第15話6か月(噛みながらカミングアウト)-3
宴会はかなり早い時間から始まったので、宵の口にはお開きとなった。
「アレ?兄ちゃん、もう終わっちゃったの?みんな帰っちゃった?」
今日の分の配達を全て終えて、由がやっと家に戻ってきた。
「悪いなぁ、俺達だけ盛り上がっちゃって。由にだけ仕事させて……」
「いーのいーの!ほら!兄ちゃんの歓迎会なんだし。俺、配達してると楽しいし。みんな良い人ばっかだしね」
「それは由がそれだけみんなの事を考えてるからだよ。だから回り回って由に返ってくるんだ。今日一日、みんなと由が話してるの見ててそう思ったよ」
「俺、兄ちゃんみたいに頭良くないから難しい事わかんないけどさぁ、兄ちゃんがいてくれたから俺がこうしてみんなに助けて貰えんだよ」
「由……」
「それより兄ちゃん、何か残ってない?俺、腹減っちゃって、腹減っちゃって」
「おう、ちゃんと残してあるよ」
「サンキュー、兄ちゃん。母ちゃん!飯、飯。腹減った~」
今日は一日バタバタしていて、妊娠の事を言えなかった。どうしようかと悩んでるうちにもどんどん夜が更けていった。
「由~!風呂空いたぞ~!」
(今日はもうそんな話出来ないよな……)
そんな事を考えながら、風呂上がりに出てきたお腹を鏡に映してさすっていた。
「あれ?兄ちゃん、ちょっと太った?」
ドキッとして飛び上った。着替えが終わる前に脱衣所に由が入って来ていたのだ。
「え、あ、あ、そ、そう!そうそう!ちょっと太っちゃって……」
由がまじまじと俺のお腹を見つめた。
「兄ちゃ~ん。今からメタボ腹なんて、静流さんに嫌われちゃうよ~?胸まで何か出て来てるよ?静流さんよりおっぱい大きかったりして~」
由は笑いながら風呂に入って行った。
「いつまでもこのままって訳にいかないよなぁ……」
これからどんどんお腹も目立つようになってくるし、ましてや子供が産まれてきたらもう隠しようがないし……。
「よし!明日はみんなにちゃんと話すぞ!」
「兄ちゃ~ん!何か言った~?」
風呂場から由の声が響いた。
「いや、何でもない!」
今本当の事を言ったら、由は溺れてしまうかも知れない……。
その晩は由と同じ部屋で寝る事になった。とは言っても、結婚して出ていくまで二人で使っていた部屋だ。
「懐かしいなぁ」
「ちょっと散らかってるけど。兄ちゃんがこの家を出た後もこの二段ベッドだけはそのままにしてあるんだよ」
「よくどっちが上に寝るかでケンカしたよなぁ」
「いっつも兄ちゃんが譲ってくれたよね」
「そうだったかなぁ。忘れちゃったよ」
「兄ちゃん、昔から優しかったから。覚えてる?雨の日に猫拾ってきたの」
「あ~、あん時は親父に怒られたよな~」
「『商売してる家に、動物を持ち込むんじゃねえ!』ってね」
「で、由と俺がベッドで隠して育てようとしたんだよな」
「その猫、太ってんな~って思ってたら子猫産んじゃって。すぐバレちゃって大変だったよね」
「あ~そうだった、そうだった!」
「さすがにびっくりしちゃって、母ちゃんに泣きついたんだよね。そしたら母ちゃん、何事もなかったかのように子猫の体拭いて……」
「そうそう、子猫の世話して大きくなったら里親みつけてきてくれたよなぁ……」
「産まれたばっかりの子猫見た時、父ちゃんは血を見てびっくりして倒れちゃったんだよね」
そんな懐かしい子供の頃の話を、子供の頃のように由が二段ベッドの上、俺が下に寝てしていた。
「あのさぁ、兄ちゃん」
「ん~?」
「兄ちゃんてさ、何か悩んでる時って、よく寝る前にこうやって俺と話したんだよね~」
「……そうだったかなぁ……」
「兄ちゃん、何か悩み事、あるんだろ?だから帰って来たんじゃないの?」
由には全てを見透かされているような気がした。
「兄ちゃん、何悩んでんのか知らないけどさ、兄ちゃんはいつも考え過ぎなんだよ。兄ちゃん、頭良いからさ、考えすぎちゃうんだよね、きっと。まあ俺みたいに何も考えてないのも困り物だろうけどさ。ほら、『案ずるより産むが易し』って言うじゃん?何でもやってみるのも良いと思うよ」
まあ、本当に産むんだからある意味その例えは合ってると思う。由は勘が良いのか何なのか……。
「何があっても、俺ら兄ちゃんの味方だからさ。もっと何でも話してくれよ?」
「ああ……」
そうは言ってもどうやって話したものか……。そんな事を考えているといつの間にやら眠ってしまっていたたようで、気が付くと朝だった。
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