第18話 髪の毛を剃る
2回めの抗癌剤を受ける。
左のリンパ節を手術しているので、右にしか点滴用の注射をさせない。だいたい失敗されて、また親指の付け根にさされた。とても痛い。 血管が細い人は首の中にポートと呼ばれるものを入れる、血管とつながっていて、そこに抗癌剤など注入する。毎回血管を探さなくても良いように。
腕に刺した管をつけっぱなしの人もいる。キャリーはこれにした。腕からいつもブラブラとチューブがぶら下がっていた。胸から出ていたチューブが不愉快だったのと、感染したことで、私はそれは嫌だと言った。毎回針を刺して痛い思いをするけれど、しょうがない。
まず点滴。 11時頃からアドレアマイシン、12時から1時までシクロフォスミド。今日も鼻の奥がツーンと痛くなった。海で鼻から水が入った感じだ。
その夜は全然眠れなかった。 まだ吐き気は来ていなかった。翌日も新しい薬が効いて吐き気はゼロだった。これは嬉しい。
シャワーをして髪の毛を洗うと両方の手のひらに、指に、短い髪が張り付いていく。あまりにも多くて、手のひらから生えているみたいだった。
夫が病院に白血球を増やす注射を取りに行った。これを毎日打ってくれる。抗癌剤の後10本打つ。 抗癌剤は全部で8回したので、80本注射をしたことになる。
今回は吐き気はないが具合が悪くずっと横になっている。精神的にも落ち込んで涙がぼろぼろ流れる。
夫と息子がもうすぐ引越し準備で日本に行くのが寂しい。とても不安だ。離れたくない。今回は精神的にダメージが大きかった。
食欲が全く無いのに顔が丸くなってくる。この頃素麺とつゆにしょうがをすりおろしたものが一番食べやすかった。 水も変な味なので炭酸をガブガブ飲む。
夫がお腹に注射をしてくれたが痛かった。これを毎日自分でするのかと思うと悲しくなる。
そして2回めの抗癌剤から5日目。
バラバラとものすごく髪が抜け始める。三分の一ほど抜けただろうか。コットンのターバン風の帽子を被る。それを見て息子は泣き始めた。
夕食後、髪の毛を全部剃ってしまった。 夫に手伝ってもらった。毎日抜け続けるよりは良いと思ったけれど、やはり涙がボロボロ止まらなかった。
鏡に写った顔はおじさんのようだ。それなのに夫は
「かわいいね、生まれたてのベイビーみたいだよ」と言ってくれる。やさしい人だ。
「うそつき」と笑い、そしてもっと涙がこぼれた。
「じゃあ、僕も剃るよ、一緒だよ」と自分の髪の毛も剃ってしまった。
その優しさに言葉では言えない大きな愛情と絆を感じた。これから日本へ行ったり、トレーニングもあるのに。一瞬の躊躇もなくバリカンで髪をそってしまった。
その気持に答えたい。絶対に元気になりたいと思った。
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