第3話1か月(取り急ぎ子宮)-1

次の朝、昨日の事は夢だったのではないかと期待した。

だが残念な事に淡い期待は期待に終わってしまった。

しかも今日はたまたま二人とも仕事が休みで、話す事と言ったら昨日の話くらいしかなかった。

結局あの後、話をよくよく聞くと俺の親不知から作られた万能細胞は、培養液の中で刺激を与えると、急速にある臓器へと成長していったのだそうだ。それが何故か何度試しても『子宮』に変化していくのだという。いくら万能といっても男の俺の細胞が『子宮』になるなんてどう考えても理屈が合わない。


「赤ちゃんてね、母親の子宮の中にいる時、最初はみんな女の子なのよ」

 静流が耳を疑うような事を言った。

「え?性別って受精した時に決まるんじゃなかったけ?」

「うん、まあそうなんだけどね。まず赤ちゃんはみんな最初は女の子のような体で育っていって、男の子はお母さんの子宮の中でホルモンシャワーと呼ばれる成分を体内に取り込む事によって男の子の体に変化していくの。だから妊娠中の母親にストレスやら何かしらの要因があって、そのホルモンシャワーが不足したりして不完全な場合、性同一性障害が起こったりするとも言われてるのよ」

「……え?そうなの?」

「まだまだ解明されていない事も多い分野よ。まさに生命の神秘ね」

「さらっと言うけど俺、医者でも何でもないし、よくわかんないよ……」

「理くんって、物分かりが悪いわね」

物分かりが悪いと言われても……専門でも何でもない男の俺がすぐに理解出来る方がおかしいとも思うのだが。

「でも、何で俺が!」

「教授も言ってたでしょう?理くんの細胞だけが理想の進化を遂げて『mob細胞』になったの。他の人のはとてもじゃないけど実用出来る代物じゃなかったわ。それに万能細胞としてとても安定してるのよ」

「だからってなんで『子宮』になっちゃうんだよぉ……。『子宮』限定って、それって安定してるって言えるのかな?」

「それは教授にもわかんないんだって。ほら、研究って、いわば偶然の産物だったりするじゃない?もしかしたら、理くんがあんまり子供欲しがってるから細胞も気を利かせたのかもね」

「冗談じゃない!」

笑いながら能天気に話す静流に、つい大声を出してしまった。だけど本当に冗談じゃない!そんな簡単に男の俺が妊娠なんか出来るか!あまりに子供が出来ないから、いっその事自分で産めたら……と考えた事がなかった訳ではないけれど……。まさかそれが現実になろうとは、かの文豪・太宰治だって思いも寄らなかっただろう。

「……少し、考えさせてくれ……」

そう言って俺は寝室に籠った。

その後、リビングから静流が誰かと電話で話しているのがうっすらと聞こえたが、俺はふて腐れたままベッドにうつ伏せになり、俺はそのままうとうとし始めた。

「はい、ではお願いします」

静流が誰に何をお願いしてるのか疑問に思ったが、迂闊にも俺はそのまま夢の住人となってしまった。

夢なのか現実なのか、どこからか薬品の臭いが漂っていた。

そして遠くで話し声が聞こえたような……気がした。

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