第6部 絶望から希望へ
第46話 再建手術失敗。生きる気力を失った日々
翌日4月5日に手術になった。卵巣と子宮の手術は延期することにした。もう手術は十分だ。今までで4回。この2つを入れると6回になる。
大きなインプラントを取り出して、ごく小さなものに入れ替える。いつもと同じく前日何も食べず飲まずに朝一番で病院へ行く。手術は小さいバッグに入れ替えるだけだったので時間も短く吐き気は全く無かった。これはすごく嬉しい事だった。手術後の胸は痛かったけれど、すぐに家に帰ることが出来た。
それでもやはり手術後なので頭の半分に砂が詰まっているような気分だった。眠いようなフラーっとした感じだけど、いつもよりはましだった。
翌日また病院へ検査に行く。包帯を取ると太いメタルのようなもので留めてある。大きく太いホッチキスの芯のようなものだ。このビジュアルはショッキングだ。数えたら11針ついていた。全く同じ場所を4回も切ったことになる。痛いはずだった。
手術をして23日後にことだった。手術した場所が開いて、また穴が開いていた。火傷後のような固い私の皮膚はどうしてもくっつかない。
医者は一目見て、もう取り出したほうが良いと言った。この時もまた落ち込んで泣いた。何度同じ所を切るのだろうか?
4月27日 6回目の手術。
6時20分に病院入り 23日後に全く同じ場所をまた切って中身を取り出す。
点滴の針をさせるのは右腕だけで、もうさす場所がないほどだった。
インプラントを取り出すだけだったので、すごく早い手術だった。皮肉なことに一番楽だった。がっかりはしたけれど、身体の異物がなくなりすっきりした気持ちでもあった。それでも何度も同じ傷の上を切られて痛くてたまらない。
夜何度も目が覚めた。
手術から2日後に包帯を取る。前にもましてえぐれた胸がそこにあった。ペタンコならともかく、グイっとえぐれている。切除手術の時に筋肉もかなり切除しているからだ。
はじめて全摘手術をした時よりもずっとショックだった。あの時は「あとから再建手術をして綺麗になるんだ」と希望があったからだ。自分が病気になり、初めて希望がどれほど人を強くするかを知った。そして絶望がどれほど恐ろしいことかも。
この頃、生きるってどういうことだろうと考えはじめていた。なにもかもいやになり、どうしていいのかわからなくなった。
医者は「まだチャンスはある。1年くらい待って今度は自家組織でしてみたらどうだろう」と言ってくれたが、もう手術はうんざりだった。
子宮と卵巣の手術もまだ決めかねていた。卵巣の腫瘍を調べるのに1つだけ切除ににしようか?それともペットスキャンをしてもらい手術はやめようか?と考えていた。5月25日に手術の予定があったが、ひどい頭痛で気分がすぐれずに中止になった。秋ごろまで伸ばそうかと思った。
その頃リンパ腺の転移数での生存率のグラフを見てしまい、凄くショックを受けた。4つ以上の転移は5年生存率は40から50% 10年はなんと15から30%だと。3つと4つでは全然違った。この数字はあまりにも私を打ちのめした。発覚から2年たっていた。じゃああと3年?そして10年後の10%から30%は自分にとって奇跡のような数字だった。
生きていく気力がどんどん失われていった。
そしてこの頃から人前に出られなくなってしまった。外に出ると汗が吹き出し、蕁麻疹が浮かんでは消える。蕁麻疹は真っ赤に晴れてうねうねと皮膚の中を動き形を変え続ける。絶望の気持ちは人をここまで変えてしまうのか。この症状はこの時から数年も続いた。
腫瘍医は主治医だったが、変えてもらった。特に卵巣の手術が決まってからは話しづらく、気分屋な男性のドクターとは話をしたくなかったのだった。
6月に初めて新しい腫瘍医Hとのアポイントメントがあった。すごくプロなキビキビした女性だ。何でもはっきりと言う。あまりにもビジネスライクで主治医を変えたことを後悔し始めていた。
卵巣とともに子宮も取ってしまったほうが良いという。そして
「もしも再発したら、あなたの命はすごく、すごく短いのよ」と脅かされる。
――Very very short
それを聞き、一緒に病室にいた息子はわっと泣きだしてしまった。待合室に10歳の子供一人で座るのは禁止だと言われ病室に一緒に入っていたのだった。涙がぽろぽろこぼれる。もうずっと精神的に安定していたというのに。医者はすぐに息子の手を取り
「だから再発しないように頑張らないといけないの」と説明してくれたが、聞きたくなかったであろう話をたくさん聞いてしまった。子供の前で言った医者を今でも許しがたく思っている。しかしあらためて癌の恐ろしさを再確認した。
この日摘出手術の決意をする。2箇所も転移のリスクがなくなるのなら、やはりしよう。
もう息子を泣かせたくない。大きくなったけどまだまだ子供なのだ。一日でも長く生きて、これからは楽しい思い出をたくさん作ってあげたいと思った。
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