第19話 救出ケースファイル2-6 対決‼大蛇(おろち) 数千年ぶりの咆哮! 古の脅威と降臨せし荒神

これほどの距離があってなお、どんな容貌かわかるのはどんな絶望感より身に染みて死を身近に感じる要因となろう。


蛇 


地球上のUMAでたとえるなら西洋のシーサーペントのような…海面から出ている部分の頸部はそういっても差支えないのだろうが。顔面部は龍といってもおかしくない風貌をしている魔物であろうそれは、とても水中とは思えないほどの速さを以て脇目も振らずこちらに近づいてきていた。


見えている限り、距離は目算でおよそ2㎞といったところか。

それなのに見えている頸椎部分だけでも、眼前で比較して握りこぶしほどというある種、馬鹿げた大きさに気付くとLCRA一同からは余裕が消えていく。恐らく、目の前にそれがいたなら大きめの小山クラスになるのではないか?

皆、どのように対処するべきかに頭のメモリを使用しているため無駄な動きが出来ないのだろう。


何故かリイナを除いて…


シャンクの手下にはかつての黒餓龍ヴァルザーズのような体長2,30メートル程の手下がいたこと(魔族を創造した的な意味で)は有ったが、それ以上の大きさを持つような存在と相対したことはなかった。というより、自身が蹂躙していたヴェルゼイユにはそのような存在はなかったから。

舞もシャンクの率いていた軍勢にそんなクラスの魔族はいなかった故、対処法としては持ち前の力技以外の発想は出てこない。


皆がその魔物らしき接近体を待ちの姿勢で眺めていると、


「また出やがったのかアレは!?不定期にここら辺を荒らしまわりやがって!!!なんで現れるかわからんけど久々に仕事できらぁ。」


まるで過去にも相手したことがあるような口ぶりの台詞をウンザリした様子でこぼすガリア・ハルバートがいた。

リイナがこの世界の一般人と勝手に断定し、避難を促した第一遭遇者である。

その発言に思わず三人は振り向き、先ほどの避難指示を実行させようと言葉にしかける。


「デルゼルスを治めし、ガッタルシア王国が最強の勇者、神壁三賢人が一人【無頼剣ガリア・ハルバート】がお相手だ!!」


その名乗り口上に、思わず言葉を詰まらせるリイナ。

その言葉を全面的に信用するなら、避難はおろかもはや事前調査は半分以上無意味になるからだ。

先ほどまで、談笑すらしていたこの男がこの世界を治める国家の、しかも「勇者」であるという。

LCRA本部からの調査内容である、

「大気組成・動植物の方向性・夜空に瞬く星の相対位置と所属しているであろう銀河団及び銀河圏の特定」

は置いておくとしても

「文化と文明レベル、原住民の政治形態及び統治状況」

は、目の前の男がほぼ把握していると思われるからである。


「ガリアさん…あなた、この世界の勇者なんですか?」


「あはは…なんとも胡散臭いでしょうが。一応。かつて100年以上前になりますか、異次元からの侵略者集団【邪属衆(イビルヒューム)】を撃退せしめた者の一人として王国より叙勲を受けておりまして。」

「「100ッ!!!???えっ!?あなたはおいくつなんですか!??」」


ガリアのセリフが信じられないといった体のリイナに訊ねの答えを返すと、間を置かずに舞と共に聞き間違いではないかと更に聞き返され苦笑を浮かべるガリア。


「まあ信じられないかもとは思いますが、今は目の前の奴に集中しましょうぜ!…うおお!!現臨せよ神剣【風凪(カザナギ)】」

ガリアが左の掌を上にし、力を集中させるとそこより剣の柄と思わしきものがせりあがって来た。鍔の辺りまで出てきたそれを右手で勢いよく引き抜くと見事な刀身の風凪(カザナギ)と呼ばれた、まさに


