第2話
前回のあらすじ
教室で落ち込んでいた僕に直輝君が声をかけてきた。
彼は僕にいっしょにゲームを作ろうといってくるが…
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昨日は興奮のあまり眠らなかった。クラスメートの直輝君にいっしょにゲーム作ろうといわれたけど、何度もあれは夢だったんじゃないかという気がしてくる。
回らない頭でふらふらと学校につくと、登校してきた生徒がちらほらと教室に入ってきた。
(あー、現代社会の教科書わすれちゃった)
鞄の中を整理していると、今日の授業の教科書を忘れていることに気づいた。まぁ、いいや。あの授業、当てられることもないしなんとかなるだろう。
1限、2限目と授業が終わり、あっという間に昼休みになった。なんだか今日一日が早く感じる。購買部に昼ご飯を買いにいこうとしたときに直輝君に呼び止められた。
「山中ー、明後日の放課後って予定あいてる?」
「あ、あ、うん、開いてるよ」
「それじゃ、明後日の放課後、教室で」
彼はそういうと、ふわりと男子の集団の中に戻っていった。何するんだろう。やっぱりゲームの話かな。
時間は案外早く進む物で、2日後はすぐにやってきた。約束通り、直輝君は僕を待っていた。「駅前のハンバーガーショップに行こう」と誘われ、僕は直輝君の後をついていく。学校を抜けて、徒歩15分くらいでスマイル0円のハンバーガーショップに到着した。時間帯が夕方なので、店内は相変わらず人が多い。
僕は適当なドリンクを一つ頼んで、席へ向かった。2階のフロアに行くと、先に座っている直輝君と一緒に、同じ学校の制服の女の子が二人座っていた。
(え、もしかして、これはうわさの合コン!?あれ、モテ期来た!?)
内心、そんな思いがよぎった。女の子のうちの一人が「こんにちわー」と声をかけてくる。あいにく、小心者で女の子の友達がいない僕には、学校の外で女の子と食事をするという経験が一切ない。
「あ、山中、来た来た。紹介するよー」
少し間を置いて直輝君の言葉が続く。
「こちらが今回のゲーム作りで協力してくれる二ノ宮にのみや一花いちかさんと城川こずえさん」
先に声をかけてくれた女の子が二宮さんで、物静かそうな女の子が城川さんらしい。
「はじめまして、山中君。二ノ宮です。学年は君の一つ上かな。私も絵を書くのが好きだから、分からないことがあったらなんでも聞いてね」
「一花先輩が挿絵担当してた小説、俺本屋で買いましたよー」
「えー、ほんと?ありがとうね!」
(え、直輝君、今小説の挿絵っていってたよね!?プロデビューしている人?)
僕が少し固まっている間にどんどんと自己紹介は進んでいった。一つ先輩の一花先輩は、ライトノベルのイラストレーターらしい。詳しく話を聞くと、小さい頃から絵を書いていたらしく、中学生の頃から、出版社のイラストコンペへの投稿や編集部への持ち込みを通じて、今年イラストレーターデビューしたそうだ。高校生でプロなんてなんてうらやましい。
「私は、城川こずえ。携帯小説書いてるの。学年は山中君と一緒ね。多分今回のシナリオを担当するわ」
さらっと、自己紹介が終わった城川さんだけど、直輝君が付け加えた紹介によると、彼女もすごいらしい。サイトのアクセルやランキングが上位になり、書籍化が決まったそうだ。小説書くことに興味がない僕でも彼女がすごいことがよくわかった。それにしても、直輝君よくこの二人探してきたな。
「僕は直輝君と同じクラスの山中宣毅やまなかのぶきです。趣味でイラストを描いています。初心者ですがよろしくお願いします。」
よし、僕言い切った!
