第23話 救出ケースファイル2-10 かつての神道の神使候補 ニワの正体と見え始める裏の片鱗
嗚咽を漏らすニワの頭を掻き抱くようにして少し落ち着くのを待ってから、リイナは手を離し得心したように続ける。
「なるほど。やっぱりか…じゃあ、僕の世界の神とも繋がってるんじゃ呼び捨ては失礼だね。まだ動けないんでこのままで申し訳ありません。改めてニワ様。地球は日本国から参りました津軽屋 里比奈と言いm…グムッ!!」
日本に連なる神であれば礼を見せねば!と動けぬままニワに対し口頭で自己紹介を始めたリイナだったが、すぐに不満顔を見せたニワの柔らかい唇で言葉の続きを遮られる事となった。
「ンンン!!!プハッ!ちょ、ちょちょちょちょ、何するんですかぁ!?」
「他人行儀 ヤ。折角知り合うことができたのに…それに、ヤタ…懐かしい顔にも会えたのはリイナのお蔭。タメ口でいいよ!」
すぐにニワを引っぺがして真っ赤になった顔のままで言葉を遮られた行動に対して抗議するものの、やっぱり不満顔を見せる彼女は親しく接することを望むのだった。
しばらくお互いに難しい顔をしながら見つめあうが、最後はリイナが折れる事となる。
「はぁ…わかった、わかりました。ごめんねニワちゃん。」
その謝罪の一言でニワの表情はパアッと明るく笑顔になるのだった。まるで向日葵のように。
「うんいいの!リイナだから許す。」
どうやらご機嫌も治ったようで二人に笑いが戻ると、リイナは色々な事実を彼女の口から知ることになるのだった。
やはり【ヤタ】とは、リイナが思っていた通り熊野大神(素盞鳴尊)に仕える存在として信仰されているヤタガラスであったようだ。それなら、先ほどの戦いのときのスサノオ様の言葉にも納得ができる。
(ほう…こんなとこに…まあいいや。)
自分が派遣したはずなのにこの扱い…同情すらしてしまうリイナであった。
元々は、
【八咫烏(ヤタガラス)】と同門の【鶏(ニワトリ)】の神であり、現在の日本では福島県、山形県、宮城県、栃木県、茨城県に渡って存在する、ニワタリ神社の祭神として知られる。
日本神話の時代、ヤタガラスと共にやがて生まれ来る神武天皇を大和の橿原まで案内する任を負うはずだったのだが、折悪く別の世界で腕試し中だった【素戔男尊(スサノオノミコト)】が、地球に勝るとも劣らぬ統治神が不在であった異世界を発見し、このまま朽ちるにはあまりに惜しいと判断されたため遣わされたのだそうだ。
それが、ここ
【 麗しの国デルゼルス】
だったのだという。
しかし国を神的に平定し護るのは、知識も乏しかったニワタリ神には苦労の連続であり筆舌に尽くしがたい荒行であった。
だがしかしそれはいつしか成ったのだ。代償として、もう日本に帰る力を失うことになるのだが。
そしてその後、科学技術の進化で世界が平和を謳歌していた時代の絶望の襲来、そして撃退。この戦いで生み出されていたデルゼルスの神のおよそ九割が消失。残る殆どの柱達も、世界に放置されていった【ヤマタノオロチ】始め数多の生物兵器との戦いで消えていき、再び世は暗黒の治世となったのだ。
その時、ニワが残った力を振り絞って最強の生体兵器ヤマタノオロチを飛ばした先がたまたま日本だったのだという。
まさかこの世界が日本神話にかかわるようなことになっていようとは…話を聞きながらリイナは引き攣った顔になるが、まだ話は終わらない。
【G】の襲来から人類は華麗なる復活を遂げる。元々、スサノオ様が絶賛するように地球に近い清涼な星であったため今度は、科学技術と精霊や妖精が共に共存できるよう魔導科学での発展をしてきたとのこと。
それ故、魔法学が発達し徐々に科学は衰退していったのだがそこに【G】の忘れ形見である二匹の龍が現れたのだ。
