ウィッチ・ノエルと有り触れた一日(更新中)

ここは、かつてヨーロッパと呼ばれていた大陸の一部。

そこではたくさんの人間たちが暮らしていた。

多種多様な文化と言語を持ち、時には憎しみ合い、時には助け合う。

そんな光景が一日、また一日とあった。

だが、この世界から人類が消滅したとたん、それは崩れ去った。

今は、かつての栄華をあちこちに残すばかり。

だからこそ、何処の誰でもいい。此処に来て、留まってほしい。

この美しい遺産を風化させぬように。





「ん・・・・おはよう、ですわ。」ノエルは今日も夜明けとともに目覚める。

この世界から人類が、自分の両親が消えてからどれくらいたっただろう。

ただでさえ大きい自分の家が、ひときわ大きく感じるこの頃、

ノエルは、大きな期待と不安を抱えていた。

悪魔と契りを交わし、弱くもろい自分と決別できた。

今まではせいぜい病院との往復程度にしか使えなかった玄関も、

これからはありとあらゆる場所につながるのだから。

とはいえ、世間のことなんてちっとも知らなかった自分が、

すぐに外の世界と打ち解けられるわけがないのだ。

「まずは身支度ですわね。昨日が大雨でしたから水も溜まっているはずですわ。」

玄関の鍵を開け、ドアノブをひねる。

するとそこには庭園と呼ぶにふさわしい場所があった。

玄関からほど近いところに、たくさんのツボが並んでいる。

それらすべてに、水が満たされている。期待通りの結果だ。

「ああよかった。たくさんたまっていますわ~♪」

その中の一つを抱えて再び家の中へ。

せっせと作った手作り浄水器の中に雨水を投入する。

綺麗にしたペール缶に砂利やら炭やらを詰め込んだ簡素なものだ。

別の綺麗な容器を用意し、水がたまるまで待つ。

これを煮沸沸騰して飲み水にしたり、生活用水に使うのだ。

ツボを運び、浄水器に注ぎ、ひたすら待つのを繰り返す。

「・・・・そういえば今何時ですの?」

この家の時計はもう動いてはいない。

「水道もそうですけど、早く電気がほしいですわ。夜は怖くてたまりませんもの。

蝋燭は一応ありますけど、火事が心配ですし、電池も手に入りにくいですし。」

生活上の不満をグチグチ並べていく。とは言っても。

「でも、体が動かせるのはいいことですわ。物は考えようですわね。」

さあ、顔を洗って、身支度したならば出かけよう。

今日も外の世界は彼女を待っている。


玄関を出て、ただひたすら道を歩く。

小鳥のさえずりが、彼女の耳に響いてくる。

「小鳥さんたちなら、いなくなった人間たちの行方、知っているのでしょうか?」

空を見上げながら、ノエルはポツリとつぶやく。

「彼らは戻ってくるのでしょうか。それとももう二度と戻らないのでしょうか。」

今日は日差しが柔らかくて心地よい。散歩にうってつけである。

一歩、また一歩足を運んでいく彼女はどこに向かおうとしているのだろう。

「・・・あ、もう食料が尽きていますから補充しないと。」



宝石屋。

名前の通り、宝石を売るお店・・・ではない。

ここで品物を買うときは、宝石を通貨代わりに支払わなければならないのだ。

「いらっしゃい。何を買うんだいお嬢さん。」

「食料が尽きたので、缶詰とかがほしいんですの。お代はこれで。」

ノエルは、宝石屋の店主に母がよく着けていたルビーの指輪を手渡した。

店主はそれを受け取りレンズで確認した後、缶詰の詰まった紙袋を置いた。

「ありがとうございます。いつも助かっていますわ。」

「そうかい。ところで生活にはなれたかい?」


ノエルは少し考えこんだ後、ぽつりと言った。

「生活にはかなり慣れてきました。家にたくさんあった本でいろいろ調べて、今ではそれを使いこなすことができるようになりました。水も、食料も自ら調達できるようになれたのは我ながら成長したと思っています。でも・・・」



私にはまだ、友達がいない。(続く)









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウィッチ・ノエルと最後の祓魔師 @bukuromasi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