第18話 救出ケースファイル2-5 転移転生行方不明者捜索業務に於ける初事例 神が救済を希った先は日本国!

来たよ…やっと来てくれたよ



うん…

うん。ようやく願いが叶うときが来たね。



そうだね…長かったね 



これで安心して任せられるね。



わたしたちの

わたしたちの




《私達の魂を解き放ってくれるのを…》







凡そ通常の時空間とは思えぬ、光が全方位凡てを包み陰の存在を許さない場所で二つの概念が言葉ではない理解を越えた方式で意思疏通を図っている。 

神と呼んでも差し支えのない存在感を溢れさせ、それらは二つの身体を形作る。鏡を覗き込んだかのように全く同じ顔形を現していくに従い、空間も見た目相応な幼さを感じさせる部屋へと変化を遂げていく。

概念と呼んで差し支えなかろうそれらが瞬く間に二人の少女の姿を形成していくと、其れが自然であるかのようにお互い向き合い指を絡めながら手を繋ぎ、目を閉じたまま額をそっと触れ合わせた。

見た目なら未だ成長著しい年端もいかぬ少女達のようにも思える。

会話的な思念波状のやり取り内容は漠然としていて第三者の耳に入ったとしても、到底理解できないものではあるが…

それらには確り意思の力が根付いているようである。木霊することもなく響きに似た何かは掻き消えていくのだった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



時は1945年。

2度目の世界大戦の末期。茹(う)だるような大気の湿気が、肌にまとわりつき不快感を感じさせる夏日。

ほぼ敗戦が濃厚となったその7月某日深夜、A県の港に近いある街の長の屋敷にて、年端もいかぬ者達だけでも大戦の戦禍より逃れさせるべく、話し合いが開かれていた。

対象とされたのは、下は5歳より上は14、5の身体的事由等で徴兵を免れた未だ幼さの残る男児女児のみ。

これらを日々悪化する戦災から少しでも生き永らえさせるため、県でも有数の高さを誇るH山の山中に隠遁させてやり過ごさせようというものである。


何故(年端もいかぬ者達)だけなのか?


それは、戦中という時期もあり敗戦の色が見えてきた国の軍部は、非戦闘要員である一般国民を空襲等敵国の攻撃より救うことをおざなりにし、あまつさえ、人々が爆撃を恐れ勝手に避難することによる民の戦意低下を恐れるあまりA県知事にも圧力をかけてきたためであった。

愚かにも国の威信という名の下、最早末期の暴走の様子を呈していた軍部が、箸にも棒にもかからぬ【矜持】を優先するあまり、国の根幹を成すはずの国民の保護を後手に回すような愚策に打って出るのだった。


遂に軍部からの圧力に屈した県知事が県民に出した勅令は


《自らの家を捨て山中に勝手に避難するものあらば防空法により、処罰の対象となりうる》


というものであった。

つい先日、敵国爆撃機より無力な一般市民の早期避難を求める大量のビラがばら蒔かれていたにも関わらずだ。

その時、軍の対策本部は県下にいた兵を動員させビラを粗方回収し避難警告を無き物としたのであった。国をあげての隠蔽工作である。

回収は即時行われたためその事実を知らぬ者の方が多数であったが、空襲の予告を知りえた者には厳重な箝口令が敷かれたのであった。

だがしかし、人の口に戸立てられぬ。

この街の長も事実を知った後、最低限次世代の子供達だけでも逃がそうと寄り合いを密かに開いたのだった。


「儂らはもう死ぬに恐怖はのうなっておる。じゃが、子供達は別じゃ。例え戦に国が勝とうとも、担っていく国民がおらなんだら国の体をなさん。何としても逃がすのじゃ!」


「だな。お国には絶望した。民への補給もままならぬのに戦況有利などとは片腹痛い。間違いなくこの戦に未来はない。それならせめて子供達だけでも。」


「きまりじゃな……即避難誘導を行うのじゃ。時は一刻を争う。」


寄り合いの場に集まった老人や子の母親達の腹は、決まっていた。

一家の大黒柱である徴兵された男達や自分らは犠牲になろうとも未来にかけたのだ。



決定が下されて後、丑三つ時前に街中の15歳以下の未成年ほぼ全員が闇に乗じて大人達の手筈により山に紛れる準備を完成させ出発に漕ぎ着けたのだ。

これより、「山に向かう皆で力を合わせて戦の終結まで山中にて耐えるのだ」との長の厳しくも暖かい叱咤を背に受け、兵や官権らの警らから隠れるように街を後にし、時折人の気配から逃れつつ山地の奥深くを目指す一行。その子供達が暫しあとに眼にしたのは、B29の焼夷弾による絨毯爆撃にて、家屋が赤々と燃え盛る故郷であったという。

 


「……瑠璃。これからどうなるんだろうね…」

「……翡翠。そうだね。どうなるんだろうね。」

山中に歩を進める者達の中の、可愛さが際立つ双子の女の子が口を開く。元々、細々と農業に勤しんで来た両親の下で育ち、十になった今は将来は器量よし確実と言われる程の容姿に賢さをみせていた二人である。


