第13話 幕間3 現代に馴染む元魔王と現代に迷いこんだ女神

暫くして、リイナは落ち着いたのかお茶のお代わりをするため、先ほどの爆乳パッツンメイドさん《牧見 麗》を呼ぶ。


「どうぞ。新しくダージリンを淹れて参りました。」


表情を変えずに麗はそういうと、皆のカップを下げてから暖かい紅茶が入った新しいティーカップをテーブルに並べていく。その流れるような動作は美しさすら漂うようで、見るものにも一流のメイドとしてのたしなみを身に付けていると感じさせるに足るレベルである。

動き一つを取っても、一部の隙もない彼女に相変わらず疑念の目線を送るシャンクと、まるで容姿を品定めするかのように鼻息が荒い舞に辟易したのだろう。


「シャンク、いい加減セクハラ目線止めな?ね。舞も……」


と、リイナが堪らず皮肉を込めて二人にそう呟くと、シャンクはキツイ目線を彼女に移し無言でその頬に両手を伸ばして餅のように摘まんで引っ張った。無表情のままであるが、どうやら腹の底では心外でオカンムリだったらしく、とは言え手をあげるのも大人気ないと解っているのかこの行動に出たのだろう。

というか、セクハラの意味がわかるんだ……という思いを抱きつつ抵抗をしているリイナにムラムラしたのか、舞までシャンクに便乗する。


「いひゃいいひゃい!ほめんへ!|(痛い痛い!ごめんて!)」

「駄目だよシャンク!リイナちゃんをイジメていいのは私だけなんだよ!」

「られがんらころいっら!(誰がんなこと言った!)」



頬を引っ張りながら宣う舞に本気で抗議するも二人に揉みくちゃにされている姿は何かを紛らわせているかのようにも思える。痛い痛い言いながらも笑顔になるのは先の話のお陰であろうか。そんなじゃれる3人を横目に相変わらず洗練された立ち居振舞いでカップを下げると、何処と無く安心した笑顔でお辞儀をして麗は部屋を辞した。通常業務に戻るのだろう。


「いたいな~!冗談だろ。間に受けないでよぅ!」


少々涙目でリイナがシャンクらに訴えるが、どこ吹く風か


「ふっ。それだけ元気なら気にすることもなかったか。僕ちゃんよ?」

と、挑発するかのように流す元魔王。




ピキッ……



どこからか空間が凍りつくような音がする。


「ああっん!?なんか言った田舎世界の三流魔王さん?」


その一言に舞は、子供時代に悪さして怒られた親父を彷彿とさせる恐怖を蘇らせたのだろうか、雷光のごときスピードで部屋の隅に飛び退くと涙目になって生まれたての小鹿よろしく震えたまま動けなくなっていた。歯の根が合わずカチカチという音すら響いてくる始末。

徐々にリイナから放たれていく暴力的な威圧感にヴェルゼイユでの事を思い出す。只でさえシャングラムと対峙した時の何倍もの剣気は、質量を伴っているかのように部屋の家具などをカタカタと揺らし続ける。今のリイナの心の内を代弁するかのように。


「……フゥッ……国の手先、と言う割りにはなんと幼き事よ。こんな見え見えの挑発にすら心乱す…力があれど、内面が未熟者ではな……そちの兄は何事にも動じぬ巌のような雰囲気を持って対処していたぞ?ズズズッ」


「ぐっっギギギ……」


凄まじき威圧感を涼風の如く受け流し紅茶を口にしているシャンクにそう言われると、自分の失態に気がついたのか、はたまた、兄を引き合いに出されたからなのか油が切れたブリキの様な声を出すと、荒く座り直して俯く。随分と興奮していたのだろう、顔が茹で蛸のごとく真っ赤になっていた。


(まあまあ、皆様落ち着いてくださいませで御座います。)



「「「…………ああ、コイツもいたな。」」」


頭のなかに響いてきた声に、隅で震えていた舞も剣呑なやり取りをしていた二人も皆同時に口にする。

と同時に沸く疑問点。

ヴェルゼイユの復興はどうしたのだろう?

あれだけ日本の神から怒られていたのになんでここにいるんだろう?


