第42話 乳がんボランティア
8月になり医者と相談してホルモンブロック剤を休むことにした。あまりにもイライラしたり落ち込んだりする。急にカッとなることもあった。この薬の副作用だった。気分の急激な変化それからホットフラッシュと呼ばれる、更年期障害もあった。オーブンに顔だけ突っ込んだようにカーっと暑くなり、汗が噴き出してくる。 これは痛みや吐き気よりはマシだけど、とても不愉快だった。
水入れも50CCずつ入れているけど、まだボコンと凹んでいる。左胸だけがすごく上のほうにあり、笑ってしまうほどだ。これで良いんだろうかと心配になる。
10月になりいつもの病院でボランティアをする。病院の前に机を並べてピンクリボン運動のサポートだ。
ピンクリボン運動とは乳がんの撲滅と早期発見の大切さを広める運動だ。10月になるとアメリカでは街にピンク色の商品が並ぶ。 この売上の何%かが乳がんの研究費になる。
カタログとピンクリボンを並べる。 それから人工の柔らかいおっぱいの中にニセ乳がんのしこりが入っているものも展示する。これを触ることで、自己検査でのしこりの感じを知ってもらうのだ。それから癌の大きさ別の模型もいくつか並べた。
興味本位で見ていく人ももちろん多く、中には乳がんのモデルを見て
「うわ~気持ち悪い」という人もいた。
「あなたの大切な人を守ってくださいね、ぜひ検査を」と言うと
「え!うちのワイフは絶対にならないよ」と去っていった。
それからある女性は乳がんの模型を思いつめたようにじっと見つめている。近づこうとするとその女性の友人が後からやってきて、
「乳がん、2センチってこんなに大きいのね」と慰めるように言う。
私はそこで4センチのモデルを指さし
「私のはこれより大きかったんですよ!」と言うと、その女性ははっとして顔を上げる
「でもあなたはすごく元気そう……」
「そうですよ、一年半前にここで手術しました。でも元気ですよ!」
その女性の目に涙がうかぶ、嬉しいと言われる。最近告知された人なのだろう。
「私が大丈夫なのだから、あなたも大丈夫ですよ」と使いたかったセリフを言った。
私にしか出来ないことが確かにあるのだと思った。
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