異世界で貧乏貴族家のメイドになりました
漂白済
第1章 ツェルスト奉公編
第1話 爆発落ちなんて最低
カーテンで締め切った部屋の中、ミシンの小気味いい音がする。
俺はミシンのライトだけが照らす手元を凝視しながら無心に仕立てる。人類の主従の証を。
「ふ、ふふ・・・出来た・・・やっちまったよ俺は」
ミシンの電源を切って仕立てた服を広げてみせる。
東京の一部で金を巻き上げるような店の制服ではない。本場の方々が着用してきた黒のロングドレス。それにもう出来てあった白のエプロン。
「自分で着るわけでもないのにさ・・・よくやったよ俺は」
あぁ目から努力の汗が・・・・。
しかし作ってから考えるのもあれなんだが、これはどうしたらいいんだろう。いくら俺が裁縫が得意で小学生の頃には親父の部屋着を作っていたとしてもだ。親父のパジャマとメイド服は飛躍にもほどがあるよなぁ・・・・。
いまさらながら俺は一人部屋の中で頭を抱える。
「ま、ガキの頃からの夢だったんだ。これで悔いも無いだろ」
俺が小学生の頃、友達に見せて貰った一冊のマンガ。その中に登場したフリル満点のメイド服。それが原点で将来まで歪めるなんてなぁ。人間何があるか分かんないな。
時計を見上げると既に次の日、お日様が顔を出しかけている。
「さて遅い夕食もしくは早い朝食でもいただきますかね・・・」
俺は棚からカップ麺とカセットコンロを取り出し、ヤカンに水を入れその取り出したカセットコンロに載せる。なんでカセットコンロかって、寮の部屋にキッチンは無いんだから仕方ない。
それでツマミを捻ればってあれ?
「なんだ、ガス無いのか?ったくよ・・・」
マイナスドライバーが工具箱にあったはず。工具箱は押入れの中に・・・・。
押入れを開けると一段目に臭い布団。二段目に畳んだ服や実家から持ってきたガラクタ類。
「お、あったあった」
その中から工具箱を取り出してマイナスドライバーを取り出す。
「捨てるときは~ガスを抜いて~」
徹夜のテンションで即興で歌を歌ってみる。いつもの俺なら絶対にしないけど、こんな時くらいはいいだろ?
台所に戻ってカセットコンロからカセットボンベを取り外す。
そして手に刺さらない様にカセットボンベの端をシンクの淵に押し付け、右手でマイナスドライバーを持つ。
「今日は10時から授業だろ、そんでもって18時に終わってそっからバイト。はぁ今日もいっちょ頑張りますかっ」
溜め息を吐きつつも俺は勢いよくマイナスドライバーを振り下ろした。
ぽんっ。
目を覚ますと見知らぬ街に俺はいた。
何を言っているか分からないと思うが、いきなりこんな状況の俺が一番よく分からない。
「え、ここどこ・・・」
辺りを見回すにここが日本ではないってことは分かった。歴史の教科書にでも載ってそうなナントカ方式な建物は日本じゃ某ネズミの国ぐらいじゃないと見れないんじゃないだろうか。
この例えは置いておくとしても一体なんだってこんな所に俺はいるんだろうか?
「夢か?俺は夢を見てるのか?」
そうだとしたらずいぶんとリアルな夢だ。肌をなでる風の冷たさ、照り付ける日の眩しさ。今までにこんな夢を見たことがあったか・・・?
それに道行く人々もこれまた日本人じゃない。髪が金色だ目が青い!
「日本人の外人コンプレックスは最早DNAレベルぅ・・・・」
いかんいかん。気をしっかり持て俺。今は何をしたらいいかを知るんだ。無知の知だ。違うか。
さて、まずはどうするか・・・。全く意味分からんがとりあえずここがどこなのかぐらいは知っておこう。それに言葉が通じるか。
俺の前を中学生くらいのガキが通った。
しめた。コイツに聞いてみよう。
俺はガキの肩を掴んで引き留めてみる。そして世知辛い人生の中で学んだ営業スマイルで話しかける。
「は、はろ~!」
うっは、このガキ露骨に嫌そうな顔しやがった。いや駄目だ。スマイルスマイル・・・・。
「えっと、なんですか?僕お金も持ってないんで相手は選んだ方がいいと思いますよ・・・?」
お?日本語だ。いやでも口の動き方が日本語って感じじゃないな。どういうことだ?
