第36話分娩(オチ無し)-1

 病院に運び込まれた俺は、息も絶え絶えだった。

「……はっ……、早くっ……!」

「多田さ~ん!わかりますか~?はい、ヒッヒッフー!」

病院には連絡を受けた田中さんが待っていてくれた。

「ううう。ひぃ、ひぃ、ふぅぅ~」

「ちゃんと吸ってから吐いて!まだいきんじゃダメですよ!」

「はぃぃぃ……。ううう、ひぃ、ひぃ、ふぅぅぅううう」

もう吸ってんだか吐いてんだかよくわからないというのが現状だった。

「今いきんだら、赤ちゃんに酸素が行きませんよ~。赤ちゃんも頑張ってるから、多田さんも頑張ってくださいね~!」

「理くん!しっかり!」

「静流ぅぅぅ~~~」

すがるように静流の手を握った。

陣痛と陣痛の間は、それまでの痛さがウソのようになくなる。

「やだよもう、早く手術して、赤ちゃん出してくれよぅ……」

そんな事を話していると、また陣痛がやってきた。

「……う~~~~!」

「痛い!痛い!痛い!」

俺は静流の手を思いきり握り締めていた。

「理くん!そんなに握ったら痛いって~!」

「早く……、早く出してっ……!」

「それがねぇ……」

静流は言い難そうに言った。

「山田くんがまだ来てないのよ。昨日から学会に出てて、今日帰って来るハズなんだけど……。まさかこんなに早く産気づくなんて思わないから……。さっき連絡したら、まだ電車の中だって」

「ええ?何で?山田が居なくても手術は出来るんだろう?教授も居るんだし、それに姫野だって。」

 陣痛の合間の、ほんのわずかな無痛の時間には冷静に話が出来た。

「それがねぇ、実は山田くんだけなのよ。私たちの中で麻酔が出来るのは。この事は内密だから、他の麻酔科の先生呼べないのよ。あ、麻酔無しで手術して良いんだったらすぐ出来るんだけど?どうする?」

 それを聞いた俺は、今までに感じた事の無い恐怖を味わった。

「どうする?って、そんな怖い事聞かないでくれよ~。待つよ~。麻酔してくれよ~」

「あ、そう?じゃあ、来るまでは頑張らないとね。はい、ヒッヒッフー」

「ヒッヒッフー……」

「はい、リラックスして~」

「ヒッヒッフー……」


それからどのくらいの時間が経っただろうか…。

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