第29話  骨の痛み


手術した側の左胸の骨の部分が痛み出した。


乳がんの転移で一番多いのは骨転移だそうだ。どきりとした。抗ガン治療中なのに、そんなことあるのだろうか? 腫瘍科の医者に話を聞きに行く。念のためにボーンスキャンというものをすることになったが、手術側の神経が痛んでいるそうで、よくある症状だそうだ。何年も痛みが残るらしい。


17年後の現在もまだ痛むことがある。神経がずたずたになっているのだと思う。現在のことを言うと、時々骨の近くがきりきりと痛み、切り傷も天候などによって痛む。時代物のドラマなどで浪人が「こんな寒い日は刀の切り傷が痛む」なんてセリフがあるが、あんな感じだ。


この頃は何か異常なのではと心配だった。 情報も今より少なく、乳がんの骨転移ばかりが目に入ってきた。


胸の痛みはあったが、タキソールという抗がん剤は足の痛みだけで、味も戻ってきた。それが飛び上がるほどうれしかった。ただ、足は眠れないほど痛むときもあった。あとの副作用は腹痛、胸やけなどやはり内蔵関係だ。 

 

 やっと普通の夢を見た。カラフルだったが怖くもなく気持ち悪くもなく普通の夢だった。 ずっと悪夢だったので、嬉しかった。自分の中に希望が生まれてきたからだろうか?

希望はとても大事なことだと思う。 生きる力が変わってくる。


最初の苦しい抗がん剤が終わってからは、普通のことができるようになり、息子とも毎日ゲームなどして遊んでいる。少し元気になったママと遊べるからか、息子も泣くことが少なくなってきた。


見かけはまだひどいが、普通のことが普通にできる。このことで希望が生まれてきた。私が泣く日も少なくなってきた。


ハワイに来てもうすぐ5か月になる。 ずっと手術と抗がん剤の治療だった。

あっという間に人生が変わった。 


容姿も変わったし、性格も変わったと思う。


自分がこれほど弱いとは思わなかった。そしてそれを認めて生きるのは悪いことではないなと思った。

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