第3話

次の日から学校帰りにマンションの周りをうろうろして、猫を探すようになった。

しかし、2、3日経っても猫は見つからなかった。

猫を探している時、ちよは必ずマンションの前にいた。

『ちよならすぐ見つかるのにな〜。』なんて思ったりもした。

「奈々ちゃん、今日も猫さんを探してるの?あたしも一緒にいていい?」

「ちよちゃん、ありがとね。今日も一人??ママいなくて平気かな?」

「…。猫さんは幸せだね。こんなに奈々ちゃんに探してもらって…。誰かに心配されるって…。」

不意に大人っぽい話し方をしたので私は驚いた。

見た目は4、5歳くらいの子供なのに、ちよが私と同じくらいに見えた。

結局この日も猫は見つからなかった。

ちよと公園のブランコに座りながら、なんとなく話をした。

「ねぇ、ちよちゃん。いつも一人だけどママは忙しいの?」

「…。」

この質問をするといつもちよは答えない。

「じゃあ、ちよちゃんは何が好き?好きな男の子いる?」

「…。…が笑ってる姿。」

ちよがぽつりと言った。

「え?ごめん聞こえなかった。何?」

「ううん、好きな男の子なんでいないよ〜。じゃあさ、奈々ちゃんは楽しい事ある?」

「えっ?特にないかな〜。考えた事もなかった。でももう少し驚くような出来事があればな…。」

「ふぅん〜。奈々ちゃんは贅沢者だよねー。」

私はちよの横顔を見つめた。

そしてますますちよが大人に見えた。

考えてみれば私はちよの事全然知らない、この子はもしかしたら見た目以上に年を取っているのだろうか?

「…。ちよちゃんは何歳なの?幼稚園とか小学校には通ってないの?」

「えーっとね…お仕事をしてるの〜。それが大事なの〜。」

さっきまでの表情とは違い、子供のような無邪気な顔に戻っていた。

「仕事?何をしてるの?」

「えっとね〜…奈々ちゃんのお手伝い!猫さん探してるの。」

ブランコを漕ぎだしながらちよは答えた。

その顔には大人の表情はもはやなかった。


私ははぐらかされた気もしたが、考えすぎだと思い直して質問をやめた。


「もう少ししたら帰ろっか。送ってくよ。」



「ううん、すぐそこだから平気。またね。」


そう言うとちよはブランコから飛び降りて、公園の入り口へ走りさっていなくなってしまった。


私に分かる事はちよは普通の子供とどこか違う不思議な女の子であるという事だけだった。


まだ公園のブランコは淋しく揺れていた。

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