異世界の友人
碧木ケンジ
短編
俺の名は山城健二(やましろけんじ)って言う普通の高校生だ。
いつもはゲームばかりしていて、友達とかは学校以外は話さない。
ノートの貸し借りの関係でそれ以外の関係なんて持っていない。
今日は待ちに待った新作ゲームの発売日なので、学校の授業が終わると家に急いで帰った。
ゲームは家に今日届くので待ちきれない。
いつもはダラダラと帰る徒歩の通学も今日ばかりはウキウキした気分で帰れる。
延期騒動もあったけど無事に発売されるんだから楽しみだ。家に帰ってオンライン対戦していつものメンバーに加えて新しいフレンドも作っていこう。
そんな気持ちとは裏腹に、家の玄関前に着くと何だか気分が悪くなってきた。
立ちくらみかもしれないのでそのまま玄関前に座り込むと目の前が真っ暗になってしまった。
※
気がついた時には周りがレンガで覆われたちょっと薄暗い広い部屋にいた。
ここはどこだろう?
「気がついたか、少年」
目の前にいる赤いマントを覆った鎧を付けた年上の男の人に声をかけられた。
「あの、ここはどこでしょう?俺さっきまで家の玄関前にいたんですが」
俺は動揺しつつもその赤マントの人に質問した。
答えてくれる可能性よりも誰かにすがりつくような不安を覚えてしまった。
「ああ、すまない。私が君をここに呼んだのだ。突然こんな場所に呼び出されて混乱しているようだが、用件が済んだらすぐに元の場所に戻す」
何を言っているのか言葉の意味が解らなかったが、日本語だったので言葉は通じるみたいだ。
「言っている意味が解らないのですが」
「ああ、実は君を異世界から召喚したんだ。つまりここは君の住む世界とは違っているんだ」
「ええっ!そんな元の世界に返してくださいよ」
「だからある用件が済んだら返してあげよう」
微妙に上から目線だこの人…。
こうなっては仕方ないが、異世界召喚なんて本当にあるんだと実感した。
そういうのはゲームやアニメやラノベとか映画にしかないと思っていたけど、信じていいのだろうか?
「本当にここ異世界なんですか?証拠あるんですか?」
「なら私が一つ簡単な魔法を唱えてあげよう」
そういうと赤マントの人は何やら早口で呪文らしいものを詠唱し、右手から光の玉を出した。
それはタネも仕掛けも無い魔法と呼ぶ位に凄い奇跡だった。
「うわぁ!本当に魔法ですよね。すごいなぁ!」
俺は半ば興奮気味だったが、赤マントの男はそのまま光の玉を空中にかざした。
「これは電灯代わりに上に上げておこう。信じる気になったようだね。ところで…」
「はい、なんでしょう」
「お互い自己紹介をしてもいいんじゃないか?」
「あっ、言われてみればそうですよね。俺は山城健二って言います」
「山城か、私はウェイン・アースランド、冒険者だ。座りたまえ」
ウェインさんに言われて俺はその場に座り込むことにした。
「あの、ウェインさん。ここって異世界って言いましたけど、この場所はどこなんですか?」
「ああ、ここはジェネレーションタワーというダンジョンの990階のフロアだ」
「えっ!ダンジョンなんですか!モンスターとかいるんじゃないですか?」
「大丈夫だ、このフロアは全て倒したので私と君以外は誰もいない」
「ウェインさんって強いんですか?」
「闘神ウェインと呼ばれていたこともある」
「へー、強そう」
俺は小学生並の感想でそう言った。
「それである用件があって俺を呼んだんですよね?どういう用なんですか?」
「大したことではない今みたいに話し相手をしてほしいだけだ」
「へっ?」
「話し相手になってほしいのだ。何せこの塔を登ってからというもの時間という概念がずれにずれてしまって長い間人と話をしていなかったのでな」
「あ、それだけのために俺は召喚されたんですね…なんだか損な役回りだなぁ」
