告白は手紙で

 家に帰ると母が夕飯の準備を始めていた。やけに早いなと思ったら、今日は結婚記念日らしい。そんな時くらい二人で外食に行けばいいのに。

「今日で結婚二十周年なのよ。そしてこの家も建ててから十五年。一緒にお祝いしたいじゃない」そういう事ならと、僕も料理の手伝いをした。

 母は幸せそうに微笑んでいた。

 父もいつもより早く帰ってきて、三人でご馳走を食べた。

 やっぱり、幸せだった。


 両親に気を使って、早めに自分の部屋に戻る。

 今日出た課題をやって、好きな小説を読むともういい時間だった。

 部屋の明かりを消して、ベッドに入る。

 目を閉じると嫌でも浮かんでくる、名前が付けられない感情。


 圭介が死んでから六年。

 歌音の歌が聴けなくなってから六年。

 僕はこの生活に随分慣れてしまっていた。

 圭介を思って泣く事はなくなって、歌音の歌も聞くことが出来ない。

 その事に違和感を持つこともない、そんな日常。

 歌音の声が出なくなったあの日から、歌音への恋愛感情も分からなくなって、今はもう、『家族』って感じになっている。


 ――これでいいのかな


 そんな事、何回考えたかも分からない。

 でも、答えは出なかったんだから。

 今のままで良いって、そういう事なんじゃないかな。

 レールに乗ったような、でも、どこか間違った様な日常を感じつつ。

 考える事をやめて、僕はようやく眠りについた。


 翌日、いつもの様に歌音と登校し下駄箱を開けると、一枚の手紙が入っていた。


 ――響くんの事が好きです。

   放課後、唐沢山の神社で待っています――

                      初日 叶


 変わらないと思った日常に、少し変化が起き始めた。

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