮を縫合し終えた時、急激に収縮していって、およそ子宮とは言えない卵のような形状の細胞の塊になっていってしまってねェ……。しかもその細胞がキミの腹膜の辺りに癒着してしまって、簡単には摘出出来なくなってしまったんですよ」

「癒着……」

「仕方がないので温存という形で、しばらく経過を診ない事には何とも言えませんねェ」

俺は困ったような、それでいて嬉しいような複雑な気持ちだった。きっと教授も同じ気持ちだっただろう。

「『mob細胞』はマウスの実験ではガン化する事が全く無かったので、おそらくは無害だと思われます」

姫野の言葉にも安心した。

「でも、どうして……」

「わかりません。ただ、我々の踏み込んではいけない領域だったのかも知れません」

姫野は淡々と自分の意見を述べた。

「まあ、赤ちゃんの発育の経過も診ないといけない事ですしねェ、二人一緒に定期的に検査して経過を診る事にしましょう」

俺達は教授の言葉にうなずいて、全てを託す決心をした。というより、他に選択肢が無かった。

「今はとにかく休んでくださいね♪これから子育ても始まって、なかなかゆっくり寝る事も出来なくなるでしょうし」

山田の言う事も尤もだ。子供が居る経験者だから説得力が有る。

「じゃあ、今の内に体力を温存しますか」

なかなか出来ない体験だ。出産での入院生活も悪くないもんだと思った。

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