突然クラスメートがゲーム制作するというので、僕は天才絵師にならなければならない。
雨都アマネ
第1話
スクールカースト制度という言葉がでだしたのはいつ頃からだろうか?少なくとも僕が小学生になったときにはあったような気がする。
教室の生徒が一軍、二軍と呼ばれる集団に区分され、四軍にも入れない人たちはモブ扱い。僕が在籍したクラスも少なからずそんな感じだった気がする。
残念ながら僕もイケメン軍団に区分されることもなく、中学時代は寂し人生を送ってきた。高校に入り、高校デビューも間に合わず、相変わらず同じようなルーチンワークを送っているが、おたくでないように装うには気を使っている。女子に「きもい」とどん引きされるのは、さすがに思春期の僕にもこたえる。
女子からの評判が点でだめな僕が、クラスの人気者の直輝君とからむようになったのは、たまたま偶然だった。いつものように、教室でこそこそとゲーム雑誌を広げていたときに、たまたま直輝君が僕の側を通り過ぎた。
「あ、それ今度でるやつだよね?」
確かそんな感じの言葉だった気がする。その時の僕は、次のページの萌えキャラゲーム特集が隣の女の子に見えないようにヒヤヒヤしていたので、詳しく覚えてない。すごく短い会話だったけど、その日から直輝君はにからんでくれるようになった。
そうそう、直輝君についてちょっと記しておこうと思う。彼は、人気者だけどちょっとかわっている。男女からも当たり障りなく好かれるタイプだし、よく注目はされるけど、自分から物事を率先するタイプではない。だけど、いつの間にかみんなが彼についていく。成績は学年トップで授業中はよく寝ている。脱力系キャラっていうのかな。空手の元ジュニアチャンピオンだとか、ジェームズボンドだとかいう人もいるけど、未だに友達ともいえない僕が直輝君にきちんと彼自身の話を聞いたことはない。
ちらっと、教室の直輝君を見てみた。あ、また寝てる。
そんな彼を横目で見ながら、制服のポケットから携帯を取り出した。今日は、ネットの掲示板仲間からメールが届いているはずだ。
フリーメールの受信ボックスを確認しようとカーソルを動かした。次の瞬間僕の脳内はフリーズした。
『同人ゲーム×××の製作中止のお知らせ』
ネットの同士の集まりで作っているゲームの企画がなくなったという知らせで、この企画に僕は新米のイラストレーターとして参加していた。
(そんな!?採用されるようにあんなにバストアップのカットも練習したのに)
企画ページのサイトにも飛んでみたけど、それが覆ることはなかった。
僕はこの企画がネットで公開されてから、製作チームに入れるようにものすごくがんばった。イラスト同好会のような好きな同士が集まった、小さなサークルサイトの企画だったけど、僕はこのためにものすごくつくしたつもりだ。今まで、鉛筆画しか書いたことなかったのに、ペンタブレット、スキャナーを買って、スキャナーのおまけの画像編集ソフト(ペンタブにもついてたけど)ではじめてCGと呼ばれるものを書いた。
新人の僕にとって、一番難しいのは実績がないこと。今までこんなものを作りました!というゲームのような作品もなければ、描きだめたイラストもない。ある程度の能力があります、とアピールしなければないので、短時間でどうにか合格すれすれのイラストを描き上げた。もし、プロの人から辛口評価をもらったら、僕はしばらく立ち直れないだろう。
僕のイラストはへたっぴで、有名イラストレーターの2番、3番煎じのモノマネ以下だけど、だけど、将来はプロのイラストレーターになりたい。高校卒業後は、イラストの専門学校に入って、イラストレーターを目指したい。このゲームはそんな僕の第一歩になるはずだったのに。
悲壮感を残し、僕の短い休み時間はあっという間に終わってしまった。
放課後、クラスメイトが思い思い帰る中、僕は絶望感に苛まされていた。例えるなら、アイドルを目指した少女がデビュー突然、企画打ち切りになったようなもんだ。
(あー、これからどうしよう。お小遣いパソコン機材につぎ込んじゃったし、今度のゲーム買えそうにないな)
頭の中をぐるぐるといろんな想いが巡っている中、顔をあげるとクラスメートの直輝君が立っていた。
「あれ、山中、まだ帰らないの?」
「あぁ、直輝君。うん、ちょっとね」
「なんか、元気なさそうだけど、なんかあった?」
思い切って、僕は直輝君にゲーム企画の話をすることにした。正直いうと、普段の僕はあまりクラスメートに自分の創作活動の話をすることをさけていたが、このときの僕はなぜかすんなり話せた。
直輝君はふーんと相づちをしながらイラストを見せてと僕に聞いてきた。いつもだったら、教室では絶対に広げられないけど、あいにく僕ら二人以外には誰もいない。鞄の中のクリアファイルからイラストをゆっくりと取り出す。
「今はスマートフォン用のゲームがはやっているけど、パソコン用の同人ゲームも根強いよね」
直輝君はそうつぶやきながら、僕のイラストを眺めた。人に自分の作品を見てもらうのは緊張する。彼が感想を口にするまでの時間がすごく長く感じた。
「俺、あんまし絵のことはよく分からないけどいいんじゃない?」
「ほんと、よかった!これ、ゲーム中に使う予定だったキャラクターで、これとこれは舞台設定のスケッチなんだ」
僕は自分の作品がほめられたのがうれしくっていつも以上に饒舌にかたった。簡単そうに見える背景画だけど、ネットでいろんな写真や絵を見て僕なりにこだわったイラストだった。
僕の話が終わると、直輝君はしばらく考え込んでゆっくりと口を動かした。
「山中さ…」
次の瞬間、彼の言葉が僕の脳を直撃する。
「俺とゲーム作ってみる?プログラムは結構得意なんだ」
彼はそういってへらっと笑った。
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