第3話 人魚の生態を求めて①

 たまには冒険しましょう。助手君ばかりに魔術材料を頼みすぎるとダメになってしまうで。魔法少女として。人間として。ちなみに今日は助手君と二人ではありません。今日のスペシャルゲストは同じくノーベル魔術賞を狙う私の幼馴染みの魔女っ子。


 紹介しましょう。日野ひの 照菜てるなちゃん。13歳。とても可愛いい子なんですよ。ボブショートのブロンドヘアーにレッドアイ。145センチぐらいのロリが入った小さな身長が素晴らしいです。照菜ちゃんの外見だけをただ一言。いや二文字で答えるとこうでしょう、魔性。とにかく惹きつけられます。その惹きつけ力はジャ◯ネット高◯のテレビ販売をも凌ぎ、ダイ◯ンの吸引力の変わらないただひとつの掃除機をも凌ぎ、まさに私の中のトップ オブ ザ ワールドです。

 

 照菜ちゃんは性格にいったても率直に天使です。私を『おねえちゃん』と呼ぶその声には常に暖かさがあり、ロリがあり、ロリがあり、なんでも聞いてあげたくなります。この前なんか、『おねちゃんのために作ったの』とか言って焼きたてのクッキーを持ってきてくれたんです。もうなんなんですか。萌え死にさせたいんですか私を。いやいや萌えではなくてもう愛おしいです。抱きしめまっくて、私の包容力で圧迫死させたくなっちゃいます。


 ただ、私は照菜ちゃんに一つだけ残念なことがあります。それは本人が悪いというわけではなくて、その周りの要因というか……私たちの物語を天から見守っている勘の鋭い読者様ならもうピンときていると思いますが、照菜ちゃんは私の助手である照斗君の妹です。

 

 ……え? 照斗君は純日本人で黒髮に黒い瞳なのに、照菜ちゃんはブロンドヘアーにレッドアイで兄弟なんてありえないと読者様はお考えですか? 世の中には一言で表せない事柄が星の数ほどあります。それに私は、照斗君と照菜ちゃんの関係を兄弟としか聞いていません。私がこれ以上二人の仲を問い詰めるのは藪蛇やぶへびです。聞けません。ただ、私が幼稚園の年長さんだった頃には確かに照菜ちゃんに会ってその頭を撫でています。遊んでもいます。幼馴染みですからね。逆に助手である照斗君の方が付き合い浅いです。彼とは小学校の時に照菜ちゃんの紹介で出会ったのが始まりなのですから。


 さて、照菜ちゃんというS級の可愛さを説明するのに話題が逸れることはしょうがないことです。本題へと戻りましょう。


 腕時計を見ると時刻は12時を少し過ぎた頃です。今回の研究は人魚の研究です。っということで私を含み三人は、途中電車を使い、現在、新潟の能生の海岸沿いのとあるテトラポットの上にいます。実は魔法使いという枠の中でも人魚という生物は未だに謎に満ち溢れています。人魚の確認されてる生態といえば、いかがわしい貝殻のブラをつけてること、下半身がまぐろみたい、繁殖方法不明で性別がメスのみ、人間のイケメン好き、下半身の部分はお刺身にして食べると以外に美味ということぐらいです。


 私は黒のゴスロリを波風に揺らす照菜ちゃんを優しげに見つめます。照菜ちゃんは普段からゴスロリをよく着ます。私が絶対に似合うと彼女にゴスロリを推薦しまっくたのが要因でしょう。かわいいは正義です。


 「照菜ちゃん。海に落ちないでくださいね」


 「うん、おねえちゃん」


 照斗君がこちらになにやら熱い視線を送ってきます。どうしたんでしょう? 僕にもそれ言ってくださいよ、のアピールでしょうか?


