第16話 救出ケースファイル2-3 突入!デルゼルス 嫉妬心と転生せし者

先の若者3人が遭遇したモノノケによる神隠し騒動は、警察の調査の結果、被害者は現場で肝試しをしていた二人のみであったことが判明した。被害とはいうものの、毎晩夢で怪物に追いかけられる等の軽いトラウマ程度であるが。


詳細を述べると、連れ去られた被害者とおぼしき(よっちぃ)と呼ばれる青年は、その日自宅から一歩も外出していないと本人から確認が取れたからだ。つまり、結果として被害者の二人はよっちぃの姿をした 「ヒサルキ」なる怪異に化かされていたことになる。

怪異や心霊事件には頻繁にではないものの、割と散見される状況であったと言える。


しかし、頻繁ではないと言うが今回の案件は少なくとも戦中戦後から噂が流れており、異世界に取り込まれた被害者は二桁にも達するのではないかとする警察からの情報に、事前の現地調査で訪れたリイナとシャンクは心中穏やかではなかった。いろんな意味で。


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リイナは「ヒサルキ」との遭遇から後、LCRA本局に今後の任務及び付随するミッションについての説明で出頭命令を受けており、

 

「今回は、転移先とおぼしきデルゼルスに事前調査に出向いてもらう。内容は、大気組成・動植物の方向性・夜空に瞬く星の相対位置と所属しているであろう銀河団及び銀河圏の特定。それと、文化と文明レベル、原住民の政治形態及び統治状況、以上だ。必要な機器はつくばの研究所から既に搬入済みである。他に必要と思われる物は科学技術庁の方多切(かたぎり)か、宇宙航空技術局の四方山(よもやま)技術主任に頼むといい。では、特尉!健闘を祈る。」

 

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との任務を上官より、数時間前に拝命していたのだった。  


そんなこんなで手始めの事前調査に赴いた三人なのだが… 

今現在、触手との初邂逅を果たし銃撃戦を繰り広げた山中でも、特に重力と磁場に狂いが生じていた中腹の僅かな隙間(広場)にいる。

 

が、

 

すでに現地入りする前から問題だらけ。主に感情的な意味で。

お互い自分の心情を素直に吐露出来たならここまでギスギスすることもないのだろうが、やはり人の心はそう簡単では無いという証であろう。


舞とシャンクはそうでもないのだが、一番己の行動を理解出来ていないのがリイナである。

不意にとは言え、寄り添う形になった舞とシャンクに対し無意識に剣撃を振るった感情を理解していないという点で。


確かにリイナは、自分が舞を救いだし日本に生還させた自負があるため、舞がえらんだLCRA職員という路に責任を負おうと無意識下で庇護を全うしているつもりである。が、同時に彼女の自由奔放さに、憧れに近いものを抱き始めていたのもまた事実。つまり、持つものに対する持たざるものの【憧憬】である。

そんな舞が、他者に対し己に見せたことの無い一面を見せるのは我慢ならなかったが故の行動が、上記の振る舞いであった。


所謂、嫉妬。


リイナも早熟な天才なれど、人の子である。天才故、未だ学ぶべき他人との交わりは更に高みを見せてくれるであろう。

対する舞は、少しづつ自分に対する態度が軟化してきたリイナに「徐々に仲良くなれてきた」位の認識はあるのだが、たまに違和感を感じる事もある。それの正体は未だ理解していないのだろうけれど。


-閑話休題-


「んじゃ、転移座標合わしたら移動するよ。僕の手を繋いで。」

「りょーかーい!」 

「…うむ。」



リイナが腕にはめている腕時計型の転移装置で座標点を合わせ、そう二人に告げると各々返事を返す。


簡易世界線座標移動装置

それがこの転移装置の正式名称である。

地球の転移場所、時間を零地点として、向かいたい世界線へダイブするため(重力波・磁界・電磁波等)を複雑に交差させエネルギーを調整することによって空間を歪め、他世界との移動を可能とする装置であり、技術立国日本が誇る超最先端テクノロジーの結晶である。装置内部には地球上のそういった(次元の歪みや世界線の綻び等)特殊力場に作用させるエネルギー源たる反物質が組み込まれており、数回の世界線移動に耐えうる程度の燃料として小規模な対消滅から転移エネルギーを得ていると科学技術庁では説明しているが、リイナとしては「便利な秘密道具」位にしか認識していない。

天才とは言えベクトルが違うものは興味ないのだろう。



複数人で転移する場合、上限はあるものの装置使用者との物理的接触が必要なため、手を繋いでと言われて舞がリイナの右手、そしてシャンクが左手を繋ぐと、舞の左手とシャンクの右手が繋がれる。意図せずして環になり繋ぎあう格好となっている。

実際繋ぎ会うのは装置所有者とだけで事足りるのだが、そんなこと露知らず二人も繋いでいる。流石にこれは説明しないリイナに非があるが、それに気がつかないほど胸の内に今まで感じたことの無い感情が渦巻いていた。


「んじゃ……行くからね。」

リイナを中心として、直径3メートルほどの黄金色の光がサークル状に発生していく。徐々に周りの風景が歪みを帯びていき最終的に光に包まれた三人の姿が薄れて霧のようにかき消えていく。転移成功である。

元々、その場には何も無かったかのような静寂だけが残されていたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ミャー


