第4話 救出ケースファイル1-4 改めて日本のチートさを確認する日
救出ケースファイル1-4 改めて日本のチートさを確認する日
「よし。この者を引っ捕らえよ。」
ダスマーダは、津軽谷の発言を理解するや否やテンポよくすらっと言う。
至極当然である。
マイが召喚されし、この「輝かしき約束の大地ヴェルゼイユ」は、創世の女神ヴェルフェスが産み出した世界である。それ故、ヴェルフェスを柱とする一神教(ヴェルフェス聖教)が人々の生活の至るところまで浸透しているのは当たり前であろう。
その中で先程のような(神を裁く)などという発言は、人々の生活全てを否定することになり、言ってしまえば女神を侮辱するような背信的行為になりうる。一度タイミングを誤れば此度のような大きい戦いにすら発展しかねない大問題なのである。
まあ、その発言をした当の本人は事情を知らずに怯えているのだが…
その姿にマイは、
(なにこの子!?めっちゃ可愛い!)
と、どSな感想を抱いているのは誰も知ることはできない。
いい加減、マイは事の真相を知りたくてダスマーダに離すように促し説得を経てその場を納める。
「で、津軽ちゃんに聞きたい事があ…」「津軽谷です!」
「そう。で、聞きたいんだけど本当に日本から来たの?私を助けるためにって言ってたよね?なんでこっちの世界にいるってわかったの?」
名前の間違いを指摘したのに綺麗にスルーされて、未だ質問を投げ続けるマイの態度に津軽谷の目には、また涙が溢れんとしている。
(この子私の好きなアニメのドM天使な主人公にソックリ!本っ当~に…イイッ!)
勇者マイの本質がこんな感じだと、この国の人々にばれたならさぞカオスな事になるのは火を見るより明らかであろう。
津軽谷の反応を敢えて無視して、質問し続ける。
「そして、多分ここにいる人たち皆…いえ、この国の全ての人々が気になるだろうさっきの 裁かれるは神 発言の意味を教えて?ねっ?」
神と言うフレーズで、なんとか我を取り戻した津軽谷が本来の目的と為すべきミッションについて説明を始めたのは、先程落ち着かせてくれた女性兵士から再び貰ったキャンディーを食べ終えた後であった。
落ち着いた津軽谷は、マイに何やらボソボソとみみうちする。どうやら、さっきの捕縛騒動でダスマーダが怖くて直接話せないようだ。
(ホントかーうぃ…)
それによると、まずこの世界の神との対話を必要とするため準備が多少必要なので、近くにパワースポットか教会のような聖域はないかとマイはダスマーダに訊ねる。
「聖域ですか?馬車で1日の距離にあります帝都の最終防衛ラインとしているガラドの街にならば、多少大きめな聖教会がありますが。そこでもよろしいのですか?パワースポットなるものは、その…私どもも聞いたことが…無いので。」
やはり異世界の単語は理解できないようで、詰まりながらもダスマーダは申し訳なさそうな表情を浮かべて話す。
「わかりました。では、お手数ですがこの場はお聞きしたいことが山ほどあるのはわかってます。私に免じてこの津軽谷を信じて行動していただきたく思います。お願いします。」
そう深々と頭を下げつつ話すマイに一同は大層仰天した。
「わ、わかりました!わかりましたので頭をおあげください勇者様!」
世界を救われた勇者様に頭を下げさせるのを止めようと、討伐軍の首脳陣営は慌ててそれを承諾する。
続けて津軽谷はマイにみみうちを続けるが、聞き終えたマイは顔色を真っ青に変えて確認するかのように彼女の顔を見る。大丈夫とでも言いたそうな顔で頷き準備を整える津軽谷。
「あ、あの…これ、これから少しではありますが、この子が皆様に納得…と言いますか、信用して頂けるようにこの場で、先程の発言の真意の一端をお見せしたいそうです。」
何かヤバイ事でも起こすのか、マイは若干緊張で声色を震わせながらそう言うと、現場にはそれ以上の緊張が走る。
魔王すら圧倒した勇者が、これからこの少女がしようとしている事に対し震えを禁じ得ないとなると、ただの人間であるダスマーダ以下討伐軍の面々は気が気ではない。
皆の同意を得たマイは、津軽谷にそれを伝えると、少し離れた広めの場所に一人立つ。
ジックリと準備運動するかのように手・足・首を動かし、瞑想状態に入るのだろうか静かに目を閉じて万歳をするように手をあげる。何かを呟きながら徐々にその手を左右に開いていくにつれ、見守る一同は緊張の色を隠せないでいた。それでいて誰一人、その行為を行っている少女から目を離そうとしないのは、段々色濃くなっていく、荘厳でかつ神性を帯びたような雰囲気が辺りを支配し始めたからであるのは間違いなかろう。
……左右に開いた腕が一瞬止まる。ハグを待つ格好のような状態である。
誰かが息を飲む音が無音になった空間に響き渡る。
その瞬間、呟きが止まった津軽谷の目はカッと見開かれ同時に広げた腕は柏手のように打ち鳴らされた!その音は、爆音のようでいて涼やかな響きを持って一同を風とともに包む。
…………
「あ、…あっっ…あっ………!?」
不意に何かに気がついた誰かが、叫び声をあげようとして出なかった時のような音を漏らすのに続いて、回りにも似たような感情が伝播していく。
「こっ…これは……」
「うはぁ…」
ダスマーダでさえそう呟くのがやっとのようである。
マイに至っては、オカルト趣味の知識の賜物かはわからないが感嘆の声すら漏らしている。
手を打ち鳴らした津軽谷の背後に圧倒的神性とともに巨大な存在が確認された。
もはや場は大混乱に陥っていた。
間違いなく、今捕縛しているシャングラムのマックスモードより数段上の絶対的な威圧感と、ただそこに存在しているだけで全てが浄化されていくかのごとき清浄感!
「マ、マイ様のいた世界にはこれ程迄の力を持った存在が…あるのですか……」
「あ、はい…」
なんかメチャメチャびっくりされているようで、自分の事のように気恥ずかしくもあり誇らしくもあるマイだが、正直今は余裕がない。
「あそこにおわすのは、日本の国をすべからく守護しておられる神が内の二柱、恐らく毘沙門天様と…薬師如来様と思われます」
マイが辛うじて目の前の概念体の名称に己の記憶から目星をつけ、その御名を口にする。次の瞬間、左におわす薬師如来様が全ての存在を吹き飛ばすかのような大音響を口から発せられた。
殆どの兵士達は自らの知識にない現象に対する恐怖と、大音響で気を失うか失禁して発狂寸前になりかけていた。
「もしかして…マイ様の世界にはまだまだこのような圧倒的な神々が…おわすというのですか!!!!!?…まだまだ…」
「あ…はい…日本は、八百万の神々がおわします世界と云われて……」
マイの言葉を最後まで待たず、「八百万」の単語に百戦錬磨のダスマーダ以下殆どの兵士たちが気を失い倒れていき…結果、新たな惨状が出来上がるのだった。
それを行った当の本人が呟いた
(ザマァ…)
という声を聞けた者はいない。
マジ日本って凄い…
後にマイは語るのだった。
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