日本刀


が現れたのだった。

まさにファンタジー。そう思わざるを得ないリイナと舞は、その光景を堪能すると感嘆の息をひとつ漏らし、神経を切り替えてかなり近づいて来ているであろう奴に目線を戻す。


が次の瞬間、ひとつと思われた頭の周りより4つの大きい飛沫があがり、計五本のドラゴンのような鎌首がもたげられたのだった。まるで日本神話に登場するあれのようである。


「は…はぁぁ!?なにあれ!!?マジモンのバケモンじゃん!!」

「うん。どうやらヤマタノオロチの亜種みたいなもんだろうね。まあモンスターであり、僕らが倒すべきものであるのは変わんない。」

「ふん。新生した俺の力試しには不足ないな…」

舞は、初めての異世界の魔物にビビりまくっている。

リイナは先ほどと変わらず落ち着いて対処を考えてのことだろうか、動揺する節は見当たらない。シャンクに至っては、早く自分の本当の力を試したくてウズウズしているかのようでもある。


もう、距離は数百メートルもない。そろそろ敵の全身が見えようとしている。目算で全高7,80メートルはあろうか…五つの口からはそれぞれ属性が違うのだろう、 


スターダスト

紫霧

電撃


が漏れ出している。

今まさに、それらを吐き出すのだろう。一行が身構えた瞬間



トプンッ



何の脈絡もなく海中に消えるそれ。しかも数秒経つが上がってくる気配がない。


「「「っ!!???」」」

「あっ!」

戦闘の腰を折られて間抜けな顔をする三人は致し方ないのだろうが、ガリアだけは得心したように声を出す。


「あ、あそこらへんはですねぇかつて海中火山の火口がありまして、小島状態だったのですが100年前の戦いで自分らが【邪属衆(イビルヒューム)】を吹き飛ばす際の質量弾として削り取ったんですわ。おかげで結構な深さがあったと思います。わははははっ」


(((この緊張感を返せ!!)))


三人は心の中で声を大にしてガリアにそう突っ込むとジト目を向ける。

この数分間のシリアスな流れが一気にギャグになってしまったのだ。仕方ないと思う。


だが、悪意というかそのような塊は未だ衰えず此方側に伝わってきているので、そのうち自力で這い上がってくるのだろう。


「でもすぐくるよ。今のうちに一か所に固まらず広く散開して迎え撃とう。ガリアさんも戦えるならこれ以上ない嬉しい誤算だし……来る!!散開ぃ!!!!」


リイナの声が途切れるや否や、海中の火口よりオロチが現れるのだった。

五本の首から放たれる五色のブラスター状のものを地面方向に吐き出して中空に浮いてきたのだ。あの巨体を浮き上がらせる位なので、威力の方は推して知るべし。


まずはオロチが着地する瞬間に、すでに上空に飛び上っていたガリアが風凪を振り下ろして斬撃を食らわせる。

「風切断破ァ(かざきりだんぱぁ)!」

ひとつの斬撃が無数に分裂を起こし大蛇に降り注ぐのを、左の首から火炎、右の首からスターダストを掃き出し極度の温度差による水蒸気爆発のようなものを発生させ相殺。

この真夏のような気候下でダイヤモンドダストが発生するくらいなので恐らく液体窒素並の極低温。炎の方は近くにあった岩石が瞬時に蒸発したので、少なくとも1万度といったところだろうか。


いずれにしても破壊力は、現代の戦略兵器クラス。


次いで、でかい四本足の重心を一気に左方へ傾けたと思ったら80メートルを超えるだろう巨体にもかかわらず、器用にも体を一回転させ自身の背後に生えている巨木のような尻尾の鞭が、左からシャンクが放ったであろうゼッツァーによる刺突状の衝撃派をいとも容易く跳ね除ける。


尻尾の鞭で発生した衝撃波は尋常ではなく、周辺の林を軒並み打ち砕いていく。

寸前で上空に逃れたリイナと舞はジャンプの到達点にお互いの武器がクロスするタイミングで同時に斬撃を放つ。


「秘剣 斬光一文字ィ!」

「いくよヴェルたん!チェアアアァ!!」

黄金の軌跡とピンクの斬光が、バッテンを描きオロチの首の付け根にまともにクリーンヒットしたかに見えた。


一帯はその爆発の余波で巻き上げられた砂塵により視界が途切れる。

四人は着地とともに残心を強めつつ、相手の出方を待つため息を整えるのだった。


この間…  


わずか五秒足らず!!!!



やがて砂煙が晴れると…


五本の首を体中に覆いかぶせるようにして体をガードしていたオロチがいた。まったくの無傷!

