第9話 救出ケースファイル1-9 大団円 そして現代へ
最終決戦終結後、ガラドの協会の一件より一夜明けて…
ここは、ヴェルゼイユが王都【ヴェルゼルク】
今宵は華やかなる晩餐会が繰り広げられている。
吟遊詩人は新たなるヴェルゼイユの歴史に思いを馳せ歌声を紡ぎ、それに合わせて楽しそうに踊る者や、膨大に用意されている飲食物の数々に舌鼓を打つ者。
王が都に戻ると、城下の広場に戦の動向を今か今かと待ちわびていた国民がそれこそ人の波の言葉通り、いやそれ以上であったかも知れない程集まっていた。
「今ここに戦の終結を宣言するものである!本日より以降、皆が恐れおののいた魔王の脅威に怯えて暮らす必要は無くなった!それもこれも、【創世の女神ヴェルフェス】と、ここにおわす【勇者マイ】様の尽力により為されたものである。今宵は無礼講。宴じゃあ!この時よりヴェルゼイユの新しき時代が始まるのじゃあ!」
今だ興奮冷めやらぬ王の鶴の一声により、城の全てを解放し殆どの国民を招いての晩餐会に都は大いに湧いた。
奇跡により、再びの生を得て感動の再会を果たすものもおり都中が祝いの空気で満たされていた。
そんな華やかなるヴェルゼルクの裏で、シャンクは複雑な表情を浮かべながら渡されていたグラスを傾けつつ、テラスで星空に浮かぶ二重の月を見ていた。
(今後、俺はどうすればよいのだろうな…)
強制的にこの世界に召喚され、魔導師の邪悪な呪縛によって魔王に仕立て挙げられヴェルゼイユを1000年に渡り蹂躙した挙げ句、同じく召喚された勇者に打ち倒されてようやく死ねると思った所に…
「この者、既に魔王に非ず!神々の尽力により、積み重ねられてきた悲劇惨劇が無へと帰るであろう。これまでの所業はこの者の責任となり得ぬ。よって無罪放免を言い渡す!」
国王からの恩赦の言葉で、赦されたシャンクであった。が……
「…今更…罪を赦され、呪縛を解かれても…どうしろというのだ…………」
後ろ姿は哀愁を帯び流す涙ももう枯れ果てた男は、そう一人こぼす。
一方、マイは次々に挨拶に訪れる貴族や、ヴェルフェスと津軽谷の起こした奇跡により再び生を授かった者達からのお礼参りで囲まれていた。その列は途切れることを知らず、半分泣きが入り初めるマイを津軽谷は横目に自身が成すべき残りのミッションを遂行するため動く。
「このような文献に心当たりはありませんか?」
舞踏会場の隅でそう問いかける津軽谷の前には、ヴェルゼイユ屈指の研究者達が自ずと集まっていた。私生活より研究を命題とする学者は、異世界に纏わる物体を目にできる機会は何に於いても優先するべき事項なのだろう。集まった各々が、津軽谷から渡されるいづれも初めて目にする品々が印刷された紙の数々に興味津々といった感じで、持てる知識との付合を試みている。
「これは、文献というより図鑑のようじゃな。」
「神々の樹系図とな?我がヴェルフェス様の御名もここに刻まれておるのか……」
「科学とは偉大ぞよ!このような紙に幾らでも同じものを刻めるとはのぅ……」
彼らの前に置かれているのは、
ヴォイニッチ手稿
セフィロトの樹形図
未だ解明されていない言語(シュメール語、インダス語、ロンゴロンゴ文字他)
ファイストスの円盤
等々の写真のコピーである。
地球でも、謎とされるそれらの解明を異世界に見いだした科学技術庁や文科省らが、LCRAに依頼を託した案件のひとつである。
LCRA 国民捜査官には、そういった地球での謎の解明に付随する任務も稀に課せられる。
研究者らの興味を一番に惹いていたのが、ヴォイニッチ手稿であった。この写本は、地球では14世紀から16世紀頃の作と考えられている古文書であり、一説では錬金術の書であるとか言われている代物である。
「ヴェルゼイユの魔術体系の文字列に似とる気がしなくもないが、恐らく別物であろうの……じゃが、一つだけ言えるとすれば……間違いなく恐ろしく発達した文明の産物じゃろうて。方向性は違うが、まるでそなたの国のようにのぅ。」
やはり、そう簡単に解ろう筈もなく、ヴェルゼイユ国立研究所の所長である老人がそう呟くと集まっていた人らは再び晩餐会の輪へと溶けていくのだった。
(ふぅ……今回も収穫無し…か)
心でぼやくように肩を落とす津軽谷だが、想定の範囲なのだろう。直ぐに頭を切り替え、今暫しの喧騒に身を任せるのだった。
「今回は我が世界が大変ご迷惑をお掛けした。赦されるとは思わぬ。全て此度の事、国の長であるワシの責任である。勇者マイ様!誠にあい済まなかった。」
翌朝、元の日本に転移するため広い場所を目指す二人に、そう再び頭を下げるのは国王ドルヴァーグ4世。旅立つ2人を見送ろうと、国王以下全ての者が城門前に集結していた。
「私はもう勇者じゃないよ?もうただの女子高生(美濃里 舞)だよ。」