「山中君はどんな絵を描いているの?」
「こんなのなんですが…」
一花先輩に促され、僕は自分のイラストを取り出した。最初の頃よりはちょっとましになっているとはいえ、まだ自信がない。城川さんも遠目から僕のイラストを覗き込んでいた。二人とも真剣に見ているせいか、ノーコメントなのがなんとも気が重い。
「さてと、自己紹介も終わったことだし、企画の話を進めていこうか。3人ともこれ見てくれる?」
直輝君が僕ら一人一人に何かの紙を配った。目をこらしてみるとびっしりとスケジュールが書き込まれている。
「左側のマス目が、仕事の役割で大きな区分は『イラスト』『シナリオ』『プログラム』『システム画像』『ホームページ』、右上の欄は日付になってる。製作期間はとりあえず2ヶ月でとってみた。今回はみんな初めてだし、クオリティーよりも完成させることを目標としよう」
今日の日付のところを確認してみると、企画会議と書かれてあったさすがだ。というか、これがある時点で学生の活動じゃない気がするのは気のせいだろうか。担当作業と日付がマス目になって、それぞれのマス目が一致したところに、「製作」「修正期間」などの用語が書いてある。
「で、ゲームのジャンルとあらすじを決める前にボリュームだけ決めておこうか。プレイ時間15分から30分を想定してるんだけど、城川さんはどれくらいかけそう?」
「それは2ヵ月でってこと?」
「いけそうだったら、最終的には10万字、最初の2週間で4万字くらいあげてほしいんだけど」
「部活入ってないし、2週間あれば、8万字くらいいける。それって、直輝君が前いってた分岐系の話かけばいいんだよね?」
「うん、メインの話を5万字くらいで書いてほしいんだ。あとは、話の膨らませ方で量も変わってくると思うけど」
直輝君が城川さんにいっているのって、スケジュール表のシナリオのところの話かな。表で見るとすごく作業量が多そうに見えるんだけど。
「…シナリオ量はこれで決まったから、肝心のゲームの内容を決めてから、役割分担決めようか。山中は、希望とかある?ジャンルとかターゲット層とか」
(ん?僕にふるの?)
「んーと、ぎゃ、…少年漫画のようなノリで、えーと、その、お、女の子と最終的にはくっつく話、…なんて、ど、どうでしょうか」
初対面の人の前で、自分の好みを話すのは勇気がいる。というか、僕は女の子二人にどん引きされないか、言葉を選びながら慎重に話した。二人ともおたく度がどこまでの人かなのか分からないから、あまりぶっとんだ話ができない。
「それって、ギャルゲーのようなベタベタなものってこと?私、男の子向けの話書いたことないんだけど」
つかさず、城川さんからつっこみが入った。そうだ、話を書いてくれるのは彼女だった。というか、このメンバーで好みが合う物が作れるんだろうか?
「こずえちゃんは普段どんなお話書いているの?」
一花先輩が城川さんに尋ねる。
「ファンタージ系の恋愛小説物です。読者は女の子なんですけど、私、悲恋系の切ないのが大好きなんです。」
「そうなんだ。私も、ファンタジー大好きだよ。山中君は男の子向けのお話書いてほしいんだよね?それじゃあ、間をとって青春系のちょっと切ない感じのなのはどう?」
「青春、…いいですね。男の子同士の友情も上手く描ければ女の子受けも良さそうですし」
一花先輩のフォローを受けて、城川さんのやる気がでてきた。やっぱり女の子同士はお互い分かり合えるんだろうな。物語を書いたことのない僕にはさっぱりだ。城川さんはその後、僕にも分かりやすいように、はやりのジャンルやキーワードをノートに書き込み解説してくれた。設定だけで、読者層の絞り込みができるそうだ。
話が白熱して1時間後、ようやくストーリーの方向性とジャンルが決まった。近未来系のSF恋愛青春ストーリーだ。僕としては、結構コテコテの話にしても良さげな気がしたが、城川さんによると、設定が凝りすぎて、読者が置いてきぼりになる場合があるので、ライトな読者層を狙った作り込みの仕方がいいらしい。
その後、キャラクター設定でまた話が盛り上がり、なんとか登場人物とあらすじが固まった。
「あ、そうだ、画像担当の分担なんだけど、山中インターフェイスデザインしたことある?」
「直輝君、そのインターなんたらって何?」
「うーんと、ソフトウェアを作る上のボタンやゲーム画面のデザインなんだけど…一花先輩、お願いしても大丈夫ですか?」
「いいよ。スタイリッシュな感じかいいのかな?カーブを入れたりするんだったら、透明化しないといけないからちょっと時間かかるけど」
「はい、その方向でお願いします。UIデザインは一花先輩っと。キャラクターの立ち絵、背景、イベントスチルなんですけど、振り分けどうしましょうか?」
あ、ついにメインの話がでてきた。キャラクターの担当はやりたいけど、一花先輩が描いた方がゲーム評判高くなるんだろうな。でも、やりたい。うん、やりたい!僕に割り振ってくれないかな。というか、振ってくれ!
「そうね、山中君は、立ち絵は書きたいよね?一番の目玉になるとこだし」
「はい、できれば描きたいです」
おぉ、ナイス、一花先輩!チャンスが来た!