一つは三つ首のオロチ。そしてもう一つが、先ほど倒した伍双龍であった。時空が歪むほどの戦いとなり、人類は多大な被害を出したものの撃退と相成った。伍双龍は取り逃がしたものの三つ首だけは消滅させることに成功。巨大な質量を以ての超高速実態弾で消し飛ばしたのだが、余波が時空を割いたこと。
そしてその割かれた時空の先が、またもや地球で、ロシヤと呼ばれた大地であったことがニワの口から語られるのであった。
それを聞いたリイナは
「やっぱりね…ツングースカ大爆発の原因ってそれだったと…」
あまりにも話の規模がデカすぎてあきれるばかり。
「そして…休眠状態だったオロチが出てくる条件になってたのが、異世界からの来訪者。その条件を作ってしまったのが、向うのラピスジェイドが眷属のヒサルキだった。全部私のせいなの…ゴメ、ゴメンなさ…い…うぅっ…」
成程。オロチのフラグを作っていたわけだ。でも、なんで日本にそのチャンネルが繋がってしまったのかはいまだ不明である。
ともあれ、また涙を流し始めたニワの顔を再び優しく抱きしめるのだった。
ニヤニヤニヤ
イラッ…
ニヨニヨニヨ
イライラッ!
「何か言いたいことあるなら口に出してくれないかな舞?」
「いいえ~別に~。」
ニヤニヤニヤニヤニヤニヤ
「くっ!」
(おせっかいなおばちゃんか!?)
表情はだらしなく目尻がトローンと垂れ下がって、見守るような視線の舞。
(僕が動けないと思って…でも…)
二人の姿は実に絵になるのだが、見守るというよりは、その絵面すら己の妄想の燃料になってしまっているような気がしてならない。
しかしどう言うわけか、先程の会話はすぐ隣にいるはずの彼女には全く聞こえていなかったらしく、驚いたような節もない。その為泣きべそかいたハリヤを慰めているようにしか見えないようなのも舞が自重を忘れる原因であり、リイナが苛立つ原因でもあるのだろう。
ここぞとばかりにその微笑ましい光景をガン見する舞の顔に苛立ちを隠さずリイナは、気恥ずかしさも手伝って突っかかる。
が、どこ吹く風な彼女は口に手を当てて今にも
(あらあら、まあまあ。ごゆっくりぃ。プーっ クスクス。)
とか言い出しそうな顔で立ち上がると、シャンクの方へ向かうのだった。無言で。
ずっとリイナたちの方へ視線を向けながら。無言で。
大事なことなので2回
「手だけでも満足に動かせたなら!!」
恐らく石でも投げていたに違いない。未だ動かぬ体が恨めしい……
~~~~~~~~~~~~~~~~
(バッ……馬鹿ナ!大蛇龍ヲ媒体ニシタ生体決戦兵器【ドラグマ】ニヨル超高高度カラノ【スターパニッシュメントレーザー】ヲ反射シタダト!?)
一人は唖然とした表情と信じられぬといった言葉を溢して、何かの起動操作悍|(だった)であろう極薄のタブレットを床に落としてしまう。
もう片方の影は、未だに結果に対し納得していないらしく、苛立ちを口にする。
(クッ……科学技術文明ガ滅ンデ後、魔法学及ビ魔素粒子デ発展シテキタ辺境星ダト思イ油断シタワ!)
(……主星ヨリ、コノ星系ノ放棄命令モ出テシマッタシ…エエイ!忌々シイ!!)
二つの影が、地球上のあらゆる言葉とは全く由来が異なるであろう言語体系でいきり立つ。タブレットを持っていた方の人影が憎々しそうに言葉を吐きながら、立体モニター前の空間に浮かぶ操作パネルを手で払いのける。
絶対の自信を誇っていたと思われる、
【ドラグマ】
なる兵器が自身の言う(辺境の星の人類)に完膚なきまでに消滅させられたのだ。余程腹に据えかねたのだろう。
実際、その消滅劇を演じたのは異世界よりの訪問者と神話の神々の働きがあったこそなのだが。
(コノママデハ済マサヌ……全テノ世界ヲ支配、ソシテ管理スルノハ我ラナノダ!)