「山城、君を巻き込んで本当にすまないと思っている」
「いえ、いいですよ。嫌と言ったら元の世界に返してもらえないですし」
半ば強制でウェインさんと話をすることになった。
「そういえば話し相手がいないと言ってましたが、ウェインさん以外に他のメンバーとか連れてないんですか?」
「仲間はみんな私の故郷であるストーンカ国にいる」
「え、それじゃあ1人でこの塔を登っているんですか?何のために?」
「この塔には言い伝えがあってな」
「言い伝え?」
「最上階まで1人で登ったものにはエルフ以上の寿命と膨大な知識と力が手に入るという言い伝えがある。そのために私は1人で塔を登り、世界を救う英雄にならなければならないのだ」
そんな壮大なことで塔に登ってたんだこの人…でも英雄になりたがるなんて目立ちたがり屋なんだなぁ。
「なにやら大変な使命を持って登っているんですね」
「私以外にこの上の階を登ったものはいないのだ。私がやらなければならないだろう」
「そういえばこの塔はあと何階くらいで頂上なんですか?」
「あと10階上がれば頂上に着くとこの塔の石板に書かれていた」
「ってことは1000階もあるんですか、この塔って…なんかすごい登るんですね。酸素とか薄くならないんですか?」
「塔自体がもつ魔力などで酸素は地上と変わらないと1階の石板には書かれていた記憶がある」
「異世界って不思議なんですね。食事とかはどうしてるんですか?」
「モンスターを倒してその肉を解毒して魔法で焼いて食べている」
うわぁ。思っていたよりもワイルドな生活してたんだな。
「特にミノタウロスの肉は焼くと旨いので逃がさないようにはしている」
「水とかは大丈夫なんですか?1000階もあるんだし足りないと大変じゃないですか?」
「魔法で出せるようになった」
すげえ便利だな魔法って…。
「飲むなら魔法で出すが?寒いなら周りに炎の魔法でたき火くらいなら作れるがどうする?」
「あ、それじゃあお願いします。ちょっと眠くなってきたもんで」
「わかった」
ウェインさんはそういうと魔法で水の入った容器と暖かいたき火を手から出した。
まるで手品を見ているようだが、魔法を唱える時に周りが白く光るので手品ではないことは解る。
「元の世界に戻すときは数分後程度の時間軸に戻せるので、出来れば長く話し相手をしてもらいたい」
「あんまり話し上手じゃないんですけど、それでいいなら話しますね」
「いてくれるだけでもありがたいから気にするな。毛布は私のマントしかないがそれでよければ、それをかぶって寝なさい」
「あ、解りました。昨日眠れなくて学校から帰った時からちょっと寝ようかなって思ってたので」
「そうか、そちらの世界にも学校があるんだな。世界の構造は同じようにも見えるな」
「いえ、魔法とかモンスターとかダンジョンは無いので全く別の世界ですよ。それじゃあ、しばらく寝ますね。おやすみなさい」
「ああ、私も護衛の召喚獣を出して見張りを立てたら寝るとしよう」
ウェインさんなんか便利だな。召喚獣と話が出来ればいいんだろうけど、きっと出来ないんだろうな。だから俺が呼ばれちゃったのか…もう寝よう。
※
次の日(?)になって起きてみるとウェインさんがたき火でお肉と水を用意してくれた。
「起きたか…ちょうどいい焼け具合だ。食べてみるか?」
「あの、これって例のミノタウロスの肉ですか?」
質問を質問で返すような礼儀知らずなことを俺は言ったが、ウェインさんは丁寧に答えてくれた。
「いや、これはワーウルフの肉だ。コリコリしていて旨いぞ」
「お腹減ってないのでいいです。どうぞどうぞ」
「そうか、なら食べたいときはいつでも言ってくれ」
そういうとウェインさんはそれを塩をかけて食べた。
ワーウルフって狼だよな?狼の肉か…実際上手いんだろうか?
