第35話  冒険の途中の勇者

放射線治療は途中まで、同じことの繰り返しだった。受付で名前を言い、着替えて放射線室へ。寝たまま左腕を伸ばして白い大きな機械を通る。


20回を超える頃から副作用も強くなってきた。 だるさと腹痛だ。 それから肌もどんどん焼けてきた。 手術の痕を中心に四角く黒くなってくる。


「いい感じにトーストになってるわ~」とドクターSは笑う。 


「ちょっと痛痒くなってきました」


「うん、やけどと同じだからね。塗り薬だすわ」


このドクターとのアポイントメントは楽しみだった。毎回夫と笑いながら部屋を出ていけた。どれだけ助けられたかわからない。 息子とも話を合わせてくれ、いつも楽しそうに話をしていた。息子も、


「この本すごくおもしろいよ、貸してあげるね」なんて言ってる。 ドクターも


「わあ、うれしい! ねえナルニアって知ってる?」


「ダッドが読んでくれてたことある!好き!」


「私もすごく好きなの。お礼にビデオあげるよ、古いのだけどね」と棚から出して渡してる。 

ドクターSの大きい暖かいハートは皆の傷を癒していった。


 この頃ようやくハゲ頭から坊主頭になってきた。 まだ1センチも生えていない。 まつげはだいぶ生えてきた。ビューラーでつかめるくらいに。

眉毛も短いけれどくっきり太くウイッグを取ると、いなせなおっさんだ。


引っ越しをしてからネットの買い物もできる。 日本の本も買うことができる。今まではBoxのアドレスしかなくて買うことが出来なかったのだ。本物の自分の住所が手に入った。


それから息子と毎日ドラクエをした。 ひらがなをだいぶ覚えてきた。

(やくそう)とか(たいまつ)とかあまり役には立たない単語だけど、日本語に興味を持ってくれて嬉しい。昔やったことがあるので、ボスの倒し方など知っているので

「わ~!!ママすごいね!」と尊敬される。ゲームで遊んだことが役に立つ日が来るなんて。人生なんでも経験だなと思った。

一緒にゲームをしながら、いろいろな話をゲームと絡めてした。


「負けそうになったら逃げたっていいんだよ、またやり直せばいいよ」


「雑魚を気にしないで大ボスだけを倒せばいいよ」


「皆、勇者だよ。冒険の途中の勇者なんだ」


一緒に楽しみ、たくさん話しをしてお互いの気持が楽になっていったように思う。


放射線27回目からドクターがマークをあちこちにつけ始めた。 広範囲に当てるのではなくピンポイントで当てるそうだ。 傷口を中心に強めに当てる。


放射線の方は副作用も穏やかだったので、買い物にもいけるし料理も毎日作っていた。家事ができるのが嬉しかった。


ただ、後半になると脇の下まで赤くなって皮が剥けてきて痛くなってきた。


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