第4部 放射線治療
第32話 少しずつ元の生活へ
抗がん剤も終わり、落ち着いた日々が戻ってきた。 まだ髪も生えてないけれどほっとしている。
抗がん剤は脳にも影響を与える。 ケモブレインと呼ばれて、人によっては過去の記憶が飛んだり、忘れやすくなったりする。
私の場合は数字が一切暗記できなくなってしまった。 もともと苦手だったけれど電話番号をどうしても暗記できない。これは一年以上続いたし、今でも苦手だ。
どうしても全部暗記できないのだ。 一つ数字が抜けたりする。
何かを全く覚えていないということも、ど忘れもないのだけど私の場合は数字だった。
息子はハワイの小学校に通いだしていた。何度も泣いて教室に入れない朝が続いたが、ようやく泣かないで学校に行けるようになった。一安心だ。 強くなってきた。優しい素晴らしい先生に出会えたことが大きかった。そっと見に行くと皆で元気に校庭を走っていた。 もう大丈夫だ。
私も足が痛いくらいで家事などもできる。宿題を見て、夜は本を読んであげられる。これも以前は毎日していたことで、治療中はできなかったことだ。だんだん元のママに戻っていくのは嬉しかっただろうと思う。 私もうれしい。
少しづつ元の生活に戻ればいい、そう思っていたのだが病院であるドクターに
「早く元通りになりたいです」と言うと
「まったく同じには戻れないわ、病気をしたんだから」という。少しがっかりしたけれど、確かにその通りだ。その事実は消せない。まったく同じ私には戻れないけれど、以前よりもっと良くなればいいと思った。
まだ足はすごく痛むが食事の味もして、吐き気も胸やけもしない。これは本当にうれしいことだった。少し足を引きずっていたけれど、なんでもできる。
「なんでもできる!!」と叫びたい気持ちだ。
そして最後の抗がん剤から約2週間後、頭に産毛が生えてきた。ぽわぽわの小鳥の生え始めの毛のようだ。 ダチョウのひなのようでもある。 赤ちゃんはこういう髪の毛が最初生えるけれど、あの感じだった。赤ちゃんと違うのは白髪も混じっていたことだ。フワフワの白髪には思わず笑ってしまった。
見た時はすごく嬉しかったけれど、この後ちゃんとした髪の毛は生えてくるのだろうかと心配でもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます