第36話  幻肢痛 ないはずの胸が痛む


10月になっていた。


長い長い放射線治療33回がやっと終わる。最後の日にスタッフの寄せ書きやチョコレートの入ったバッグを風船をもらった。3大治療が終わり言葉にならないほどの嬉しさだった。


7ヶ月の治療は長かった。 手術は精神的にも肉体的にも辛かった。抗癌剤は一番きつかったと思う。次々に襲いかかる副作用との戦いの日々だった。


手術の後には幻肢痛も経験した。幻肢痛とは例えば手術で足を切断して、ないはずの足が痛むという現象だ。


ないはずの胸が痛い、痒い。そしてなんと母乳が出ている気がするのだ。それは気のせいという感じではなく、本物の感覚だった。もう絶対にできないことを胸が恋しがっているようだった。


止めようとして胸のあった場所を探る。確かに胸がそこにあるのに、ない。確かに母乳が出ているのに、なにもない。

これは精神的にあまりにも辛かった。


放射線治療も放射線をかけたところが爛れてしまい、皮がむけている。 まさにやけど状態でズキズキ、ヒリヒリして痛くて眠れない。


ケロイドになっているところもある。夜は軟膏を塗って大きいガーゼを当てる。そうしないとパジャマに血や皮膚がついてしまうのだった。くっついてしまった布を取る時は声が出るほど激痛だ。


これはかなり長い間続いた。

傷はいつかは治る。痛みはいつか収まる。と自分に言い聞かせていた。 


この放射線最後の日に腫瘍科の医者Bのアポイントメントもあった。

タモキソフィンというホルモンブロック剤を5年飲むことになった。 私の乳がんは女性ホルモンで増えるタイプなので、その女性ホルモンをブロックしてしまう薬なのだそうだ。 


女性らしくなるために飲む人もいるホルモン剤を抑えてしまうとは。副作用を聞いて、またがっかりした。

体重の増加、肌荒れ、髪の毛は薄くなる。骨がもろくなる。

生理も止まる人が多いそうだ。無理に閉経のような感じになる。更年期障害も起こるという。


ほとんど治療は終わったと思っていたけれど、まだ戦いの途中だった。

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