第3部 抗がん剤との戦い

第16話  抗がん剤1日目。副作用


いよいよ抗がん剤が始まる。


前日、血液検査とカウンセリングがあった。この時に(遺伝性の乳がんHBOC)かどうかの検査もした。この結果は陰性だったので妹や姪そして息子や甥の事を考えて一安心した。乳がんは男性にも発生し、このHBOCがあるとかかる確率が高い。

 

 抗がん剤を受けるための病室に9時に行く。 はじめに点滴をする。これはほとんど水分だ。血管が細めなので失敗される。手術は左胸でリンパも取ったために注射は右手にしか出来ない。腕の注射を失敗されると親指の付け根のところになり、これはかなり痛い。

一袋分点滴をして、吐き気止めの薬をもらった。


 午後からやっと抗がん剤が始まった。 使ったのは

アドレアマイシン(Adriamycin)とシクロフォスミド(Cyclophosphamide)という抗がん剤だ。乳がん治療の抗がん剤としては一般的だと思う。


 最初はアドレアマイシンを15分くらいかけて2本分注射で体内にいれていく。赤い液体だ。治療をしているのだと考えていても、どうしても毒を注射されているような気持ちになる。


 それが終わると、今度はシクロフォスミドをIVの袋につけて体内に取り込む。点滴を落とすのを早くすると鼻の奥がツーンと痛くなるので調整してもらう。朝から始まった抗がん剤の治療。その日の午後には帰ることが出来た。


 その夜、夕方から倦怠感がはじまった。吐き気も少し始まる。だるさが疲労感へ変わっていき、マラソンの後のような激しい疲れに変わった。


 手足のしびれと吐き気。思ったよりも苦しい。 夫はまた夕食にご飯を炊いて味噌汁を作ってくれたのだが、食後から激しい胸焼けが始まった。


ベッドに横になって目を閉じる。よく眠れない。副作用は思ったよりもひどかった。


 翌朝夫はコーヒーを淹れ、トーストを焼いてくれた。食べてすぐにまた寝てしまった。だるいというよりも激しい疲労感だ。とにかく眠く、それから吐き気もある。


 飲んでいる薬もあまりにも多くて覚えられない。1日ふらふらしている。

病院へ注射を打ちに行く。 抗癌剤治療は白血球が減るので、感染などを防ぐために白血球をあげる注射を打つ。10日分持って帰ってきた。


 やはり、夜眠れない、寝たり起きたりしている。それなのに眠い。目を開けるのも辛い。


 夫の上司の奥さんキャリーの話を聞くと私よりもうんと軽そうだった。喜ぶべきところなのだが、正直自分だけが高いステージのような気がして落ち込む。


 気分も落ち気味で、食欲も落ちてきた。口の中の味が変わっている。何を食べても変な味がする。水も飲むたびに苦かったり甘かったりする。


 一週間経つとだいぶ気分も良くなってくる。 ちょっと出かけたり、簡単な家事ならできるようになる。私の場合は一週間は寝たきりになってしまい、腕も上げられないので、本を読む気にもならない。


 まるで人間ではなくなるような感覚だった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る