第2話 大切なのは萌え萌えきゅんなのです! 

 マンドラゴラの研究失敗から三日後のお話です。


 今日は助手の照斗君の特訓に付き合っています。場所は実家の特訓室です。この部屋の面積は約40坪ほどあり、天井、壁、床、全てがセラミック加工されたフライパンと同じ素材でできてます。お値段以上、ニ◯リ様に裏アポとって作っていただきました特注部屋です。家具などはありません。精神と◯の部屋のようになにもないのです。


 あっなんとなく。天に向かい思考表示しときます。私の財運力はスカ◯ターのメータを吹っ切ります。謙遜はしません。私の父が世界を掌握してます。そして母はその父を掌握しています。


 私はやや興奮状態の照斗てると君に落ち着いて欲しいと冷ややかに目線を送ります。さっきから彼は「俺は魔法使いの王、魔王になる!」とか言って、片手パァーで歌舞伎のアレみたいなポーズを続けています。彼の中での手から炎魔法を出すイメージが形になって表れてるのでしょう。がんばるのはいいですがなんかちょっと違うのです。


 「助手君、想像です。想像するんです。熱い思いではないのです。萌え萌えきゅんなのです。とにかく萌え萌えきゅんを想像するんです」


 萌え萌えきゅん。この感情が炎の魔法を使うには必要不可欠です。恋でも愛でもなく、とにかく萌え萌えきゅんじゃなきゃダメなのです。大賢者ルレエルの迷言を借りましょう。彼曰く、『萌えなくしては心一つ燃やすことはできないさ』。つまりは萌えるということは、燃えるということと私は言いたいのです……ダジャレは狙ってませんからね。


 私の言葉になにかヒント得たのでしょうか。照斗君の表情筋に力が入ります。


 「わかりました! ツンデレ♪ヤンデレ♪ほほいのほい。グーデレ♪ダルデレ♪ほほいのほい。サドデレ♪バカデレ♪ほほいのほい。エロデレ♪ニャンデレ♪ほほいのほい。ドロデレ♪ダンデレ♪ほほいのほい。ゾンデレ♪アンデレ♪ほほいのほい。あんたのことなんか好きじゃないんだからねっ」


 照斗てると君の奇妙な呪文を聞き終わります。私の今日イチの発見はデレの種類の多さでしょう。彼が帰ったらパソコンで一つ一つググって見ます。

 

 「どうですか? 歌い終わって。自分の中で萌えは見つかりましたか?」

 

 「唯花いちか師匠。心の中で何かが灯火をあげようとしているのはわかるのですが、それが大きくなってくれません。思春期だからでしょうか?」


 「いや……私も一応、助手君の師匠を土下座されて断れず渋々しているけれど、同い年で思春期ですよ。さらに君を見ているとその思春期のせいなのか、ある感情が爆発しそうです」


 照斗君がゴクリと唾を飲みます。


 「まさか、恋ってやつ……「違います」


 この時の否定は早かったです。ただし『恋』というワードを出させる前にツッコムのがベストでした。おしいです。


 ぽかんとした表情の照斗君。


 「唯花いちか師匠。今のツッコミはツンデレでしょうか? だとしたら、そろそろデレていただきたいのですが」


 「はい? なかなかシャラップですね。そんなにデレりたいなら、硫酸で君の皮膚をデレデレにしてあげますよ」


 照斗君はそれを聞くと、心のもやが一気に晴れたような顔に。どうしてその顔になるのかは理解に苦しみます。


 「それですよ、それ。僕の求めてたデレはデレデレですよ! 愛情表現で硫酸をぶつけてくる系女子が今堪らなく気持ちを高ぶらせます。なんですかね、この気持ち。これが唯花師匠の言うところの萌えでしょうか!」


 違います。ぜんぜん違います。それはきっと3日前のマンドラドラ成分の名残りです。解毒剤は照斗君にちゃんとその日の内に飲んでいただいたのですが、やはり効力が完全に働くには一週間ほどかかりますね。ってことは照斗君はあと四日は変態マゾホモサピエンスということになります。誰か哀れな彼に魂の救済をしてやってください。

 

 私は彼の前、今日一番の作り笑顔を作ります。それはもう本物のスマイルと見分けがつかないぐらいのです。この笑顔は今から罵りますの合図です。私もマンドラゴラでの事件は心を痛めています。ですから、せめてもの罪滅ぼしとして現在進行形でドMの照斗君を喜ばせようと思います。


 「そうですね。今日は特別です。罵ってあげますよ、クソマゾ君」


 「あっいいですね。インスピレージョンが湧きます。なんか萌えに近づいてる気がします」


 インスピレーション? 妄想大爆発の方が今の照斗君にあってますよ。 


 「あなたが生きてることには反論しませんが、とりあえず息を止めていただいてよろしいですか? あなたの肺を通り排出される物はどんな気体でも有害廃棄物にしていされますので」


 「いいですね、いいですね。その言葉にオラ、ワクワクすっぞ! 」


 「なに言ってるんですか? ワクワクさんなんですか? ゴロリはどこですか? なにを作る気ですか? 君と私との関係において大きなヒビならもう作られてますよ。他になにを作ると言うんですか? マゾの新境地ユートピアですか? 

 

 「あん。ゾクゾクします。もうちょっとでイメージが具現化できそうです。僕の熱い熱い萌えを炎魔法を解き放てそうです」


 きっとその感情は萌えではないのです。変態の変態による変態のための大いなる変態心なのです。あと、私は決してドSではないのです。天使の天使による天使のための大いなる平常心を常に兼ね備えています。ドSを演じてるのは照斗君、君のためなんだからねっ。


 もうそろそろこの罵りを終わりにしましょう。案外罵る言葉ってのはとっさには浮かばないものです。最後はもうストレートでいいでしょう。時速170キロの暴言をお聞かせしましょう。


 「生理的に無理です」


 言った途端、照斗君の表情が哄笑がピークに達したと感じました。さらにとっさに彼は平手を前に向けます。


 「きたこれ! きたききたきたきたきたぁ! 心が萌える、燃える。今こそ我が願いにこたえよ! ファイヤーボール!」


 炎の球体が照斗君の平手から放出されます。正直私は驚きを隠しえません。もしかして今の照斗君にとって、罵られることが最高の萌え要素なんでしょうか?

いや、もしかしたら変態的な心は萌えに直結してるのかもしれません。これはいい実験テーマができました。感謝します。深く感謝します。


 「助手君! その気持ちを忘れないでくださいね。その気持ちこそが君の炎魔法のトリガーなのです。慣れてくれば破壊力のある炎魔法を使いこなすとができます。とにかくイメージをもってくださいね」


 「はい! 唯花師匠!」


 「ではもう一度!」


 「はひ」


 ***


 炎魔法を照斗君に教えてから四日が過ぎた頃です。

 

 私は変態的な心が萌えに直結しているのか、照斗君を用いて実験しました。


 しかし、マンゴラゴラの効力が完全に切れた彼は炎魔法が使えなくなっていました。やはり性格が変われば萌えの属性も変わるというのが結論なのでしょう。あの時の照斗君にとって罵りはつまり萌え要素だったのです。


 私はまた魔術ノーベル賞が遠くに見えて落胆しました。


 ちなみに、私が萌えの影響を受けた作品は『涼宮 ハルヒ』シリーズです。



 


 〜〜今日の実験結果〜〜

 萌えという感情はひとそれぞれ。

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