第3話 清だら爺10億円現金運びバイト開始
居眠狂五郎警視庁本庁捜査五課長は黒いサングラスをはずす、
「仕事といっても、自転車でお荷物を運ぶだけ。ほら自転車乗るの好きじゃないの、ネッネッ!あの愛用のリヤカーの付いてるやつ」
清だら爺は昨年、ガード下に半年以上放置されていたリヤカー付き自転車を「まあいいか」といって手に入れていた。タイヤは二本ともパンクしていたので、それは何でもできる小津野円太郎に修理をさせた。
「いいよ」
清だら爺はいつも『いいよ』とだけしか言わない。
「簡単な仕事、みゆき通りの第零勧業銀行支店から荷物を受け取って、日本銀行に運び入れるの。週に5回だけ。バイト代だけど東京都の最低賃金時給九〇七円にもう三円増やして、九一〇円にするから。これ正式な契約を結ぶので明日一緒にに銀行に行きましょうね」
「いいよ」
さて、都内五の区部の支店から、事務センターを抱える銀座みゆき通り支店に現金が集まってくる。その古くなった札を日銀に返還しに行く現金輸送車からこの一ヶ月七回に渡って現金がなくなっている。
事件が起きるのが、火曜日か木曜日。手口はいつも同じ。予定時刻に現金輸送車が到着する。輸送会社の警備員と銀行員によって札束が車に乗せられ去って行く。十分後同じ車が現れ、同じ人間が出現し現金を車に乗せようとする。しかし当然現金はない。
明日が木曜日で八回目の事件が起きるのが濃厚であった。この事件を解明する前に、取りあえず明日の事件を防がねばならない。
そう考えた居眠狂五郎は、奇策を思いついた。清だら爺に現金輸送を頼むのだ。
次の日、銀座みゆき通り支店現金保管室、鉄の二重扉の中には、十億円の札束とともに居眠狂五郎と清だら爺の二人だけがいた。他のものが近づこうにも、この匂いでは近づけない。ましてや、二重扉で密閉されているのである。
「あたしも絶対に二重扉の中で香をかぎたい」
と、昨夜叫んでいた雲出クニはコマーシャル撮りで今朝ニューヨークに飛んでしまった。
銀行員も警備員も密室でなにが行われているか、知る由もなかった。
現金輸送車が予定の時刻に到着する。いつもの現金を輸送する警備員により、誰もいない現金保管室から現金十億円の入ったアルミケースが持ち出され、車に乗せられ出発した。前後にパトカーが8台も護衛している。
これで十分後に現金輸送車が来なければ、今日は事件が起こらなかったことになる。
五分が経過した。
臭い。先ほど刑事と一緒に現金保管室に入り込んでいた、超不潔な爺さんが、ボロボロのリヤカーつき自転車に乗って、銀行の前を叫びながら通り過ぎていく。
「アバヨ。時給九一〇円だ。忘れんじゃねえぞ。おいらはドラマー。この野郎かかってこい」
「あんな人を現金保管室入れてたけど大丈夫なの」
銀行の女性事務員が眉間に皺を寄せた。
リヤカーには、超ボロボロのこげ茶色の頭陀袋が乗っていた。
さらに五分経過した。やはり来てしまった。
8台のパトカーに護衛された、現金輸送車が到着したのだった。現金は先の輸送車に渡してある。
警備員も警察官も十分前の人間とそっくりだった。
しかし、現金十億円は無事に日銀に届けられた。
史上最大級の窃盗集団「グログロイムズ」が初めて敗北した瞬間であった。
しかしグログロイムズのかしらは誰に負けたのかまだ分かっていなかった。
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