第10話 救出ケースファイル1 ファイナル 任務完了と新たな仲間・女神と勇者と元魔王
「では津軽谷特尉。救出任務の件の報告書、確かに預かりました。以降は、別命あるまで休暇とします。お疲れさまでしたっ!」
「はっ、了解いたしました。慎んで休暇を拝命いたします!」
美濃里 舞の救出任務を完了したリイナは、転移転生行方不明者捜索機関(ロストチャイルドレスキュー)LCRA本局にて報告書をあげるという作業に追われていたのだが、漸くそれから解放されたのだった。
「ふぅっ……。やっと終わったよ。舞達(・)どうしてるかな…」
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「どうした?早く行かんか。」
「「なんでお前がいる?」」
「……?戻してくれるのだろう?」
しれっとそういうシャンクに二人は頭を抱えていた。
LCRAの任務はあくまで、
逸失国民転移転生救助法に基づき、あらゆる世界に「転移」「転生」したと思われる日本人(・・・)を救出するのであって、他世界のストレンジャーまで包括されていないのだ。
故に…
「貴様の任務は戻すことであろ?なら、俺もついていってなんら問題ないと思うが?」
「貴様じゃない!僕は津軽谷だっ!そもそも、あんたは日本人ですらないだろ!任務外で論外だ!」
リイナが叫びたくなるのも分かる。未だかつて、他世界から異世界に転移を確認された例などなかったのだから。たとえいたとしても、救助法には明記されぬ異世界人の保護などどう扱って良いのかわからない。
隣の舞は国家機密に関する件には、全く無知識で無関係の被救助者であるが、あれだけ死闘を繰り広げたはずのシャンクとリイナのやり取りには目を向けず、見納めになるヴェルゼイユの風景に興味を移していた。
「……」
「なんだよ……僕だって初めてなんだよこういうの…どうしていいかわかんないんだよぅ……」
「えっ?!リイナちゃん。今なんて言ったの?もっかい!聞こえなかったからもっガフッグッ!」
振り向き様の左フックが、舞の鳩尾にめり込むと膝から崩れ落ちていった。
「という訳で、連れていくわけには行かない。わかった!?」
舞等いなかったかのように続けるリイナを見て、シャンクはしばらく唖然としていた。が
「…………秘剣 ずぐり独楽…とか言ったか。黒龍を屠った一撃。見事な太刀筋であった。」
「!!!!!!貴様!どこでその名前を知ったァッ!?」
シャンクの一言に、戸惑っていた態度が一転して掴みかからんばかりに激昂し詰め寄るリイナの雰囲気に震えが止まらなくなるほど恐怖を覚える舞。本人は、表情を変えることなく威圧を受け流しリイナを見下ろしている。
「貴様答えろぉっ!どこで知ったんだぁ?!」
「俺も、貴様という名ではない。知りたくば礼を持て。神国の者。」
先程の意趣返しであろうか。シャンクはそう言うと口の端を少し吊り上げ微笑を浮かべる。
リイナも気付いたのであろう、赤ら顔にしてやや威圧を抑えるが雰囲気は相変わらず剣呑さを滲ませている。
「待ってリイナちゃん!どうしたの急に!?何かされたのこいつに?」
舞も、彼女の態度の急激な変化に萎縮しながらも後ろから羽交い締めにして抑えようとするが、かなりの力が込められているようで、今にも振りほどかれそうである。
念のため、女神の加護である【サトリ】にて怒りの根本を探ろうとするも、この世界に由来する者ではないためか覗き見る事は叶わなかった。
「頼む、教えてくれよシャンク。お兄ちゃんを知っているなら……お願いだよ……」
お兄ちゃん
それが、胸中にあるキーワードなのか判らないがリイナが泣き崩れるに十分な理由のようだ。しばし落ち着くまで、舞は下心無しにそのまま抱きしめていた。
……………………………………
(くっ、あんな奴にお兄ちゃんの事知られるなんて。)
ヴェルゼイユから戻る前のシャンクとのやり取りを思い出したのだろう。少々、上気したような表情を浮かべながら部屋を後にすると、廊下のベンチで座っている二人が目に入る。ずっと待っていたのだろう美濃里 舞と……シャンクが暇そうにしていた。
「我は退屈ぞ。検査とやらや身元確認とやら、訳のわからぬ実験された挙げ句結果が出るまで待てとは…よくわからんしすてむよな。」
「シャンク、あんたそういう割には馴染んだよね……日本語使いこなしてるし。」
「あれだけ連呼していれば嫌でも覚えよう。…して、我はこの後どうすればよいのだ?」
何度も思うが、あれだけ切る切られるの死闘を演じた二人がこうして普通に会話するのには、疑問は持たないのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間……
「君の希望は叶えてやった。お兄ちゃんについて話してくれるまでは、僕の方で身柄は預かる予定。」
「えっ!マジで?私もリイナちゃんと住みたいぃ~!」
「舞さんには実家があるでしょ!そのためのカウンセリングに関係各所との行方不明時の扱いの折衝でしょうに…」
遅々として知りたい情報にたどり着けないリイナは思わずこめかみを抑えてしまうのだった。
「あっ!そういえばさぁ、向こうで得た力ってこっちでどんな扱いになるん?そもそも、使えるんかねぇ?」
「さあな。出来れば我を刺した剣なぞ捨ててきてほしい位である。」
「あぁ、聖なる剣(ルフロティア)ね」
ガシャッ
頭で手を組ながら会話していた舞とシャンクの後ろで、質量を持った金属が落ちたような音がした。
3人が一度目を会わせてからベンチの背もたれの裏を覗くと、そこには見事に「剣(ルフロティア)」が落ちていたのだった。
「「じ、銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年3月10日法律第6号)!!」」
シャンク以外が焦るようにそう呟くと、舞は着ていたパーカーをすぐさまルフロティアに被せて周りから見えないように背中に差し込む。パンツが切れたような感覚があったが、今は気にしていられない。
「そ、それじゃ帰りましょうか?」
「そうだね。それがいいね」
「そうするとしよう。」
「「あんたはまだダメ」」
検査の結果が出るまで待てと言われているシャンクに二人はハモる。
「あー、そこの官権よ。今、こちらの婦女子がな、危ない剣をだなs……ムグッムグッ」
「いえいえ何でもないの。気にしないで!」
「……ハァ。」
(?)
通りがかったLCRA職員であろう女性にあろうことか、シャンクは告げ口紛いの行動にでようとした。それを舞が全力で手で抑え、リイナはそれをみて更に頭を抱えている。
「わかったわかった。僕がすぐ帰れるか進言してくる。だから、もうちょっと大人しくしてて。いい?二度めは無いよ?」
してやったりのドヤ顔のシャンクを見て青筋を断てながらも、許可を得にいくあたりいい娘だなぁと評価をする二人であった。そのせいで、面倒ごとに巻き込まれるとも知らないで。
(あら~。あらあらぁ?ここは、どこなのでございましょうか?何やら善き匂いに包まれてございますねぇ。なんの香りでございましょう?)
今の声がどこから発されたのかを認識した瞬間に、はしゃぐ舞とドヤ顔のシャンクは硬直したのだった。
((お前(貴女)もか……))
LCRAに盛大な溜め息が響いたという。
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