幼さもあれども最早何かを主張する余裕すらなく、ひたすらに明日が見えぬ山中への行軍を続ける酷く疲労の色が見える一行であったが、元より快活であった瑠璃と翡翠はそれでもそう呟かざるを得なかった。


毎日笑いがあって、元気に学びそして遊ぶ。そんな当たり前の日常は既に無い。


「「(日本の未来に明るさが戻りますように……八百万の神々様お願いします…)」」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



((全ての者に救いのあらんことを…)) 

想察するかの如く、二つの概念は少女形態から存在感の揺らぎを強める。

刹那、逡巡しているかのようであるが誰も受けとる事のないメッセージにも似た思念波を漏らすのだった。









ところ変わり海辺




「俺は、ガリア。ガリア・ハルバートといいます。日本については、話だけではありますが存じ上げております。自分が知る限りで後程詳細を述べさせていただきたい。その前に改めて。こっちはご覧の通りハーピーではありますが、敵性はありません。名はハリヤです。おいハリヤ、改めてご挨拶……どうした?」


漸く落ち着いたのか、両手を合わせ拝むのをやめた男は目の前の三人に自己紹介を始めたのだが、ハリヤの目線が明後日の方向を向いているのに気が付き問い掛けるも反応は薄い。



「……オウッ。スクイアランコトヲ」

「はっ?何がだ?腹減り過ぎておかしくなっt……いだだっ!やっ、やめっっ!こらハリヤぁ!!」

「ヌシ、デラケートサガ タリナイ。ハリヤイツモドオリ!」

「デ リ ケートな!ってイデデ!」

ややあって、ハリヤはそんな脈絡の無さそうな言葉を口にした。

それを聞いたガリアは、いつものように腹空かした状態になるとハリヤが繰り出す謎の踊り(本人いわく食べ物に対する感謝の舞)が始まるのかと予測して言葉でイジるのだがハリヤにとっては心外だったらしく、リイナら三人の前ということもありえらくご立腹のようで、羽を広げバッサバッサと主を責め立てる。

更に追い討ちを掛けるようにハリヤの言葉の訂正を口にするガリアは、日陰とは言え灼熱の砂浜に埋もれる羽目になったのを目にしてリイナと舞は乾いた笑いを漏らし、シャンクに至っては明後日の方向である水平線を見つめていた。

死んだ魚のような目で……



そのお陰だろうか、誰よりも先んじて海からの異変に気がつくシャンク。

なんだろう?

海上を走るように見えることから鳥にしてはおかしく、かといって魚類だとすればかなりの距離があるのに馬鹿げた大きさのような……

刹那

目線の先、本当に空と水平線の境目から何かが這い寄ってくるようなおぞましい感覚が背筋を走る。



あれはいけない!



そう思考が判断した瞬間そこにいた全員が、海より近づいてくる違和感の塊…いや、どちらかと言えば悪意とか憎悪に近しいそれを認識するに至る。

「総員第一種戦闘態勢とれ!出し惜しみは無し。あれは不味すぎる……ガリアさんはハリヤと共に林の奥へ避難してください!早く!」


リイナは、不味すぎるとしたそれを感じて刹那で判断を下し、ガリアらに避難するよう求め舞とシャンクに戦闘準備を促した。この世界での拉致被害の情報を集めるための事前調査がとんだことになったとゴチりたいが、今はそれどころでなくなるのが明白なため緊張感のみ高めるのを優先。


これ迄の比ではない闘いが繰り広げられるのを予感するように、舞の手にはルフロティアが自然に現れて震えそうになっている彼女の手に、優しく握りこまれていく。

同時に、いつの間にか舞の隣に半透明状のヴェルフェス-舞が召喚されていた世界の創世の女神-の姿もある。


「大丈夫でございます舞さん!臆することはございませんでございます。なにせ勇者と魔王と神国民のパーティーでございます。気張って参りましょう。」

「うん。ありがと、ヴェルたん!」

女神の一言が、舞だけでなく一行にとって何よりも心強い言葉となり勇気を奮い立たせる結果になった。


「…だね。んじゃま、いっちょやりますか!アメノムラクモぉぉぉぉ!!」

「俺も自らの世界に帰るまではやられてやる訳にはいかぬな。シャングラム改め、シャンクマックスモードォ!!敵を滅する為現れ出でよ魔剣ゼッツァー!!」


神剣「アメノムラクモ」を現出させるリイナの身体をヴェルゼイユで見せたような黄金の輝きが覆い包み莫大なオーラを放つに至る。

シャンクの方は、いつの間にか目映き白銀の光を放つ西洋風の甲冑に包まれており、手には魔剣と呼ぶには些か神々しくもある(ゼッツァー)と呼ばれる肉厚の大剣、所謂両手持ちのバスターソードのような剣を手にしていた。

「ヤタノカガミまで出す羽目になるなんてね……まあいっか、皆準備いい?」


「うむ!」

「オッケー!」


今ここに





最強のパーティーが誕生す。

近づいてくる深淵の闇との闘いの火蓋が切って落とされようとしていた。

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