第4話1か月(取り急ぎ子宮)-2
目が覚めると何故かそこは病院のベッドだった。
「何だ?まだ寝てるのか、俺……」
そんな事を考えながら、もぞもぞと寝返りを打つとチクチクとした刺すような痛みと、下半身に違和感を感じた。
「なんだこれ!」
あわてて飛び起き、掛けられていた布団をはぎとった。確かスウェットの上下を着ていたはずなのに浴衣のような物を着せられているし、変な靴下まで履いている。お腹にはテープの様な物が何か所かに貼り付いていて痛い。しかも股間からはチューブが、カテーテルが出ていた。
俺はその時、直感した。
(やられたっ!)
その時、ノックと共に静流が部屋に入ってきた。
「あら、おはよう」
「おはようって……。コレなんだよ!俺の体に何したんだよ!」
「だって、こうでもしないと手術受けてくれなかったでしょう?」
「手術……?!」
呆気にとられているとそこに教授がやってきた。
「気分はどうかね?」
その後ろには一昨日の二人の男達もいた。
「勝手ながらキミに腹腔鏡手術で『mob細胞』の移植を施させてもらったよ」
後ろの二人の男達が頷いている。
「冗談じゃない!本人の意思を無視して手術するなんて!いったい俺の体に何をしたんですか!」
教授はニコニコしながら悪びれる事無く話を続けていった。
「この前お話しした通り『mob細胞』の特徴は細胞の持ち主の体内に戻すと猛スピードで臓器に成長する事なのですよ。移植から二週間といったところかな?つまりキミの場合はおよそ二週間後には子宮が形成されている事になりますねェ」
「え?」
目を丸くする俺に静流は満面の笑みを見せた。
「俺の体の中に子宮なんか作ってどうしようと言うんですか!」
するとあの胡散臭い男がふくれっ面で言った。
「この間僕、言いましたよね?人類初の『妊夫』になるって。ちゃんと聞いてました?」
確かにちゃんと聞いていなかったかもしれない。しかしちゃんと聞いていたとしてもこんな突拍子もない話、理解出来る人間なんて果たしてこの世にいるのだろうか?
「何にしても勝手にこんなことして人権侵害じゃないですか!」
「静流君はOKしてくれたよ?」
教授は少し困ったような拗ねた顔をした。
「それにもう手術しちゃったしねェ」
「それじゃ俺はモルモットと同じじゃないですか!」
「あはは、そういう事になるねェ?」
全然悪びれる様子がない。むしろ、やったもん勝ちだと言わんばかりに教授は笑っていた。
俺は何とかこの教授を唸らせる事が出来ないだろうか、俺は必死に考えた。
その時、昔週刊誌か何かで見た事のある話を思い出した。
「今、人類初って言いましたけど、昔、横隔膜だか腹膜だかを使って妊娠した男の人がいたって話がありましたよねェ?」
「ああ、そういえば昔映画でもありましたね。腹膜を使って妊娠する話。確かアレはシュワちゃんが主演でしたよね?」
胡散臭い男が話に割り込んできた。
すると教授はにやりと笑ってこう言った。
「あの話は映画と違って、結局出産したって話は聞かなかったんですよねェ。おそらく流産したか話自体がガセだったんですねェ」
教授はにやにやとしながら話を続けた。
「だから間違いなく人類初になりますよ。なんてったって男性が妊娠して出産するんですからね。しかも自分自身の細胞で出来た『子宮』で」
一体全体この自信はどこから来るというのだろうか?その万能細胞を体の中に植え込んだのだとしても、まだ実際に子宮が出来た訳でも何でも無いし、もちろん妊娠した訳でも無い。ましてや無事に産まれる保証はどこにも無い。なのにこの自信はどこから来るのだろう?
「大丈夫ですよ。私は天才ですから」
教授の言葉が昔の映画やドラマに出てくる狂気染みた科学者のそれのようだった。
「そして、僕も天才外科医ですから」
横からあの胡散臭い男が、やはり狂気染みた事を言った。
「改めてご紹介しましょう。彼は天才外科医の山田君です」
「天才外科医の山田です」
こういう時、どういう反応をしていいのか俺にはわからない。
「私が執刀しても良かったんですがね、山田君がぜひにと言うものだから今回は彼に執刀してもらったんですよ」
「僕が執刀させていただきました」
どうしてこういう会話が普通に出て来るのだろうか?医者というのは少なからずこういうモノなのだろうか?
いや、そんな事を言ったら普通のお医者さんに失礼だろう。
「彼はね、若いけど天才なのよ」
ああっ!静流まで!
しかも若いと言われても明らかに年齢不詳の風貌だし、自分で『天才外科医』と言う事自体おかしいし……。
「天才だか何だか知らないけど、結局のところは人体実験じゃないか!」
俺はあくまで正論で抗議した。
「そうとも言えますねェ」
……明らかに開き直っているのがわかった。
「もう手術は済んじゃってますしねェ。こうして言い争っている今も、キミのお腹の中では『mob細胞』が、どんどん細胞分裂して成長して、子宮が形成されていってるんですよ?まさに女体の、ああいや失礼。人体の神秘じゃありませんか」
……もう何を言っても無駄なのがわかった。何を言ってもこの人たちは俺を使って人体実験をやるに違いない。暴れて拒否しても、大人しく承諾しても結果は同じ事なのだろう。それならばこの先何が起こるかわからない体にされている今、放置されるより大人しく従った方が賢明だろう。俺は覚悟を決めた。
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