「せっかくだから、できるところまでやってみない?難しいところは私もいっしょに手伝うし」
「はい、お願いします!」
ほんとにいい先輩だ。多分よその人たちと一緒にやってたらこう簡単にはいかないんだろうな。
「ところで、直輝君、なんかめちゃくちゃ詳しいね。本格的すぎてびっくりしたんだけど」
僕はちょっと思っていたことを聞いてみた。
「バイトでソフトの組み込みや社内用アプリ手伝ったりしたのもあるけど、大体が人からの受け入りかな。こういうのって1回何かしらの開発に携わったら、基本は同じだから。細かいとこは違うけど。えーと、これで、イラスト関連は終わりで、次はホームページか。一花先輩できますか?」
え?ホームページって必要あるの?
「うん、大丈夫。何かサイトのイメージの希望とかある?」
「そうですね、後でいいサイトが見つかったら、URL送りますね。ゲーム公開を3ヶ月後に想定して、宣伝もしていきたいと思うんですけど、何かいい案ありますか?」
「パソコン用と携帯用の宣伝バナーを用意して、知り合いのサイトにもはってもらうようにしようか。こずえちゃんも小説サイトの方で宣伝してもらってもいい?」
「まかせてください」
「じゃあ、プロモーションの方は大手サイトの二人にお願いして、今日はこの辺にしとこうか。もう結構暗くなってきたし」
外を見ると、日が沈んでいた。どうやら、僕らは3時間話し合いをしていたようだ。僕たちはお互いにメールアドレスの交換をし、早々に別れ帰途についた。ちょっと、置いてきぼり感はあったけど、同年代の人たちと自分の作りたい物の話ができて僕はすごく満足したし、学ばなければならない世界があることを知った。僕にとって大きな第一歩だ。
目標も決まったし今日は、ゆっくり眠れそうだ。夜、携帯電話の着信音がなってたようだが、僕はそのまま惰眠をむさぼった。
次の日、メールをチェックすると、直輝君からメールが来ていた。
『山中、おつかれさん。連絡用に非公開性の掲示板を作ってみたから、ログインしてみて。』
(あれ、もう始めたんだ。仕事早いなぁ)
メールについているリンクから掲示板にとんで、記載されたパスワードをIDを打ち込む。サクサクとログインが進んで、レンタル掲示板の画面になった。
>>ゲームプロジェクト連絡掲示板 β版
○月2日 23:12 投稿者:直輝
掲示板設置しました。
全員で作業進行の情報を共有したいので、何か進んだら、こちらにも書き込みお願いします。
画像は1MBまでアップロードできます。
添付:テキスト_キャラクター設定シート.txt
ーー
○月2日 23:38 投稿者:一花
直輝君、ありがとう!
画像1MBまでうっpできるなんてすごいねーw
ーー
○月3日 01:34 投稿者:こずえ
掲示板の設置ありがとう。
シナリオ導入部分ができましたので添付します。
書き直してほしいところがあったら、メールください。
kozue199809@gmail.com
添付:テキスト_あらすじ.txt
すでにみんなから書き込まれてあった。てか、城川さん、ちゃんと寝てるのかな。…みんなハンドルネームとかって使わないんだ。まぁ、分かりやすくていいけど。
直輝君からメールの続きがあり、今週中にキャラクターデザインと一花先輩と一緒に仕上げるように書いてあった。
「一花先輩のアドレスッと」
携帯のアドレス帳からメールの宛先を探し、メールを新規作成した。
「…の件で、ご相談があるんですが、今週お時間とれませんか、っと。件名なんて書こう」
本文を書いては消すを繰り返し、なんとかメールが完成した。僕は友達は多い方ではないし、あまりメールを書く方ではないので、自分の文面に自信が持てない。ぷるぷる震える指で送信ボタンを押す。
制服に着替えて僕が家族と朝ご飯を食べながらニュースを見ていると、一花先輩からのメールが届いた。
(返信、早いなぁ)
『送信者:二ノ宮一花
件名:おはよー
山中君、おはようー!昨日はよく眠れた?
キャラクターデザインの件だよね。直輝君からもメールもらったよ。
私も何かしら資料用意しておくから、明日の放課後なんてどう?』
よっしゃぁー!朝から、女の子にメールもらえるなんてなんて清々しいんだ!
携帯画面を見ながら僕はにやけ顔をとめられなかった。女友達が今までいなかったんだ。メールくれる友達がいなかったんだ。悪いか!?
一瞬、リア充の仲間入りをしたような高揚感を味わいながら、目の前の目玉焼きを口にほおばった。なんだか、今日の朝ご飯がとてもおいしく感じる。
「パパ、宣毅が携帯見ながら、悶絶してるわよ」
「思春期なんだ。放っておきなさい」
家族がこんな会話をしていたなんて僕は知らない。
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