 「唯花師匠! 僕も海に落ちないようにめっちゃ気をつけます!」


 「いいですよ。あんまり気をつけなくても」

 

 そのまま照斗君が海に落ちていただいた場合、私と照菜ちゃんの二人きりとなりそれはそれは楽しい魔術研究の時間となるでしょう。と、これは一応冗談としておき、人魚を捕まえる方法は二つあります。一つ、人魚の大好物である魔気を海に流す方法です。この方法だと海に自分の魔気を放出するので心身共に疲れます。二つ、イケメンの着た衣類を海に投げる。この方法は衣類に残るイケメンの残り香で人魚の女としての本能に直接訴える方法です。人魚はイケメンの匂いに敏感な乙女なので女としての煩悩ぼんのうに抗えません。ちなみに人魚も魔物の部類に入るので一般の人間には見えません。まぁ人魚も滅多なことをしない限り一般人を襲いませんが。で、私の考えとしては二つ目の方法を取りたいと思います。そのためにわざわざ照斗君の友達の池山君(イケメン)の使用済み体操着を本人了解の正規ルートでゲットして持ってきました。照斗君の話だと、私の持たせておいた新品の体操着と使用済みの体操着をなにも言わずに交換してくれたらしいです……ちょっぴりその話を聞いた時、いろんな可能性を考え震えました。


 さて、早速イケメンこと池山君の使用済み体操着を背中のリュックから取り出し海に投げます。もちろん細いロープを体操着に結んでありますので、その部分を手から離さない限り体操着がどこぞの浜辺に打ち上げれるなんてことはないです。


 「おねえちゃん。なに投げたの?」


 照菜ちゃんがキョトンと首を傾げました。


 「あれはですね。ロマンと虚しさを乗せた乙女の希望っぽいものです」


 「えぇ、よくわかんないよ。洋服に付いてる襟タグに『池山』って大きく書いてあるけど大丈夫なのおねえちゃん」


 はて、どう切りかえしましょうか? 私は隣の照菜ちゃんに微笑みを向けます。


 「えっとですね。池山って人はですね、塩っからい体操着が大好きな方なんですよ。だからいいのです。ボランティアです。ねっ助手君」


 右目で軽くウインクをし、斜め後ろの照斗君にこの話に乗ってきてのサインを送ります。


 「はい、唯花師匠。たまに自分の汗だらけの体操着に頬ずりする池山の生態を確認しておりますのでその通りだと思います。あいつほんと塩辛いの好きですよ」


 照斗君、そのルートはやばいです。早くしないと取り返しのつかないことになりますよ。あと、別に照斗君の心身に損害が降りかかろうと知ったことじゃないですが、その話を照菜ちゃんの前でしないで欲しいです。純白の天使をけがすことは何人たりとも許しませんよ。


 私は冷たい冷凍ご飯のように哀れな我が助手を見るめると、照菜ちゃんにより一層微笑みかけます。


 「ところで照菜ちゃん。人魚は見たことありますか?」


 「うーん、ないよ。マンドラゴラを親戚のおばさんの頭から抜いたことはあるけど」


 そうなんですか。親戚のおばさん腐女子だったんですね。私は海に漂う体操着を見つめながら無反応に努めました。

 

 「そうですか。そこにいる助手君とは最近仲良くやっているのですか?」

 

 「うーん。どうかな? にい様はマリカー派で、照菜はスマブラ派だからよく喧嘩するよ。もっと兄様はマイルドにワイルドになるべきだよ」


 これを聞き照斗君が自身の妹に高圧的に目線を送り口を開きます。彼がどんなに正しいことを言おうと、私が照菜ちゃんに加勢することはもう決まっています。諦めてくさださい。数の力です。


 「出た出た。出ましたよ、兄様は〜〜〜〜〜〜ほにゃならになるべき発言。お前それまじでうざいからな。今回だけじゃないぞ。毎回毎回、言われまっくてうんざりなんだぜ」


 「兄様がなってくれないから」「その通りですよ、照菜ちゃん」


 「唯花師匠まで! こうやってイジメが起きていくんですよ!」


 はいはい。こんな感じで三人でゴールのない会話をしていると、池山君の体操着に釣られ人サイズの魚影が見え始めます。間違いなく人魚です。人魚という種族はとても警戒心の強い魔物です。ですから、これ以上体操着との距離を詰めてこようとしません。イケメンの匂いを煮詰まらない距離で嗅ぐ人魚という生き物。案外、乙女おとめいてると思いませんか?