だが、そのままの状態で微動だにしない。やったのかとも思えるが、これだけの存在がこれしきで何とかなるほど甘くはないのはよくわかる。


この短時間の攻防のやり取りでリイナは納得する。

水蒸気爆発の原理を正しく理解し、遠心力による体の制御を知らなければこれ程の攻防を繰り広げることはできまい。このオロチは決して知能は低くないのだ。

少しでも慢心を起こしたらその時点で、地を舐めるのはこちらであることを一同はしっかりと感じたのであった。


「こいつ…ヤマタノオロチの眷属とかいうレベルじゃない。まさにそのものだよ!」

「やっぱそうか…たはぁーきっついなぁ。」

「ヤマタのなんたらは知らんが、いい。イイゾこの感触。楽しめそうだ!」

リイナが自身の握るアメノムラクモから伝わる感触で、おぼろげながら理解した事を伝えるとやっぱりなというように納得する舞。逆に闘志に火が付いたらしいシャンクは、三白眼を見開いて獰猛な笑みを浮かべ牙を剥き出す。意外にこいつ戦闘狂?


それとはまったく違った反応を示したのがガリアであった。


「八股のオロチだって?!まさか天地開闢の獣、八股の首を持つ魔獣のことですかい!?」


「「「ふぁ!!!??何その二つ名????」」」



何かわからないが、このデルゼルスにはヤマタノオロチが元々生息していたような発言が彼から飛び出したから、それを聞いた三人は思わず聞き返さざるを得なかったのだった。ちょっと間の抜けた訊ねにもなろうというもの。

未だオロチが動く気配がないので、警戒は強めつつもガリアに詳細を問うリイナ。


「確かに日本には、神代の世、神々がまだ地上におわした時代に神民を襲っていた【八岐大蛇(やまたのおろち)】という怪物がいたということが神話で伝わってます。およそ二、三千年前と言われていますが…」


「ああ、そのくらいの時代でしたらほぼ間違いないかと思います。このデルゼルスにも同時期の神話が残っておりまして…」



ガリアは、自身が知る神話を語っていく。






かつてデルゼルスを創造した神がいた。

この星で人類・そして文明が広く育ち、進化を続け始る最初期に天空より災いの存在降り落つ。異形を引き連れデルゼルスの地を我が物にせんと蹂躙するも、創造神の軍勢により再び空に還って行ったのだという。

しかし、やつらは凶悪な置き土産を残していった。自身すら制御不能であった異形の軍団である。

その中でも、知力に優れ他の異形を統率し始めたその八股の突然変異体を持て余した神々は次元の狭間に押しやって、ようやくこの地に平和が訪れたというもの。





「それが、自然界には存在し得ぬ八つの災いを持った【天地開闢の獣、八股の首を持つ魔獣】であります。まさか、そちらの世界に渡ってなお破壊を行っていたとは…」


それを聞いたリイナは、俯いたまま口角を引き上げるような邪悪にも見えるだろう笑みを浮かべると、バッと面を上げ未だ動きを見せぬオロチに声を張り上げる。


「テメェの親玉だったのかぁ!俺の嫁の櫛名田比売(くしなだひめ)を喰おうとしてたのはぁ!!!絶対ぇ許さん!!!!」


今まで聞いたことのない声で咆哮を上げるリイナを見、ビリビリと肌を刺す怒りの波動を感じて舞が呟く

「そら怒るよね…」


「その天地開闢のなんちゃらを葬ったのは俺だぁ!!カカッ。日本を襲うならまだしも、嫁を狙った罪は重いいいいぃぃぃ!!!親族百代に渡って滅してくれるわぁ!!!」


リイナはそう叫ぶと、その小さな体から質量保存の法則が乱れるレベルで莫大な神気を迸しらせ、辺りを凪いでいく。怒りという生半可なものではない。もはや祟りや自然災害クラスの影響である。

するとその神気に呼応するように、手にしていたアメノムラクモが形を変え真の姿を見せるのだった。


「この剣知ってるかぁ?てめぇの親玉から出てきたもんだ。見覚えねえかぁ?!てめぇも、親玉がいる黄泉路に送ってやるよ!来いやあぁ!」


自身に向けられる怒気を感じたのか、ゆっくりと体を包んでいた五本の首が動き出し目の前に浮かぶリイナを視界に収める。準備は万端のようだ。


「我は須佐之男命(スサノオノミコト)!その身で恨みを思い知れぇ!!!!!」


数千年ぶりの因縁の対決が始まる。

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