「い、いやカツアゲとかじゃないんだ。少し聞きたいことがあって・・・。ここどこ?」
俺の質問がよほど馬鹿っぽく聞こえたのか少年は目に嘲笑の色を浮かべた。
完全に俺を下に見たなコイツ。まあ現状は我慢するがな。
「どこって、ここはゾンネベックですよ。アレの咥えすぎでどうにかなっちゃったんですか?」
ゾンネベック・・・聞いたことが無い。ともかく日本じゃない裏付けが取れた。
「なにがしたかったのか分かりませんが僕はこれから学校なので。それじゃ」
「あぁ、呼び止めて悪かった。ありがとう」
なんか癪にさわるガキだったけど、まぁ恩人だ。許してやろう。
「きゃああ!やめてください!」
どこかから女の子の悲鳴が聞こえた。辺りを見回すとすぐ先の広場にちょっとした人だかりが出来ている。
人並みの野次馬根性を有している俺は妙に歩きづらいが広場まで向かった。
人だかりはほとんどがさっきの少年に歳の近い子供だった。そんな子供たちが輪を作って中央を見つめている。
その視線の先には―
「なんだ、何かあるのか?」
カバンがズタズタになって捨てられており中に入っていたであろう本やら紙が散乱して、なにより女の子が泥だらけになっていた。しかもこれまたいかにも悪ガキな大柄な泥だらけの女の子のくすんでしまった髪の毛を掴んで人の悪そうな笑顔を浮かべていた。
そして俺はこんな状況が理解出来なかった。
なんで周りの連中は誰も助けないんだ?どんだけ頭が悪いやつだってこの状況なら悪者がどっちかなんて判別が付くだろ?それなのに・・・・。
「ね、ねぇ君。これはどういった騒ぎで・・・?」
近くにいた背の低いさっきとは別の少年に聞くと、俺には理解しがたい返答が返ってきた。
「あ?お前どこの田舎者の使用人だよ。これはツェルストの奴がテオバにぶつかったから躾てやってんだよ馬鹿が。ハルザスを裏切って帝国に引っ付いてきたよそ者にさ。帝国流のね」
「へ、へぇありがとう・・・」
躾?そんな動物じゃないんだからさ・・・まして女の子にだ。テオバだっけ、そいつも頭おかしいが、周りで傍観してる奴らもどうにかしてるだろ・・・・。
「ちょ、ちょっとお前!すごく肩痛いんだけど!?手を離せって!」
俺の中で何かがすっと収まった。かなり久しぶりの感覚だ。視野が無意識に広がっていく。
「って、おい!どこ行く気だよ!おいったら!」
俺の呼吸がだんだんと小さく短くなっていく。
「あ?おいなんだお前。見ない顔だな。まぁいいや。俺の邪魔をするなよ。コイツは裏切り者だから今のうちからしっかりと躾て置かないとッ・・・・!?」
胸倉を掴んで引く。そして足払い、投げおろすッ!
泥のしぶきが飛び散る。仰向けに転がしたテオバの顔にも泥がしっかりと付いていた。
「おいガキ。男にゃよ、やっちゃいけねぇことが二つある。一つは親を泣かすこと。もう一つは女を殴ることだ」
「お、お前っ・・・お、俺にこんなことして父上が許すと思って・・・」
俺は倒れたテオバの胸倉を掴んで無理やり立ち上がらせる。そして―
「分かったか?おい、覚えたかって聞いてんだよコラ!」
「は、はっ」
俺は握りこぶしをテオバに見えるように作って見せた。
「もう一発殴られるかボケが!」
「ひゃいっ!ごめんなさい!」
俺が胸倉から手を離すとテオバは一目散に逃げていった。その姿を見て野次馬共も散り散りになって俺と目を合わせないようにして、蜘蛛の子を散らすの言葉通りに逃げて行った。
「君、大丈夫?ケガとかしてない?」
俺は散らかった少女の荷物をまとめて、彼女を近くのベンチに座らせた。
少女は目を丸くしながら俺を見ている。まるで見たこともない珍獣を見ているみたいだった。
「な、なんで私を助けてくれたんですか・・・?」
おどおどした彼女の喋り方は震える子猫のようだ。
「泣いてる女の子を助けるのは当たり前のこと、だよ。理由なんて特には無いさ」
「で、でも普通は、誰も助けようとはしないと思い、ます」
普通じゃない。そんな普通がまかり通るはずがない。
「う~ん・・・、それじゃあ俺が男として虐められている君を助けたいと思ったから。これでどうだ!」
「お、男・・・?」
お、おう?なんで男の部分で疑問形なんだ?まさか俺はいつの間にか女々しい男になってしまっていたのか!?そんな・・・俺のどこに女々しさが・・・・?
メイド服が俺の頭の中を駆け巡った。それで納得してしまう。
「あぁ、なるほど・・・」
「よくは、分かりませんが助けてくださってありがとうございました・・・!あ、あのお名前は・・・」
少女が俺の名前を聞いたちょうどそのタイミングで野太いおっさんの怒鳴る声がして俺の腕が強引に持ち上げられた。
「痛っ!なにすんだいきなり!」
「お前だな?ルロイデン公の子息を投げ飛ばしたというのは」
え、なに?ルロイデン公?誰?
何が何だか分からないうちに俺の腕に手錠が掛かった。
「『
いきなり俺の手に手錠が掛かったんですけど!?どういうことなの!?
「ま、まってください憲兵さん!その人は・・・」
「貴方はツェルストの・・・。申し訳ないがこれは規則なのです。ほら立たんか」
少女はおっさん憲兵に何か言おうとしたがおっさんは全てを聞く前に俺を無理やり立たせてもう一人いた憲兵に俺の連れて行かせる。
「そいつを牢屋に入れておけ」
もう一人の憲兵がおっさんに敬礼をした。そして俺の体は何か見えない力で動かされてるみたいに先を行く憲兵の後を追ってしまう。
何がどうなってるんだよ!?牢屋!?
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