第14話 救出ケースファイル 2-1 新たな事件発生と異世界事前調査

「にげろ!早く早く!」

「待ってくれ!」

「やっつんが正体確かめようとか言わなかったらこんなことにならなkギッゴガガガッ……」

「おい?どうしたぁ!おいぃ!」

「ばか!構うな。走れぇ!」


今時の若者であろう。無謀な勇気ある若者三人が、有名な都市伝説の噂の正体を暴くため様々な噂のあるこの山奥へ肝試しにやってきたのだが、今まさにその噂の原因に襲われていた。これ程の恐怖体験をするとは思わなかったようだ。


「よっちぃ!よっちぃがぁ!」

「ゆうちん!!あいつはもう駄目だ!早く車に」


もはや、逃げ遅れている仲間を気にする余裕すら消え失せている二人組が麓に(いや麓と言っても人里から数キロだが)止めてある車に向かって全力疾走を続ける。暗闇ゆえにはっきりと見えぬ何かから必死で逃げ延びるために。


「ま“っ“て“よ“ぉぉ!ながまだろぉ。《ヒサルキ》と一緒に《デルゼルス》に“い“ごうず~」


「「いっひいぃぃぁぁああああ!」」


山の斜面を傷が増えるのをいとわないで下っているにも関わらず、謎の存在との距離が徐々に近づいてきている気がしてならない。

いや!確実に近づいているのだ。

その現実に発狂寸前で逃げる若者は、奇声を上げながら転がるようにかけ下っていく。

麓の車の姿を目に入れると、助かったとばかりに飛び込むがお約束。

エンジンがかからないのだ!いくらキーを回せど、生還へのエンジン音が響いてこない。すでに謎の存在は、今男達がおりてきた道なき道を下りきって姿を現さんばかりにガサガサと音をたてて近づいてくる。


「いやだぁあああ!!はっ早く車だせえ!」

「かっかっかんねぇんだよ!どうやってもよ!」


いつの間にか失禁しているのにも気がつかない程のパニックに近付く(アレ)のせいでショック死しそうである。


ガサガサ

「や“っ“と“お“い“つ“い“た“ぁ~ハハハァア!」


ついに(ソレ)が二人の乗る車が見えるところまで下りきった。

「「ぎゃやぁあああああああああ!」」


恐怖の頂点に達したのだろう、二人の口から割れんばかりの悲鳴が響き渡る。


その瞬間、人里への道から赤色の光が回りながら近づいてくるのを意識の端に捉えた。

こんな山の中、それも人里より遥か奥に場違いな音を響かせながら車が近づいてくる。間違いなくパトカーと赤色灯が回っている音である。

あり得ないと心の隅に思いつつも、いつもならファンファンと耳障りなそれを、この時ほど天の助けと思ったことはなかったろう二人は安心するように意識を手放した。


「日本国国家公安委員会直属、転移転生行方不明者捜索機関(ロストチャイルドレスキュー)LCRA 国民捜査官の津軽谷です。霊界法2条、及び冥界法によりお前を逮捕拘束します。県警の皆さんは援護を。発砲は許可されておりますので。モノノケぇ!!そこを動くなぁ!」


パトカーから銃を構えて流れ出てくる警官の先頭に立って語気を強めるは

《津軽谷 里比奈》

その人であった。


「警視庁広域心霊捜査課霊課の佐怒(さぬ)さんは、被害者確保頼みます!」

「了解!邪なる者よ退け!オンキリキリバサラウンハッタぁ!」


的確に状況を判断して命令を下すリイナに呼応するように、佐怒とよばれた壮年の男は烈烈たる気合いに術をのせ、軍荼利明王の真言を以て《ヒサルキ》と名乗ったモノノケを若者が乗り込んだ車より弾く。

山から下りてきた(ソレ)に向って手にした剣にリイナは意識を込める。


「いくよ!アメノムラクモォ!!」


天叢雲剣

天皇家に伝わる三種の神器の一つである。

LCRAの捜査官であるリイナには、銃の携帯は許されていないものの宮内庁からレプリカとはいえこの宝剣を貸与されている。


「ヴぁあぁっ!な“ん“て“し“ゃ“ま“す“るぅ!《ヒサルキ》はぁ。み“ん“な“て“《デルゼルス》に“い“き“た“い“た“け“な“の“に“い“ぃ“ぃ“!」


邪悪な波動を迸らせ、《ヒサルキ》は被害者になおも近付こうともがくが軍荼利明王の加護がそれを阻む。


「ヒサルキ?佐怒さん。それって少し前にネットに流れていた都市伝説みたいなやつですよね?もしかしてこいつがその正体なんですかね?っっと!危な。触手プレイは求めてないよ!」


自身に取り込んだよっちいという若者の口から、リイナをも取り込もうとしているのか触手状のものを放射状に撒くが、アメノムラクモを用いた妻条流剣術によりアッサリと凪ぎ払われていくのだった。


「だな。小学校で飼育している動物を殺ったり、生きているものに取り憑いてしまう小物だと思ってたが。おっと!遠慮すんな撃ちまくれ!なかなか大物がかかったんじゃねぇかな?」


十数人の警官が構えたニューナンブが咆哮をあげる。

雨あられと銃弾が降り注ぐが、《ヒサルキ》は意に介する事なく仲間をさらおうする。しかしとうとう諦めたのか次第に姿を薄くしていき、終いにはその姿をかき消したのだった。


「くそっ!逃げられたか……」

結局取り込まれたよっちいという若者をさらわれたままに夜が明け、リイナは悔しそうにそう溢すのだった。




事件の翌日、昨晩の戦いより《ヒサルキという都市伝説》が異世界と関係していると断定したLCRA本部が、ヒサルキ本体に取り込まれたよっちいの口より《デルゼルス》と言っていた時空間の座標軸を割り出したとの報告を受け、リイナが出頭していた。

「というわけで、《デルゼルス》の時空間宇宙座標軸が割れた。周辺市町村の行方不明者のうち、数名があの山との関連性を疑われている。これらから当局では、その数件を(仮)転移等被害案件から正式な異世界関連案件として捜査を始めるものである。準備が整い次第そちらにむかってくれ。今回は現地調査のみである。不測の事態の対応は、臨機応変に津軽谷特尉に一任する。」


「了解!」


LCRAの上官であろう。百戦錬磨の雰囲気を醸し出しているオールバックの初老の男がそう伝えると、昨日の失態を恥じてからかリイナが引き締まった表情で答える。


「おおっ。そうだった。」

早速行動に取り掛かろうと退室するため背を向けたリイナは、その声を聞いて不思議そうに振り向く。

何か忘れたのだろうかと思わせるようなトーンであったため、再び男に体を向け背筋を伸ばし言葉の続きを待つ。それが新たな悩みの種になるとも知らず。


「調査には新人も同行させてやってほしい。恐らく特尉にとって力強い味方になると思う。」

「新人…でありますか?」

ここ最近、LCRA捜査官が新たに配属されるということは殆どなかった。

何故ならそれは、扱う事件の特異性と求められる能力が問題であるからに他ならない。逆に言えば、リイナと言う人材は其れほどまでに突出しているという事実に他ならない訳だが。


コンコン

不意な訪問者により部屋のドアがノックされる。新たな訪問者であろうか。間違いなくリイナにとって災厄とも為りうる者が訪れているのだ。


「入りたまえ。津軽谷特尉、紹介しよう。」

男は、訪問者に入室を促しリイナにそう告げる。



「どうも!新しくLCRA国民救出課に配属されました、美濃里 舞でーす!宜しくぅ!」

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