第15話 2度めの手術と一生の時間
引っ越すために借家を見て回っていた。
闘病に快適そうな家が見つからず、家を購入することも視野に入れていた。アメリカでは家は買い変えていくのが普通なので、軍の仕事の期限の3年しかいないとしても売却することができる。
夫と見に行って気にいった家があった。ハワイに住む。家を買う。
病気でなければどれほど嬉しいことかと思う。
抗癌剤が始まる前にオンコロジー(腫瘍科)のドクターとのアポイントメントがあった。
手術をした側の脇の下も触診している。なにかグリグリと指に当たる豆状のものがあるという。 その日はそのまま帰ってきたけれど翌日電話がかかってきた。
「手術をしたほうが良いと思う、取り出して病理検査ををした方がいい」と言われた。
手術はもうこりごりだ。早く薬の治療してほしい。また手術だと聞かされてショックで落ち込んだ。
やっと傷口の痛みも引いてきて、そろそろ抗癌剤だと思っていたのに。
「もう、いや! 手術はもういやなの」やり切れない思いで、ガチャガチャと音を立てて食器を洗った。全部割ってしまいたいような気持ちだっだ。
くやしくて、そして怖い。
翌日、同じ手順で手術を待つ。今回の手術は全摘出よりも簡単で脇の下を切り、リンパ腺を一つ切りとる。
麻酔方法もロコと呼ばれる軽いものだった。 寝むってしまうものだったが、部分麻酔のようで目覚めても気分も悪くなくすぐに帰ることも出来た。
全摘手術の全身麻酔とは全く違う。目がさめて、その日にぴょんとベッドを降りて帰ることが出来た。これは予想外ですごく嬉しかった。
手術の後も大きい絆創膏のようなものが貼ってあるだけで傷口も小さかった。 前回リンパ腺もかなり取ったと思っていたけれど、まだまだ残っていたのだった。この腫瘍は奥の方に隠れていたらしく見逃されていた。
病理検査の結果、この腫瘍も悪性だった。
リンパ腺に転移していたガンであった。
大きさは1センチにもなっていてパチンコ玉大だ。転移していたものがそれほど大きくなっていたなんて。
この時も泣いた。
ポジティブに考えよう考えようとしているのに結果はいつも悪かったからだ。 今度こそ、大丈夫。今度こそなんでもないと思っているのに、また癌だった。
しかもこのリンパの数でステージ3になり、生存率などの%もぐんと低くなった。
忘れられなかったのはナースがやってきて
「リンパを取る手術をすると、リンパ浮腫と言ってむくむことがあるの、だから一生怪我は出来ないわよ。ガーデン仕事とかネイルサロンさえダメよ」と言ったので、
「え??一生ですか??そんなに長く??」と聞いたら、なんとも言えない表情を浮かべて、さっと横を向いた。その時に悟った。
そうか、私の(一生)ってそんなに(長く)ないんだなと。
言葉で言われたわけではないけれど、こういう仕草や表情でわかってしまうものだ。
それでも、考えないようにしよう。
絶対に良くなりたい。何よりも家族のために。
ボジティブな気持ちでいなければと思っていた。 思ってはいたけれど、当時とても難しいことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます