第14話  息子の精神状態が悪くなる。


 引っ越すことが決まったが、荷造りに日本へ帰ることが出来ない。 手術をしてから3週間が経っていた。 もうすぐ抗癌剤が始まる。 引っ越しのために夫が息子を連れて日本へ帰ることになった。


 息子の学校の転入手続きもしなければいけない。日本のY基地の学校に一年生から入り、やっと慣れたところだったのに、またアメリカの学校に転校することになってしまった。


この頃から少しづつ息子の精神状態が不安定になっていった。 住んでいる場所で闘病していたら病状は隠していたかもしれない。しかしハワイに何ヶ月も連れて行くとなると隠すことは出来ない。


病気のことを話し、手術のことや治療のことを話した。


そして病院での包帯を巻かれた弱っている母親を何回も見て、ホテルでもずっとベッドで寝ている以前と全く違う母親を見て、不安と恐怖に押しつぶされそうだったのだろう。急に泣きだすことも多くなっていった。


抗癌剤の説明もしたのだが髪の毛が抜けるというところで号泣した。


「ママが変わったら嫌だよ。変わらないで! I like the way you are!(そのままが好きなんだ)」と大泣きした。


「ママの外見は少し変わるかもしれないの、でも中身は同じだよ。同じハートの同じママだよ。I love you の気持ちはどんなことがあっても変わらないよ。いつも、いつまでも大好きだよ」と言う。


今度は「うれしい」と大泣きしている。


小さな身体を抱きしめて 同じ言葉を繰り返した。I always love you いつでも大好き、と。

 

何度も悪夢や悪い想像をしたと泣いていた息子。


「ママがいなくなる、小さくなって消えちゃうの」と泣きじゃくる。


この頃から息子の精神状態が不安定になっていく。 情緒不安定で赤ちゃん返りのようなこともあった。 

手続きが終わり、やっと編入した基地の中の小学校の教室に入れなかった。

一歩入ったら大泣きし、ついていった夫は帰れずに一日中ずっといたこともあった。


授業を諦め、毎朝学校のカウンセラーのところへ行くことになった。 カウンセラーは毎朝なにか楽しいゲームを考えて遊んでくれていた。それでもやはり帰りたいと泣く日々が続いた。 


困った私たちは考えた末に家で勉強を教えるホームスクールに変更することにした。


ずっと後になって、この時の話をしたのだが


「学校に行っている間にママになにかあったらとそれが心配だったんだ。会えなかった、さようならを言うのが間に合わなかった、というのがすごく怖かったんだ」と言っていた。 


もう少し子供の気持ちをわかってあげられたら良かった、と思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る