第24話7か月(痛いぞ、胎動)-5

 そんなこんなで俺は逆子体操の日々を送っていた。

だけどなかなか逆子は治らず、それどころか日に日に胎動が激しくなり、朝の確認が苦痛になってきていた。

ある晩、逆子体操の時に静流にそれとなく提案してみた。

「なぁ、そんな毎日確認しなくても良いんじゃないか?せめて2日に一回とか……」

「ダメよ!」

神にもすがるような思いでお願いしてみたのだが、すぐに却下されてしまった。

うなだれる俺を見て静流が静かに言った。

「あのね、理くん。裏の裏は何だと思う?」

一瞬何を聞かれているのかわからなかった。

「……???……表?」

「そう、表。せっかく逆子が治ってるのに気が付かないで逆子体操をしたら、どうなると思う?」

「あ!そうか!また逆子になるかも知れないんだ?!」

「そう。だから逆子体操したら確認しなきゃ。そうじゃないとせっかくの苦労が水の泡になっちゃうでしょう?」

「なるほど、そういう訳か。でも何とかならないかなぁ……。赤ちゃんの力がだんだん強くなって時々痛いんだよね。膀胱の辺りとか蹴られるとやばいっていうか……」

「そっかぁ……。でも確認はしなきゃいけないし……。話しかけたら返事するし、聞き分けが良いのに何で逆子だけ治らないのかしら?」

「そうだよなぁ。何でだろう?」

「明日にでも、教授に聞いてみようか?」

「そうだな。何か原因がわかるかも知れないしな。明日学校の帰りに寄るから、教授にそう伝えておいてくれる?」

「オッケー。伝えておくわね」

その後すぐに寝床についた。妊娠してからというもの、あまり夜更かしをしなくなった。俺はうとうとしながら静流に声を掛けていた。

「明日の朝の確認は~?」

「するわよ~?」

「やっぱり~?」

俺は憂鬱な気分で眠りについた。その夜は胎動が激しく、いつも以上に寝苦しかった。


 次の日学校が終わると病院へ向かった。その日は山田が送迎してくれる日だったが、診察が長引いているとの事で久しぶりに電車に乗って行く事になった。幸いな事に静流も手が離せなかったのだ。

二駅とはいえ妊娠中は気を使う。たまたま空いている電車だったので座れた。

周りを見回していると数人の妊婦さんがいた。

(やっぱり仕事しながらの妊娠ってキツイよなぁ……)

そんな事を考えているうちに駅に着いた。

(あの妊婦さん達はどのくらい電車に揺られているんだろう……)

そうぼんやり考えながら電車を降り、病院へと向かった。

「あら?理くん、早かったわね」

ちょうど受付に用事で来ていた静流と偶然会った。

「たまたま受付に用があったの。理くん、電車は大丈夫だった?」

「ああ、空いてたから座れたし」

「ごめんね、私が迎えに行ければ良かったんだけど」

「いや、お気遣いなく……」

そんな会話を交わしながら受付に居た事務の女性に会釈をして教授の部屋へと向かった。

「彼女、もうすぐ出産なんですって」

「ああ、どうりでお腹が目立つと思った」

受付の彼女は、もうはち切れんばかりのお腹をしていた。とても幸せそうに見えた。

「彼女の自宅はここから一時間くらいの所にあるんだけど、さすがに辛くなってきて、今週いっぱいで産休に入るのよ」

「一時間……」

たった二駅でも辛かったのに、俺よりももっと大きなお腹で一時間……。

そう考えるだけで何とも言えない気持ちになった。

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