 「二人とも、人魚がいるのがわかりますか?」


 「うん、おねえちゃん」「はい」


 「では、今から捕獲に入ります」


 「どうやって?」 「どうやってですか?」


 「こうやってです。二人共、特に照菜ちゃんは海から少し離れてください」


 私は脳内で足がった時のイメージをします。電撃が走ったような痛みを想像すること、それが雷魔法らいまほうを繰り出す時に欠かせないのです。


 膨らませたイメージを脳内で濃縮のうしゅくしていきます。さらに右手の人差指に意識を集中させます。


 発動しようと思ってから三秒後、ようやく準備完了です。私は炎魔法と水魔法は得意で発動可能になるまでのインターバルも神レベルに速いと自画自賛じがじさんしているのですが、雷魔法については苦手です。そもそも、電撃の走るような痛みを経験したことがあまりないので脳内イメージが弱いんです。


 「照菜ちゃん見ててね。助手君は今度また教えるからしっかり見ておいてください」


 「うん」「わかりました! 唯花いちか師匠!」


 私は右人差し指から細い稲妻を海に落とします。雷魔法はうまくコントロールできないところもあるので大まかな威力はわかりません。でも、人魚と小魚達が浮いてきたのを見るにスタンガン並みの感電力はあると思います。


 と、ここまでの過程は本当に良かったのです。三人で来て、波風を感じて、安心安全で魔術研究をして、帰りにかにでも食べていきましょう。こんな気持ちで今までいました。


 ですが、波に揺られ海面に浮いたその人魚。ただの人魚じゃありません。


 「おねえちゃん、あの人魚さん綺麗きれいだね。頭に王冠おうかんもかわいいし」


 うん。かわいいですね。それはそれは普通じゃないくらいに。ちょっと笑えないですけど。


 ビビリな助手、照斗君も私と同様、死んだ魚のような目でその人魚を凝視しています。


 「唯花師匠。これちょっとまずくないですか?」


 私は照斗君の言葉に即答せず、3秒ほど考え老けました。そしてふと質問したくなったのです。

 

 「助手君。例えば賞味期限一ヶ月過ぎてるシュークリームがあったとします。もちろん普通のシュークリームなら食べません。けれど、そのシュークリームは最高のカスタードに至高の皮を持った一個五百万円のシュークリームです。君なら食べますか? 食べませんか? それと食べた後は腹痛エンドですか? ハッピーエンドですか?」


 私の優秀すぎる助手はゴクリと一回唾を飲むと、質問に対し重く閉じたその口で謙遜けんそんを含み言うのです。

 

 「……そうですね。食べます。案外腹痛なんてのはないかもしれません。つまりは僕の考えは、喉元過ぎれば熱さ忘れるです」


 それは私が求めていた背中を押す一言でした。


 「助手君、どこぞの人魚様に洗脳魔法を頼みます。眠っている今なら洗脳もしっかりと決まりますから」


 「わかりました!」


 照斗君は海に浮かぶ人魚に「おい、僕の奴隷になれ」と公言します。


 すると、人魚は閉じていた両目を開き、テトラポットの上にいる照斗君に海中から丁寧にお辞儀し忠誠を述べます。


 「はい、親愛なる人。これから私は一生あなたの奴隷です。あなたが望むなら悪魔にでも喜んで魂を売りましょう」


 透き通るような声。頭を覆う金の冠。整った顔立ち。空を映したような肩まである蒼色あおいろ髪。こちらをうかがう瞳は透明がかった海の色。他の人魚とは明らかに違うピンクで優雅な下半身のおひれ。私たちの前には紛れも無く人魚を統べる姫。人魚姫。つまりは海を統べるお姫様がいるのです。


 しかも洗脳しっちゃてます。たかだか三分程度悩んで洗脳魔法を実行するあたり、さながら海をも恐れぬ一流テロリストでしょう。


 でもしょうがないのです。目の前に研究意欲をき立てる最高の存在が、チャンスが、失神しているというのに手を出さないなんて無理です。逆にこの僥倖ぎょうこうに目を瞑るなんて馬鹿です。愚か者です。意気地なしです。


 私が欲しいもの。それはノーベル魔術賞。これだけは一ミリも譲れません。照菜ちゃんの頼まれてもこれだけは絶対です。


 さぁ、危険というスパイスにいどろられた未知なる真理を見つけにいきましょう。


  





〜〜今回の途中結果〜〜

陸と海の割合=3:7。私たちはこの7に喧嘩を売ったかもしれません。

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