ミャー



眼前には地球で言う「海」状のものが広がる風景が三人を出迎える。潮の薫りも殆ど違和感はなく、海であることを確信させるに足る情報が揃っている。

うみねこの亜種であろうか?ミャーと鳴き声をあげる鳥のような生き物も、来訪を歓ぶかのように飛び回っていた。


「多分ついたよ。」


転移前と同じ態勢のまま、ゆっくり目を開けて周囲を見渡しながら移動が成功したのを確信しそう呟くリイナに二人も目を開けて周りを見渡すと、地球の海岸線と変わらぬ風景に一息つくのだった。

「みたいだねぇ~。あぁっ、海が存在するなら水着持ってくればよかったぁ!」

「遊びにきた訳でもあるまいに自重せよ。」

「だよね~。失敬失敬!」


地球とさほど遜色のない景色に安心したのか舞がおどけるように言うと、ツーカーの如く真面目然なシャンクは冷静にそう突っ込む。

そんな何気ない二人のやり取りを横目に、リイナの胸中はキリキリ痛む。そしてそれを無理やり無視するかのように二人に指示を出す。


「さあ、やることは沢山なんだ。手分けしてミッションこなすよ!」

「はいよ。リイナちゃん、私何する?」


そう舞に訊ねられた本人は、何かを感じたのか瞬間的に視線を戦いの前のような鋭い物にしながら


「そうだね、まず…皆で戦闘開始…かもね。」

と、声色も戦闘時の抑揚で返す。 


「だな。何かはわからんが海より近づいてきてるな。」

合わせるようにシャンクも表情こそ見た目普段通りであるものの、剣呑な空気を張り詰めさせつつ応える。

リイナとシャンクは経験からか、目的不明の何かが接近してくる気配に合わせ戦闘態勢をとるのを横目に、舞も慌てて周囲に気を配り始める。ここら辺は、くぐってきた戦場の数がものをいう場面であるが故の差であろう。

態勢を整え始める舞を二人は無意識に前に出てサポートする。

 

遅れて、舞が神剣を現出させ正眼で構えるのを待っていたかのように海の方向、逆光になる果てなき水平線より高速度でこちらに向かってくる影を捉える三人。戦術的にも利にかなった急襲にすわ開戦か!?と思われる間合いで、いきなり急上昇という行動を取った鳥型の影。小型飛行タイプの妖魔やモンスターにはありがちな行動ゆえに上空からの襲撃を警戒し、各々は戦闘態勢を強めたその時、予想通り三人が固まっている場所の真上より敵性個体からの攻撃と思われる落下物が迫る。


……しかし

落下してくる物体が何なのか把握できる高さになったその時、突如として場に静寂が訪れた。確かに飛行接近してきた鳥型の影より放たれた物なのであるが、それにしてはどちらにも敵意というものが微塵も感じられなかったのを訝しげに思ってはいた。

落ちてきた物を脳が認識した時から時が止まったかのように皆動けず、落下物が重力で地面と接触するまで視線を離せずにいた。






ボタッ!




ボタッ!!




ボタッ!!!










魚である。


一人づつ足元に落ちてきたのは地球で言うところの鮭のような形状をした魚であった。


「!?」

「ッ!?」

「ッッ!!?」

上から舞、リイナ、シャンクの順である。


人は時として、脳のキャパシティーを超える物事に遭遇すると脳の破綻を防ぐためにフリーズを起こす。などという俗説があるようだが、まさかこんな時にそのような稀有な体験をするとは……とは、後の三人談。



「シッッ!シッッっ!」

動けぬ背後から、このフリーズを起こす原因を形成した先ほどの急接近してきた個体であろうか、皆の意識の隙間を突き鳴き声らしきものを、止まり木にしている砂浜に林立する樹木の樹上より響かせると、依然として敵意は感じられないのだが

「「「しまッッっっ!?」」」

三人が三人、背後を取られたと感じ上半身だけを振り向かせる。


三人が三人、右側より振り向き再び凍り付く。



三人が三人、絵にかいたように全く同じポーズをしていたからに他ならない。

これが日本なら、勝手に動画を撮られた上に有名動画サイトに投稿されミリオン達成した挙げ句にコメントは大草原不可避と言った状況であろうか。

一番後ろにいた舞は気がつかないであろうが、背中越しに目線が合ったリイナとシャンクは堪ったものではない。ただでさえ先程までギクシャクレベル以上に雰囲気がおかしくなっていたのに芸人か!?と突っ込まれるのも致し方ないポージングのまま固まっているのだから。


その先では、樹上に止まっているモノがゲラゲラと腹を抱えて悶絶していた。


「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラwwwwイラマセーwwwwアリシターwwwwゲラゲラwwww」


これは酷い。

特にプライドが高いリイナとシャンクは、今にも剥ぎ取りチャレン○に飛び出しそうな目線を笑う物体にぶつけている。目線だけで殺しが出来そうな勢いで。


 

そのままの態勢で。


「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラwwww」

爆笑に拍車がかかる笑い声の主。



冷静に見ると、鳥状の下半身に人女性型の上半身。腕はなく両手のある場所には鳥の翼を備えた、所謂人外、いわく怪物に分類される

【ハーピー】

であった。


フリーズから戻ってきた二人は、瞬間的にソレに飛びかかり瞬殺せしめんと技を繰り出しつつハーピーの眼前を捉えた刹那、魔物に分類され人語を解する知能はないとされるその口より信じられないものを聞かされることになる。


「シッッシッッイクナイ!シットゥッッダメ!シットミニクイ!イラマセー!!」



日本語ッッ!!?

ハーピーの顔前、最早キスの制空権と言える距離で再びリイナとシャンクはフリーズを興すのであった。


新たな邂逅である。

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