マイも、数ヶ月の滞在で情が湧いたのだろうか国王の謝罪の言葉に涙を浮かべてそう笑顔で答える。
「では、ヴェルゼイユの皆様。お別れです。僕らは元の世界に戻ります。が、再びこのような愚行(日本人召喚)を行うなれば、次はわかりません。そうあらぬことを肝に命じてください。日本の神々からのお言葉。この(津軽谷 里比奈)確かに伝えました。」
来たときと同じジャケットにランドセルのようなボックスを背負って、津軽谷はそう告げると、驚いたことに見送り一堂が一斉に土下座を始めた。
国王だけで無しに全ての者が。あの時、女神ヴェルフェスが魅せた素晴らしき究極の謝罪法
「DO GE ZA」
である。
「女神より賜りしこの謝罪の心で、国を発展させていく所存である。本当にありがとう。」
目が点になる二人に頭を地面にすり付けるような姿勢の人々。こんな大勢の土下座は、最早暴力を越えて兵器にすらなりうるな…等と思いながら、舞は国王と隣のセリルに近づいて膝を付くと二人を抱きしめてキスを落とす。
「私はここに召喚されたのには感謝してるの。普通の人じゃこんな素敵な体験出来ないよ。おまけに帰れるんだし、皆を恨んでなんかない。寧ろ感謝感謝だよぅ……もしかしたらもう会えないかもだけど、みんなの事は絶対忘れない。ほんとありがと……」
涙にまみれそう呟くと、気恥ずかしいのを振り払うかのように立ち上がって津軽谷に合流する。
「じゃね、みんな。バイバイ」
二人は城を背にして歩き出す。別れを惜しむように立ち上がり駆け出そうとすると者もいるようだが、土下座に慣れてない者がいきなり立つのは難しいのだろう。躓く者が多数であった。
(我らは勇者マイの活躍を忘れない。永久に語り継いで行こうぞ。)
涙が途切れぬまま決意を新たにするドルヴァーグであった。
「へぇ~。津軽谷ちゃんて、リイナって名前なんだ?かっわいいね~!」
「可愛くない!僕はもっとカッコいいほうが良かった!」
誉められ慣れていないのか、顔を赤らめながら背けるリイナにプッと吹き出すマイ。
「なに?ここに置いてかれたいの?僕は別に構わないんだけど?」
「サーイェッサー!マイロード」
「……【永遠のポワゾン】のリヒャルトのマネ?出直し。」
「あれ?リイナちゃんて、そっちもいけるくちなん?私も好きなんよ!」
「なにその口調は?ま、まぁ…どちらかというと…趣味…だし。」
「そだ、今度一緒にアキバ行こうよ!遊びにさ。」
「ま、まぁ…そこまでいうなら僕も吝かじゃないと言うか……」
「んじゃ決定ね!改めて。私は、美濃里 舞!よろしくぅ!」
「……津軽谷 里比奈…だよ。こちらこそ……」
歩きながら、ぐんぐん畳み掛けるように話をする舞にリイナは初め引いていたものの、漫画のネタが出てくる辺り趣味が合いそうだと思ったのか徐々に態度が軟化していく。
(これが生ツンデレか……)
思わず鼻を押さえる舞に怪訝な顔をするリイナ。
「帰ってからが、また大変だよ?カウンセリングによる治療とか、当局からの事情聴取とか。なんてったって、国の救助事業の一環だからね。」
「うへぇ…めんどいなぁ~。そういや、居なくなってからどんくらい経ってるんだろ?向こうは。」
「…確か、不明が発覚してから転移確認されるまで3ヶ月弱だね。それについても、関係省庁と折衝があると思う。余計な混乱を招かないようにね。」
「なる~。そりゃそうか……異世界に行ってました~。って誰が信じるか。だよね…」
国の事業である以上情報の機密性を求められるらしく、舞はウンザリした顔をする。
「なら、行った先での戻れない者を戻すことも仕事の内だよな?」
「…まあ。そんな人がいるんだったらだけどね。」
「でもさ、他の世界を突き止めるのは難しいんじゃないの?」
「だね。でも、出来ないことはないようだよ?僕は畑違いだからわかんないけど。多分、神社庁や宮内庁の秘技とか、密教や陰陽道の術の応用と、現代物理学の理論で把握するのはできるみたいだし。」
「それは重畳。俺もそれに乗っからせてもらう。」
「…国がなんていうかだな~。僕の一論じゃなんとも……」
そこまで言うと、二人は何かに気がついたように歩みを止める。
「どうした?進まんのか?」
……
「「いっせーのーせっ!」」
二人確認するかのように見つめあい、そう言い合わせると勝手に会話に紛れている後ろの人物に向かって振り向く。
「どうした?早く行かんか。」
「「なんでお前がいる?」」
シンクロするように言葉が重なる。その先には……
「……?戻してくれるのだろう?」
何を言っていると言わんばかりの表情を浮かべたシャンクがいた。
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