覗き窓のような所から徐々に青い光が差し込んでくる。相対的に夕暮れ時に差し掛かっているのだろう。己がモニタリングしていた青き惑星よりの光が、薄暗かった空間に差し込むにつれ、口走っていた者の姿をうっすらと照らしてしていく…
((見テオレヨ……))
照らし出されたのは、小さめの背丈に対し頭部は異様なほど大きいその異形の姿。人類のそれとは一線を画していた。
口惜しそうにそいつらは、そう捨て台詞を吐くと再び操作パネルを引寄せ何かの起動スイッチをタップしたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あっ、なんだろあれ?流れ星かな?」
ハリヤの頭を抱いていたリイナは日が落ちかけた綺麗なオレンジの空に、一筋の光を見た。
この惑星の衛星だろう。夕空に浮かぶその星は地球で見える月に比べ若干大きく、登ってくる時間が早い。月とはまた違った美しさを感じる。
その衛星表面より、一瞬だけ光の筋がたなびいたのを目にしたリイナはそう呟くのだった。
(そういや、七夕って今日辺りだったかな……)
などと、暢気に思いながら手触りのよい髪をすきつつ、花畑のような彼女の香りを堪能していると、世界各地への伝令伝達派遣作業が一段落したのであろうガリアとスパリシアがこちらへ微笑ましそうな表情で近づいてきた。
「ははっ。もうハリヤが懐いてしまいましたな。しかし、物凄い力を見せていただきました。憧憬すら抱かされてしまいしたよ。ハハハッ。」
「ほら、ガリア!そうじゃないでしょう?この世界の最大の問題であった伍双龍討伐を異世界からいらした、リイナ様達に任せてしまったのですよ?まず言うことがあるでしょう……」
スパリシアが、勝利の立役者であるリイナに向ける言葉が違うのを彼に諌めると、リイナはゆっくりニワ|(ハリヤ)の頭を解放して頭をゆっくり左右に振り否定の意を表す。
「御礼など不要であります。国の機関に属する僕らはただ単に当たり前のことをした。その結果に過ぎないのです。ですからその…頭を上げて貰えませんかね?」
リイナが気が付いたときには、二人は深々と頭を下げ謝意を示していたのだった。
勿論気恥ずかしいのもあるが、リイナ一人で成した結果ではないのだから
「いいえ。この世界のイザコザはこの世界の者の手で解決するのが筋。それを異世界の方々に危ない目に遭ってまで解決していただいたのです。これで感謝の気持ちが持てなかったら人として何物にも劣るでしょう。ありがとうございました。」
スパリシアの言葉を聞いて、どことなく価値観や考え方が日本人と似通ってるな~と思ってしまう。勇者というこの世界のトップに近い二人がこんなに礼儀正しく、そして他人を貶めるような俗物ではないのはある意味凄いのではないか?
そう考えると、この世界はある意味一つの進化の答えにたどり着いている気がしなくもない。そう考えるのは早計かな?
またまた取り留めのない思考の彼方へ飛んでしまったリイナに、ガリアは苦笑を洩らすのだった。
「そだ!さあハリヤ。そろそろ城への伝令係が戻ってくる頃だ。リイナ様を離しな。」
そう言われて、まだリイナに顔を擦り付けていたハリヤが一瞬だけ動きを止めた。
そしてその体勢のままゆっくりとガリアに顔だけ向けると、プクゥッとふくれ面になり目に涙を溜める。
「こりゃ!何時までも回復の邪魔しては失礼だろ?なっ?だから早く……」
グリグリグリグリグリグリグリ
言い終わるか終らぬ内に即顔を戻し、先程より激しく顔をリイナに擦り付ける行動に戻る。まるで離れるのが嫌であるかのように。
(ええぇっ!?)
窒息しそうなリイナは
(最近の僕の唇…安くなってしまった…泣きたい)
そんなことを思いつつ意識を手放すのだった。
でも気づいていないのだろうか?己に唇を捧げてきた者全てが例外なく
【神格を持つ者】
であるのを。
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