第6話 救出ケースファイル1-6 責任とけじめ、そして…
一行は、聖協会を目指す。
最早、嘗ての姿の片鱗すら消え果てたシャングラムであったと思われる優男「シャンク」をマイのたっての願いにより、一応の裁きを受けさせるため…そして、津軽谷の言葉の真意を問うため(ガラド)の街に移動を始めていた。
…戦いが始まる前と全く変わらぬ顔ぶれで。
本来なら戦であるため敗れ去った者が必ず存在するのだが、今回の場合は津軽谷の介入により、(この国の運命線の現状復帰)という奇跡を行使されたため誰一人かけることなく…いや、寧ろ来たときより増えてすらいた。
道中、馬車の中に繋がれたままのシャンクは終始無言であったが、胸中に思うところがあるのであろう。時たま閉じた瞳で空を仰ぐかのような動きを見せるのを護衛をしているマイと津軽谷、そしてダスマーダは見ていた。
余談ではあるが神仏顕現を成した後の津軽谷に対し、かなりの兵士たちが姿を目にするや否や両手を合わせて祈るように拝む為、そのたびに
(もうやだ…)
と不機嫌を露にして目に涙を浮かべる。
(萌え~!)
そして、それを目にして薄ら笑いを浮かべる者もいるが…
ガラドへの道中、漸く津軽谷の口から今のところマイとダスマーダ限定ではあるが、この世界に降り立った目的や現象の詳細が少しづつ語られていった。
「我が国日本は少子高齢化による国力衰退を和らげるために、毎年の行方不明者数約3万人前後の中から異世界やパラレルワールド・異次元等に明らかに異能の力で引きずり込まれた者…例えば、マイさんのように勇者として召喚されたり地球外の神の力による転生者を救助する目的で組織されたのが始まりです。」
津軽谷は、自分の組織について二人に語っていく。
「日本国国家公安委員会直属、転移転生行方不明者捜索機関(ロストチャイルドレスキュー)LCRAは、そんな不幸にも日本を離れなければならなくなった人々を憂いた…その…日本の象徴である………やんごとなき御方が………日本の神仏より啓示を受け国家機関に協力を要請して…」
「って、それって!」
「はい。公にはなってませんが、皇族が実質的に設立元になるかと思います。」
「やっぱ凄いわ、日本って…っあ!そういえば、どうやって私がここの世界に召喚されたのがわかったのかを聞きたいんだけど?」
「それにつきましては、昨年から施行された日本の法律の一つ(特定秘密機密に関する情報保護法)によりお話しできないのです。申し訳ありません。」
「ああ~…国が絡んでるもんね。仕方ないか。」
段々と明らかにされていく真実に俄には信じられなかったマイだが、法律の話をされるとやはり日本の国に帰れるのだろうなぁ…と漠然とした思いで、そう口にする。
「あの…会話の最中申し訳ないのですが、先程の召喚術についt…「先程の現象は神仏顕現であり、召喚とはまったく異なります!そもそも、いろんな異世界は地球を雛形としていると思われるため、全てにおいて上位の存在である我が世界の神々は、条件さえ合えばどのような異世界にも顕現して頂くことが可能なのです!そして我が国日本は、2000年以上の歴史を確実に遡ることができる歴史を持ちます。私たちは間違いなく神の血を引きし民なのです!」
二人の会話があまりにも理解し難い名称でまみれているため、既に聞き役に徹していたダスマーダであったが己が目にした奇跡はやはり興味を示さざるを得ないのか津軽谷に問いかける。…が、食い気味に間違いを指摘され再び沈黙を余儀なくされてしまうのだった。そして、やや偏ったと言われても仕方ない知識を力説し顔を真っ赤にして息を荒くする津軽谷。
「そもそも、異世界からの召喚術による転移とか転生させるために地球で死を与えられる行為等は、実は地球では因果応報の枠外であるのです。つまり分かりやすくいうとあってはならない現象であると言えます。我が世界は、魔法が偏在する運命線を選択しておりません。故に科学での進化を続けていますので、魔法力の影響をすべからく防ぐ手だてが一般的には知られておりません。」
「なるほど…」
半分も理解しているのだろうか…説明に対しマイはそう呟く。
「ですから、ダスマーダさん!」
「ふっはっ…はっ!」
急に振られると思わなかったダスマーダは、不意をつかれおかしな返事を返す。
「これが、さっきの私の発言に繋がるのです。」
「?!」
「全ての存在の運命を握るのが神だとすると、異世界の神から見て位が遥か上の存在である地球の神の領域を(それ)が侵すということはどんな状況であると言えますか?」
「…ッッ!」
答えられないダスマーダ。いや、答えられるわけながないのだ。詰まるところ、「輝かしき約束の大地ヴェルゼイユ」創世の女神ヴェルフェスが、故意でないにせよ自世界の歴史に存在した者によって召喚術を開発・行使され、マイの世界である地球人類や他の世界線に迷惑をかけてきたのを認めなければならないからだ。
もしそれを認めてしまったら、たちどころに背信者の烙印を押されてしまう。一神教であるこのヴェルゼイユでは、タブーを越えたタブーであると言わざるを得ない。
「沈黙は肯定と受け取ります。そして、これは超機密事項であるのですが…」
「っっ!!!」
まだ何かあるのかとダスマーダは、仰天を通り越して顔面をひきつらせる。当然である。神に上下関係があったり、人間のように裁きが行われるなど、ヴェルゼイユの人々には理解が及ぶわけもなく。
「これから行く先にて、こちらの神に対し神法が行使されると思われます。これを神界では、(神界奨罰法)と呼ばれています。神界の多段構造からなる社会が存在すると私たちの世界では認識されていまして、こういった事例に対して使用されるのがこの法であるとされています。」
もう何をいってよいのか混乱を来すダスマーダ。ここまでの説明を国王にどうしてよいやら泣き出したい気持ちにすらなってくる。
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