第22話7か月(痛いぞ、胎動)-3
家に帰り着いた俺達は、夕食を軽く済まして風呂に入る事にした。最近風呂に入るとお腹に空気が溜まった様な何とも気持ち悪く、例え難い違和感があった。
「何なんだろうなぁ」
すっかり大きくなってきたお腹を鏡に映しながら考え込んでいるとまたいつもの感じがした。湯船に浸かるとその感じは一層ひどくなった。
「そんなに嫌な感じじゃないんだけどなぁ……。何だろう……」
お腹を見つめているとその時は突然やって来た。
ボコン!
外から見ていてもハッキリとわかった。
「何だ、今の?!」
あわてて風呂から上がって静流を呼んだ。
「お、お腹!お腹がっ、中から『ボコン!』って!」
「何?お腹がどうかしたの?!」
「今までも何度か変な感じがあったんだけど、今日のは全然違ったんだ!お腹の中から蹴られてるみたいっていうか……!」
そこまで言って、自分で気が付いた。
「アレ?もしかして……これって『胎動』ってヤツ?お腹の中から赤ちゃんが蹴ってる?」
「えー?!本当?!」
「そうか!今まで気が付かなかった……」
「え~、見たい見たい!理くん、見せて見せて!見せて!」
「見せてって言っても……そんな都合良く蹴るかなぁ?」
じっとお腹を見つめるも、待てど暮らせど次の胎動はやってこなかった。
「おーい!ママですよ~!パパのお腹蹴ってるところ、ママにも見せてよ~」
静流は必死にお腹に語りかけていた。
「おーい!」
何度も何度も語りかけていた。静流が結構な時間粘っていたので、すっかり体が冷えてしまった。
「あのさ、寒いからもう一度、風呂に浸かってきて良いかな?」
「ちぇー。あ~あ、見たかったのになぁ」
残念がる静流を尻目に風呂に戻って湯船に浸かった。
「あ~、生き返るなぁ~」
しばらくして身も心もほっこりしてきた頃、
ボコン!
「うわわ!静流~!また来た!また赤ちゃんがお腹蹴ったぞ~!」
「え~?!」
静流がドタバタと風呂場に入ってきた。
「わぁ!ちょっ、ちょっと!」
俺はあわてて前を隠した。
「何よ、良いじゃない。今さら。で、どう?まだ蹴ってる?」
「それが……」
「こうなったら赤ちゃんがお腹蹴るまでここにいるわよ~!お~い!ママですよ~!」
「お~い!早く蹴ってくれないと、今度はのぼせちゃうよ~」
しばらく二人でお腹に語りかけていると、
ボコン!
と、お腹を蹴って来た。
「わあ!」
俺達は歓喜の声を同時に上げた。
「もう一度蹴らないかしら?」
静流は満面の笑みで俺の方を向いた。静流がこんなにも喜ぶなんて、と感動しているとまたお腹を蹴ってきた。
ボコボコ!
「私達が言ってる事、ちゃんと聞こえてるのよ!わかってるのよ!お~い!ママですよぉ~!」
「よ~し!じゃ、俺も!お~い!パパですよ~!って、『パパ』で良いのかな?あれ?そうなると静流も『ママ』で良いのかなぁ?静流はどう思う?」
「どっちでも良いでしょう?それに理くんが『ママ』で私が『パパ』だったら、将来子供が混乱しちゃうわよ?!」
「ああ、確かにそうだなぁ。じゃあ、俺も。パパですよ~!」
ボコ!ポコポコポコ……
面白がって呼びかけていると、今度はだんだんのぼせてきた。なので続きは着替えてからという事で静流を納得させ、風呂から上がる事にした。
「じゃあ、また後でね~」
そうお腹の赤ちゃんに話しかけると静流は風呂場を後にした。
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