(それはですねぇ、やはり国を建て直すのは一人では無理に近いのでございました。ですので、新たに眷属を産み出して頑張っていたのでございますが。)


「思考を読まれた!ってサトリの力か。」


(いいえ~。なんとなく言いたいことがわかりましたでございますよ。)


恐怖から解放されたのだろう舞が、恐る恐るソファーに戻り呟くとヴェルフェスは答える。

リイナにしてみれば、舞救出任務で新たに発生したイレギュラーな問題に頭を抱える事になる。終わったはずの仕事がまだ残っていた。それも、一つ(シャンクの件)だけならず二つまでも。


「待って待って。貴方向こうの創造神ですよね?端くれとは言え、神様ですよね?こっちにいていい存在ではないはずですよねぇ?」


腰に手を当てて眉間にシワを寄せながら、机の上のルフロティアを睨み付けて威圧の言葉を吐くリイナの心中は計り知れない絶望感で満たされているのを誰も知りえない。

恐らくシャンクの件以上に面倒な事を抱えてしまった現状に、片手で頭を抱えただただ一人ごちるのだった。


「僕ってなんて不幸なんだ…」


(あ~、まあ、頑張っていたのでございますが、これからという段階でですねぇ、意識ごと何かに引っ張られてしまったのでございますよ。そのまま眠るような感覚でおりましたら、急に呼び出されたのでございます。)


「……それが、本部の建物の中でのことか。」

舞は、リイナを待っているときに剣が現れ出た時の事を思い出したのだろう。そういうと、


(はい~。どうやら、舞様にお与えになった神剣は舞様をいたく気に入ったのでございましょう、ほぼ同一の存在になっておりますね~。わたくしの加護も込められておりますので、その力に引っ張られてしまったのでしょう。うふふっ。)


ヴェルフェスは、自分に起きた事をそのように想定して解釈したのだろう。仕方ないと言った感じで微笑みを漏らす。

状況を大まかに説明すると皆から盛大に溜め息が漏れた。恐らく、現代に転移した際に剣を内包した舞の存在そのものに引っ張られたのが原因らしい。


「なるほどね~。あと、貴方!言いたいことがあるなら、今度からきちんと自分の口から発言してくださいね。」


(ふぇっ?)


心当たりがないのだろうか?リイナの問いかけに抜けた返事を返すヴェルフェス(剣)を見て、シャンクが頷く。


「全くだ。他人の口を借りるから伝えたいことが伝わらぬのだ。アフォめ。」


(ふっふぅぇ!!なんで皆様からこうまで責められておりますのでせうかぁ!)


姿は見えないが、やり取りから察するにヴェルフェスがフルボッコで涙目と言った感じであるのを舞は不思議そうにみていたが、何か疎外感を感じたのであろう。二人に尋ねる。


「えっ。えっ?どいうこと?何が?」


「自分に対する評価がほしければ己の言葉で伝えよ。」

「だね。やっぱシャンクも気付いてたんだね。まあ、分かりやすかったし。」

「勿論であろう。ヴェルゼイユについてどう思うか?等とほざく輩がそういるか!答えがほしければくれてやるが?まあ、ボロクソだろうがな。」

「まあ、そんな責め立てなさんな。旦那。」


未だやり取りの見当がつかない舞を置き去りにしてヴェルフェスへの風当たりを強める二人に、ついに舞の涙腺が決壊した。


「……うぅっうぁぁあん!!無視しないでよぉ~!あ~ん!!」


あっ。これマジ泣きだ……

徐にソファーから立ち上がると顔を上に向け、大口を開けて幼児のようにおお泣きし始める舞。立ち上がった瞬間、舞が穿いていたホットパンツがその下の肌着と共にストンとずり落ちる。


……


刹那の間の後、紅茶を噴き出すシャンクと、舞の女性なデリケートゾーンを見せまいとするリイナによるシャンクへのミドル回し蹴りはほぼ同時に成立。

数メートル吹き飛び部屋の壁にぶち当たるシャンクを鬼のような表情で睨み付け

「見てないよね?紳士だもんね?紳士だもんね?」

脅しともとれる論調で大事なことらしいので2回、舞の下半身を隠しながら確認すると、重い一撃を喰らった左頬を押さえながらコクコクと頷くシャンク。

その反応を見て、安心したような表情で舞を落ち着かせるためなだめ透かすリイナは心中、

(こんなドタバタ…も、悪くない…かな?)

兄がいなくなってから気張ってばかりいた自身に新たな変化を感じざるをえない。


(うっ……ううっ ふぇ~ん!!なんだがわからないけれどごめんなさいでございまずぅ~!)


こっちもか!?


舞と女神を泣かせた原因たる二人は困惑する。二人が泣き止むまで小一時間かかったのだった。

泣きたいのは僕の方だ!と声を大にして言いたいリイナであったが、必至に泣き止ます為に舞の頭を抱きかかえて撫でまくるのを横目に


(……うるさし。)

我関せずのシャンクは耳を指で塞いでこれからの事に思いを馳せるのだった。

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