第33話10か月(ジンと来る陣痛)-1

 その後の俺は経過も順調で、妊娠中毒症にもならずに臨月を迎えようとしていた。学校の方も内申書を書き終えて一段落した。

お腹の子供も今産まれても育つくらいには成長していた。

「もうお腹パンパンね~」

静流がはち切れんばかりの俺のお腹を撫でている。

「何とか無事に臨月まで漕ぎ着けたなぁ。もうあと一か月足らずでこのお腹ともおさらばかぁ……。やっと慣れてきたところだっただけに何だか寂しい気もするなぁ」

「理くん……」

帝王切開での出産になるので、予定日を待つ事無く手術が行われるのだ。

「そろそろ手術の日も決めないとね」

「そうだなぁ。なるべくなら受験が終わってからの方が良いんだけどなぁ。で、卒業式には出席出来るくらいの時期で」

「そうね。教授とも相談しなくちゃね。何が起こるかわからないし」

そうなのだ。この出産は人類史上初となる為、前例が無いのだ。いつ産まれるかも、このまま無事に出産出来るかどうかもわからない。まさに未知の世界なのだ。

「前に由にも言われたけど、『案ずるよりも産むが易し』ってね。不安だけど心配してないよ。教授も姫野も居るし、山田も居るし。あいつ、天才外科医なんだろ?何より、静流が居るじゃないか」

我ながら臭いセリフだとは思ったが、本心だった。

「とりあえず、明日にでも相談しに行こうかな?」

「そうね。それがイイと思うわ」

 最近はお腹の重みで寝返りも儘ならない。睡眠も浅いので就寝時間も早くなっていた。

「おやすみ~」

「おやすみ~」

 その晩はいつもにも増して寝苦しかった。お腹の重みだけではない何かが違っていた。

 いつもは激しい胎動もこの日はあまり感じられなかった。

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