episode 1

「んん…」


家のベッドよりもふかっとした感触。よくわからないがかなり豪華な部屋で目を覚ました。


前後左右確認してポケットを探る。


「やっぱりないか…」


何も無かった。其れも寝間着じゃ無いのだ。何故か分からないが制服だった。


「♪〜♪〜〜♪〜♪♪♪♪♪〜」


私の耳に不意に聞こえたメロディー。初めて聞くはずはのに、そんな感じがしない。何故だろうか?何処かで聴いた様な曲だけど他のフレーズも浮かばず、それに関しての手掛かりも浮かばない。メロディーの主を探す為にちょっと窓の外を覗いて見た。私の目には何処か懐かしい面影のあるピアノと、そのピアノを弾く女性が見えた。あの何処かで聞いた様な曲を弾き終わると此方を見て微笑んだ。そして女性は口パクで待っててと言うと5秒で扉が開いて姿を見せる。


「あの…その…ありがとうございます。」


何も言うことがなかった為私はお礼を言ってみる。私のぎこちない言葉に女性は少し苦笑いをするとこう言った。


「それより大丈夫?貴女私の庭で倒れてたのよ…でも見たことのない服だから侵入者とは思えなかったのよね。あと貴女侵入者なら傷一つ入る筈なのに一切傷ないし気絶している割には変な格好じゃないから信用しちゃった。」


侵入者って居るんだ。と、何故か確信するとまあ今までの事を簡単に女性に説明してみる。


「その…私もよく分かんないんです。スマホを起動したらスマホが光を放ってそのあとよくわからないんですよ…」


私の言葉に何故か分からないが何かを確信した様子。私の頭には?マークが五つくらいついていた。だって何を確信したかすらわかんないんだもん。


そんな考え事をしている時に彼女は気づいたかの様に言った。


「それより名乗っていなかったわね。私はレイン・ローゼ。レインでいいわよ。」


名前を名乗ると言う事に便上して私も


「私は終姫乃と申します。姫乃と気軽に呼んでください。レインさん。」


と名乗った。レインは私が名乗っている時にボソリと何かを言った。

不思議に思い私はどうしたんですか?と、訊く。しかしなんでもないわと返された。

とても気になるが私の空気の読まない腹時計がぐーぐーと鳴る。

くっそ…。と思っているとその音に気がついたレインは空気を読んでこう言った。


「お腹すいてない?あまりご飯だけど良かったら食べて。」


「いいんですか!?」


私は飛び跳ねて喜んだ。兎に角腹ごしらえは大切という訳だ。

まあ簡単に言えば腹が減っては戦は出来ぬなのだろうけど。


「勿論よ。」


その言葉の後にレインはまた何か言おうとしていたがよくわからない。

兎に角不思議な人と思った。何で言いたい事を言わないか分からないからだ。


そしてコトンと置かれたお皿には私の大好物のカレーライスがのっていた。


多分偶然だと思って頂きますと言うとパクッとカレールーが少しかかったご飯を頬張る。なんかこの味が懐かしいと思ってしまう。どうしてこんなに懐かしいのか分からないのに。お父さんの作ったカレー?うーん…あのカレーはもっと違う味だった筈。だとしたらおばあちゃん?おばあちゃんは肉じゃがをカレーって言ってたな…じゃあ市販か何処かの飲食店の味?

ううん。違う。家で食べたあのカレーの味は優しいけど、飲食店のあの味はやや堅め。

ああ!もう頭こんがらがる!もうこれは後で考える!以上終わり!

私はちょっと混乱していた様だ。そんな考え事をしている間に食べ終わってしまった。どんな神経だよと自分に言いたい。食べ終わったので流しへと食器を持っていく。そしてカレールーの油をたくさん流さない様にティッシュで拭き取ると水道の蛇口をひねって少し水を出す。そして食器にチョロチョロ水を入れておく。これは昔からの掟だった。確か誰かが環境保全の為よと言っていた。でも誰か思い出せない。


でも優しい笑顔の素敵な女性だった。


でもお母さんは私が知らない内に死んじゃったんだっけ。お母さんは作曲家で世界に曲を提供していた。全てのジャンルを手がけていたが歌詞を絶対に付けない人だったらしい。しかしお母さんが病死する前の曲には歌詞を付けていたと、父が言っていた。でも何故か歌詞部分は一部しか見えず何を書いているかすらも分からない。それが分かるのは私がまだ小さい頃母の遺品にあった歌詞を実際見たからだった。


でも母はよくピアノを教えてくれた。そして案の定全国で金賞を取り、世界まで行ったのだった。作曲のコンクールにも出て銅賞もらったのも憶えている。しかしもうその時には母は死んでいてとても悲しくてたくさん泣いた気がする。でももう今は母の顔すら覚えてないし、遺品の曲もどうでもいい。私は音楽の道は歩まないから。


そんな思いを抱えて私は最初に起きた部屋のベッドに寝転がり、スヤスヤと寝息を立て始めた。

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