第30話   ママ変わったよね

 7回目の抗がん剤をする。


今回の抗がん剤は副作用は前よりも楽だけど、飲む薬が増えた。前日に飲まなければいけない薬を飲み忘れて、抗がん剤を受けられないことがあった。血液検査も頻繁にある。注射を何本も刺されて針山の気分だ。 手術をして以来、右腕にしか針を刺せないので右腕は穴だらけだ。


今回の抗がん剤は普通の生活が可能なので、買い物にもよく出かけていた。 時々帰ってから涙が止まらない時があった。健康な人であふれている街に出ると自分だけが病気なような気がする。


顔はむくんでどす黒い。かつらをかぶり、胸を隠すためのシャツを着ていて暑い。体重も増えたのでショーウインドウに映った自分の姿を見てぎょっとすることもあった。シャワーの時はどうしても現実と直面する。 かつらを取り、服を脱いで胸を見る。鏡の中の顔は黒いというか、くすんだ灰色で膨れている。眉毛もまつげもない顔は年齢も性別さえもわからない感じだ。


みじめで悲しくなリ、時々鏡の前でワッと泣いた。


ある日「ママ変わったよね」と思わず息子に言ってしまったら、


「ノー変わってないよ。同じハートのままだから」と言ってくれて涙が出た。私が昔言ったことを覚えていてくれた。

 

 抗ガン剤を受ける部屋が変わっていた。 大きな病院で少し迷った。 新しくできだ病室だ。ここには子供が入れない。


この時にカウンセラーが親のがんの説明などをしてくれたのだが、これが良くなかったような気がする。 やはりあまり現実を突きつけるのではなく、オブラートに包んで話したほうがいいのかもしれない。


アメリカは昔からがんを患者に告知していたそうだ。どんなに末期でも告知する。 それから子供にもきちんと説明する。


それも良し悪しではないかと思う。特に小さい子供には辛いことだろう。本当のことだとしても。どうすれば子供の不安を取り除いてあげられるだろうかとそればかり考えていた。最近やっと前向きに考えられるようになった。 足が痛く引きずっているが、生活のほとんどのことができる。

癌に打ち勝ちたい。

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