第6話  腫瘍専門医


 腫瘍専門医のドクターBの予約が入っていた。 11時の予約で名前を呼ばれたのは1時間後の12時だった。


 ドクターBは高齢男性で表情も言い方もとにかく暗かった。

放射線医と話してやっと楽になった気持ちがまた沈む。


 「……え~リンパ腺には転移していると思うけれど、あ~全部取ると腕が腫れる、一生注意しなければならない……」とボソボソと話す。話していると具合が悪くなりそうだった。質問も出てこない。


 病院側は最高のドクターだという。本当だろうか?部屋もぐちゃぐちゃで書類もあちこちにある。時間にもルーズだ。何よりも患者の気持ちを暗くさせるのは良いドクターといえるだろうか?どんどん気が重くなっていった。


 手術は1週間後くらいだ。


 怖い、すごく怖い。盲腸さえ切ったことがないのに、乳房の全摘出という大きな手術だ。


 手術まではせめて息子に楽しい思いをさせたいと思い動物園に行った。 

3人で歩く小さい動物園。暑い日で、かわいいボトルに入ったジュースを買い歩いた。息子は嬉しくて目をキラキラさせている。


 まるで何もかもが普通でバケーションに来ているような気持ちになる。


 「キリンがいるよ~!」と汗をかいて真っ赤な顔で走ってくる。また涙が出そうになる。そんな私を見て夫が手をギュッと握ってくれた。



 泊まっているホテルの部屋は狭いなりに快適だったけど、自分のコンピューターがなかった。今のようなノートパソコンやタブレットもなく、ホテルのロビーに有料のコンピューターが置いてあった。これで10分いくらというようにネット接続できるのだけど、日本語が出てこない。


 日本語で情報が読みたかった。もっと本を買って来るべきだった。乳がん情報などの。「なんでもない、帰れる」と思いこみたくて、わざと探してこなかったのだった。


 翌日はフィジカル・エクササイズと言って手術後のリハビリ運動を習う。

手術後は腕が上がらなくなるそうなので体操の仕方を教わった。


 その後またショックな話を聞いた。

私の場合は再建手術は乳がん手術をした後のほうが良いと言われた。同時再建ではなく。 


「まずは、きちんと全部治してから。再建は1年後くらいのほうが良いと思う」


「胸の中に腫瘍がいくつかあってリンパにも転移していると思うし、それから石灰化している所もあるし、とにかくあなたの場合は治療が先ね」


 それほどのリスクなのか。


 毎回のことだがやはり泣く。

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