第25話 気丈な女性も泣かす抗がん剤
2週間たち夫が帰ってきた。疲れきっているようだ。急にハワイに来て私の介護や息子の世話、日本へ帰って引っ越しの用意、帰ってきたらまた出張と忙しい日々を送っている。申し訳なく思う。
親友から(乳がん全書)という分厚い本が届く。 この本はこの日から何度も何度も読み、私のバイブルとなった。
翌日は病院で新しい抗癌剤タキソールの説明を受けた。
副作用はこちらのほうが軽いそうだ。ただ、こちらの抗がん剤も髪が抜けるそうで、もう生えてくるかもと思っていたのでがっかりした。
ウイッグがあまりにも暑いのでお店に帽子だけで出かけて、じろじろと見られてしまった。深くかぶってはいたけれど、うつむいたりした瞬間後ろの頭が見えてしまう。そこには毛がない。確かにギョッとするだろう。まつ毛や眉毛も半分くらい抜けている。
キャリーから電話がかかってきた。ここのところずっと泣いているという。年上で気丈な女性なのだが、やはり乳がんとはそんな女性からも勇気を奪ってしまう病気なのだ。
私も泣いた。いや、まだ泣いている。もう泣きつかれた。
だけど治療が終わって泣いた分だけ笑える日が来れば、と願う。
次の抗がん剤まで日にちが開いていたので、元気に過ごせた。
カリフォルニアから夫の母親も来てくれた。空港から出てくると夫の剃った頭を見て
「マイベイビー!すごく誇りに思うわ」という。そして私のことをぎゅっとハグをしてくれた。この人は初めて会った時、外国人の嫁の私のことをハグしてアイラブユーと言ってくれた人だ。
「元気そう!よかった!一緒に買い物に行けるわね!」
「またそんなことばかり!でも行く」と笑いあう。
すぐに施設にスーツケースを置きに行き、そのまま買い物や食事にでかける。私の母とも仲が良く、私たちはダブルママの意味でM&Mと呼んでいた。急に人が増え、賑やかになった。私もちょうど副作用が終わった頃だったので毎日楽しく過ごすことができた。だが、すぐに次の抗がん剤のタキソールが始まるのだった。
5回目の抗がん剤。 最初に飲むベナドレルという薬を通常の5倍投与されて倒れる寸前のような最悪な気分になる。すぐに吐き気止めの薬を飲ませてくれた。
それ以外、この抗がん剤はACの時のような(人間やめますか?)というほどの激しい副作用が全くない。これは本当にうれしかった。主な副作用は足の痛みだそうだが、それもまだでていない。
食べ物の味も戻ってきた。 パンを食べてパンの味がするというのはなんと嬉しいことだろうか。 いままでは乾いたスポンジに薬を塗っているような味だった。後半は何を食べてもパサパサで抗がん剤味だったのだ。
水も水の味がする。本物の料理の味がする。うれしい、うれしい!
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