中編

 植物が大好きなPの家を訪ねてきた、大きな胸を振るわせる可愛い『花の精』。彼女の元になった植物を大事に育ててきた彼は、メロメロになりながら家の中に案内しました。ところが、ふと振り向くと、再び玄関の外に全く同じ彼女が立っていたのです。


 いつの間に元の場所に、と驚きながら尋ねようとした彼でしたが、先に口を開いたのは少女の方でした。


「うふふ、私も花の精です♪」

「え、え……私『も』?」


 Pが状況を飲み込めないまま、新しい花の精もまた家に入ってよいかと尋ね、ついうなづいてしまった彼を見て満面の笑みを返し、大きな胸を揺らしながら裸足になり駆け上がって――



「うふふ、私も花の精です♪」

「……え、ええええええ!!」


 ――彼女の後ろから、さらに新たな『少女』が現れたではありませんか。

 鮮やかなオレンジ色の髪、瞳は青色に輝き、肌はまるで透き通るかのように美しい肌、豊かな胸の谷間を見せつける、葉っぱを思わせる綺麗な緑色の妖精の衣装。その外見も声も笑顔も、何もかもが家の中に入ってきた2人の『花の精』と全く同じだったのです。


 唖然とする彼を尻目に、3人目の花の精は説明も言わず、お邪魔します、と一言告げただけで、すぐに裸足になってスタスタと家の中に入っていきました。しかもそれだけではありません。彼女が入った直後、今度はまた4人目の花の精が姿を現し、それが入ると5人目、6人目、7人目、10人目、20人目――。


「お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」お邪魔します♪」…



「え、え、ええええええぇぇぇぇぇ!??」


 ――ようやく大変な事になっていることに気づいた彼は、慌てて家の外を眺め、さらに大きな声を上げて絶叫しました。

 当然でしょう、緑色をした雲の下、彼の家に向かって、延々と続く行列が出来ていたのですから。そして、その行列を形作っていたのは――


「うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」うふふっ♪」……


 ――頭のてっぺんからつま先まで全く同じ姿形をした、何十、いや何百人もの『花の精』でした。しかも、Pの叫びを聞いた途端、大量の花の精たちは列を一斉に崩し、彼の家に向けて押し寄せ始めたのです!



「こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」こんにちはー♪」私も花の精ですよ♪」……



 ですが、大量の少女が家の中に入る直前、何とかPは扉を閉め、鍵をかけることに成功しました。外から無数の足音やノックの音、笑い声が聞こえても、彼が家のドアを開けることはもう無いでしょう。


「ふぅ……」


 ため息をつきつつ部屋のドアを押さえながら彼はしばし考えました。確かに自分が育てた植物が美少女の『花の精』に変身して家にやってくる、おとぎ話のような出来事が現実に起こってしまうほど嬉しい事はありませんでした。ですが、どうしてあんなに大量に戻ってきたのでしょうか。混乱していた頭が落ち着きを取り戻すと共にその理由を探り当てようとしていた彼の顔が、少しづつ青ざめ始めました。

 まさか、いやそんな事は無い、でもそれしか考えられない――再び頭の中が混乱に満ち始めたその時でした。、何かが大量に割れる音が、2階の部屋から聞こえ始めたのです。


 家の外にも数え切れないほどの花の精がいますが、既に家の中にも押しかけてきた何十人もの花の精が押しかけてきています。そして、家の中に入った後彼女たちが何をしているのかは把握していませんでした。つまり、家の中では彼女たちが何でも好き勝手に出来るという事になり――。


「うわああああ、や、やめろおおおお!!」


 ――絶叫しながら彼が部屋に飛び込んだ時、たくさんの植物を大事に育ててきた部屋の中は、既に取り返しのつかない事態になっていました。


「うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」うふふふ♪」あははは♪」……



 大量の花の精たちによって、花瓶は割られ、草木は滅茶苦茶に踏みにじられ、花は全て枯れ果てていたのです!

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