お腹も減っていないので味を知ることは無かったが、ウェインさんが食べ終わると水を飲んで一息ついた。
「そういえばウェインさんって彼女とかいるんですか?」
「山城はいるのか?そしてどうしてそんなことを?」
「いえ、俺は残念ながらいませんね。なんかウェインさんってモテそうなオーラ出てるからいるのかなぁって思って聞きました」
「西の王国の姫と結婚の約束をしている」
「へー、ロマンチックでいいですね」
「侵略をしない代わりに姫を捧げ、国を守ってほしいと王に頼まれた」
「あ、すごい残酷な事情ですね。美人なんですか?」
「女はみんな同じような顔に見えて良く解らない」
結構辛辣なこと言う人なんだな。
「デートとか話ってしたことあるんですか?」
「城下町を一緒に馬車で見た事があるくらいだ。これが私たちの守る国だからよく見て欲しいと姫から頼まれた」
「ただのデートかと思いきや、重い理由があったんですね」
「山城のいる世界はどうなのだ?彼女をデートに誘う時はどういうやり方があるのだ」
「うーん。一緒に買い物をしたり、色んな場所で遊んだりするのがデートですかね」
「そこに理由はあるのか?」
「え、お互いの事が好きだから一緒にいたがるもんなんじゃないでしょうか?」
「そんなものか。私にはそういった女性はいなかったな」
「姫様とこれからそういう関係を作っていけばいいと思いますよ」
「うむ、それもそうだな。良い事を聞いた。感謝する」
「ああ、いえ、そんな大したこと言ってませんから」
というかそろそろ家に返してほしいな。
新作のゲームとかやりたいんだけど…。
「山城」
「なんです?」
「自分のいる世界に帰りたいか?」
「ええ、なんで解ったんですか」
「そういう顔をしていた。嘘はつけないようだな」
「あはは、すいません。実を言うと帰りたいです」
「わかった、だがまた呼ぶことがあるかもしれない」
それはなんとも迷惑な話だ。
「でもこの塔ってあと10階登れば頂上で外に出られるんですよね?俺呼ぶことないんじゃないですか?」
「力を手に入れた後に外の世界で戦ばかりで人々が私を怖がり話しかけてもらえないこともある。そういうときにまた山城を呼びたい」
「俺限定なのが何とも微妙ですね。他に呼べるんですよね」
「実を言うと880階の時に召喚して呼んだ相手が話も合わないのですぐに返してやった。これだけ話せたのは山城だけだ」
ああ、無口に対応してれば俺はすぐに元の世界に帰れたんですね。
「あの呼ぶときは前もって連絡できないんですか?」
「頭の中に直接声をかけて呼ぶこともできるが」
「それ便利ですね。今度呼ぶときはそれ使ってください。こっちも勉強とかゲームとか食事とか色々なケースがあるんで、前もって連絡ないと困っちゃいますね」
「わかった。今度からそうしよう」
「そうですね、俺の世界の時間って把握できますか?」
「そういう疑似転移魔法の応用で時間帯はだいたいわかる。と言っても朝か夜かくらいしかわからないが」
「それなら夜にしてください。朝や昼とかだと学校あるんで頻繁に呼ばれるのは元の世界に戻った時に疲れが酷くなりそうですし」
「わかった。山城、今度呼ぶときは外の世界なんだが、旨い酒のある酒場でご馳走しよう」
「いや、俺未成年なんで酒は無理ですね」
「未成年だと飲めないのか?」
「俺の世界の法律ではダメっぽいです」
「私の世界では15になれば飲んでいる奴が多い」
ウェインさんのいるとこって意外と酒に緩い世界なんだな。
「酒は駄目ですけど、ご馳走なら今度食べてみたいですね」
「わかった。呼ぶときは旨い飯屋のある町の近くで呼ぼう」
「そうしてください。あと外の世界の珍しい景色とか見てみたいですね」
「魔物がいるので危険が伴うが景色はのどかでいい所もあれば、神秘的な景色もある」
「魔物って怖いんでしょうね。その時は守ってくださいよ」
「私の防御結界を貼っておけば、だいたいは攻撃の通じない魔物が多いから安心だろう」
「それは頼もしいですね。そういえばウェインさんと俺ってなんで言葉が通じちゃうんですか?」
「それは召喚時にこちらの言語になるようにカテゴライズされるからそうなるだけだ」
「魔法って便利ですね」
「それではそろそろ元の世界に返そう」
「あっ、お願いします」
「また会おう山城」
「すぐには呼ばないで下さいよ。頻繁に呼ばれると俺も疲れますから」
「わかった、さらばだ」
そういうとウェインさんは長々と呪文を詠唱し、周りに魔法陣が生まれ。気づけば俺の周りは光に包まれて、そのまま眠くなった。
寝て起きたら、家の玄関の前にいた。
手には手紙があった。
ウェインさんが書いた字だろうか?また会おうとだけ書かれていた。
ノートの貸し借り以上の関係の年上の友人が劇的だか、出来てしまった。
「妙な友人が出来ちゃったな。アメリカ行くのとは訳が違うし…ま、いいやゲームしよう」
夜になればいつかウェインさんに呼ばれるのだろう。
そうして俺は家のドアを開けて、その日は家でのんびりと過ごした。
居間に入ると何故かウェインさんがいた。
「すまない、話している内にこっちの世界にも興味が湧いて、一定時間限定でいられるのだが、来てしまった。寂しいので話してくれないか?」
母さんと父さんにどう説明しようか俺はこの時悩んだ。
異世界の友人 碧木ケンジ @aokikenji
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