第23話7か月(痛いぞ、胎動)-4

 パジャマに着替えて、(と言っても最近めっきりお腹が出て来たのでダボダボの3Lサイズの物で見栄えの良い物ではないが)静流の待つリビングに向かうと今日の日誌を丁寧に書いている姿があった。

「いつも以上に丁寧だな」

「そりゃそうよ~。だって初めて胎動を確認出来たんだもの」

「まあ、ちょっと前から変な感じがしてたから、初めてじゃないんだろうけど」

「良いのよ!どっちにしても嬉しいんだから。それより今は動いてないの?」

「そういえば今までの違和感もお風呂の時が多かったなぁ」

「じゃあ、赤ちゃんもお風呂が気持ち良いのかなぁ?」

「意外と『熱い!』って怒って蹴ってるのかもよ?」

「え~~~?!」

そんな他愛のない会話を楽しんでいるとまた胎動があった。

「やっぱり、リラックスしてる時に蹴るんじゃないかな?」

「そうね、今リラックスしてるもんね?」

そう言って静流はパジャマを捲り上げた。

「……ちょっ……!何するんだよ!風邪引くじゃないかっ」

「だって~、今リラックスしてるんだから、また動くかなぁと思って」

すると赤ちゃんは、静流の思惑通り、お腹を蹴った。


ポコン


「?!」

その時急に静流の顔色が変わった。

「?どうかした?」

「ねぇ、もう一度蹴ってみて」

静流はお腹に呼びかけている。

「そんな事言ったからって蹴ったりは……」


ポコン


ビックリする程、赤ちゃんは聞き分けが良かった。

「もう一度、もう一度蹴ってみて?」


ポコ

ポコン


「やっぱり……」

何の事か俺にはさっぱりわからなかった。

「いったいどうしたんだよ?」

訳もわからず、ポコポコとお腹を中から蹴られ続けた。

「あのね、赤ちゃんっていうのはね、お腹の中ではこう頭を下にして丸まっているの」

静流が身振り手振りで説明してくれた。

「そうするとね、お腹を蹴ると主にこう、お腹の上の方を蹴る事が多いのね。でも理くん、下の方を蹴られていたでしょう?そういう場合は逆子になっているのよ」

「逆子?!」

「うん。だから本来頭が下になってるはずの頭が上になってるの」

「え、いったいどうしたら……」

急に不安になった俺は静流に助けを求めた。

「逆子体操ね」

「逆子体操?」

静流はさらに身振り手振りで全身で説明を始めた。

「助産婦さんとかがこうやって、手で胎児を回す方法もあるんだけど、まずは逆子体操を勧めるわね」

「そ、そうなんだ」

「いい?こうやって、お尻を上げて……」

静流は、あられもない姿で指導してくれた。

「こう?」

「こう!」

その日遅くまで逆子体操の指導は行われた。


 次の朝、静流は起きるなり俺のパジャマを捲って赤ちゃんに話し掛けた。

「おはよう!蹴ってみて!」


ポコ


「……まだ頭が上ね……」

それからは毎晩の逆子体操と、朝の確認が日課となってしまった。呼び掛けると必ず胎動で返事をするという、不思議なまでに聞き分けの良い赤ちゃんだった。逆子が治らない以外は……。

「これっていつまで続けるんだ?」

いい加減うんざりしてきた俺は恐る恐る静流に聞いてみた。

「もちろん!逆子が治るまでよ!」

「あ、やっぱり?」

先は長そうだ。

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