第6話1か月(取り急ぎ子宮)-4

 教授が言っていた傷の治りが早くなるというのもまんざら嘘ではなさそうだった。翌日には退院出来たし、すぐに学校に行ってもなんら支障は無かった。

三日に一度、腹部のエコーと血液検査の為に病院には通ったが、それ以外は全くの普通だった。

そして二週間目のその日、腹部のエコー画像を確認した教授たちが歓声を上げた。

「やりましたね!教授!」

「やはり成功しましたねェ!」

複雑な気分だったが、エコーの画像からもどうやら無事に子宮が出来たらしい。

「この後は……?」

 恐る恐る教授に聞いてみた。

「すぐにでも受精卵を子宮に戻す事にしましょう」

やはりそうなるのか。しかし戻すというのは果たして言葉として合っているのかどうか……?

静流の手によって顕微授精された受精卵は凍結保存されていた。それを子宮に戻す事について教授から説明があった。

「子宮の状態を診て、キミと静流君の受精卵の中で状態の良い物を一個、子宮の中に戻しましょう」

「一個?」

「以前の不妊治療では受精卵を二個、三個と複数個戻してたんですがね、万が一に全てが着床してしまった場合、母体に負担が掛かり過ぎるので、今では子宮に戻すのは原則一個と決まっているんですよ」

「え?普通の治療でも一個なんですか?俺、もっとたくさん戻して確率を上げるもんだとばかり思ってましたよ」

「昔はそういうのが主流だったんですがね、そうすると双子や三つ子や、それ以上の多胎妊娠の確率も上がってしまうでしょう?当然母体への負担は大きくなり、リスクも伴う。場合によっては減胎手術をしなければなりません。だから最近は一個、場合によっては時期をずらして二個目を移植する場合も有るには有りますが原則的には一個なんですよ」

「あの……、『減胎手術』って……?」

「多胎によるリスクを減らすために、文字通り胎児の数を減らすのよ……」

 言いにくそうに伏し目がちで静流がそう説明した。

子供が欲しいと願う事は大変な事なんだと今更ながらに痛感した。

「それじゃあ俺の場合は一個戻すだけなんですね?」

「そういう事になるね」

教授の顔は少し残念そうにも見えた。

「二つ目を移植すると、確率が上がるんだがねェ」

「……最初の約束通り、妊娠にならなかった場合は……」

「約束通り、元の体に戻しますよ」

「大丈夫ですよ!絶対妊娠しますから!」

隣で山田がほほ笑み、耳打ちしてきた。心底ムカついた。

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