第四話 大人なおばあさんと子供な孫

 ○第四話 大人なおばあさんと子供な孫


  掃除機のパックを買って、コンビニに寄る。なんのアイスがいいかしらとちょっと考えて、さっきのソーダバーでいいかと、ひとつだけ手に取って会計を済ませる。

 太陽さんはお変わりなく、地表に熱波をぶつけ続けている。あんまりちんらたしていると、アイスキャンディーが溶けてしまうから、急いで自転車にまたがって走り出す。

 運良く信号に引っかかることなく、深山さんの家に到着。縁側に彼女の姿はなく、すこし迷ってから呼び鈴を鳴らす。

「はい」

 応対してくれたのはおばあさんだった。

「神山ですが」

「あら神山さんのところの聡太くん? もしかして、青子かしら」

「ええ、まぁ、おつかいを頼まれまして……」

「あの子、部屋でうたた寝しちゃってるわ。すぐに起こすから、お上がりになって」

「ありがとうございます」

 門扉に手をかける。またしてもすこしためらった。女の子の家に上がるなんて初めてだ。

 ぶんぶん頭を振る。なにを意識してるんだ。僕はあくまで深山のおばあさんの家に届け物で訪れただけだ。

「お邪魔します」

 玄関の扉を開けると、ニコニコしたおばあさんと、いかにも不機嫌そうな深山さんが迎えてくれる。

「深山さん、ほら、アイス」

「眠い!」

 子供か。というつっこみをなんとか飲み込んで、おばあさんと苦笑し合う。

「ほら、お礼言いなさいな」

「うー、ありがと」

 それにしても僕が深山さんの家を出て、まだ三十分くらいしか経っていないというのに、なんという寝つきの良さと寝起きの悪さだ。子供か。いや、子供だって、もすこしマシかもしれない。

「いつもこんな感じなんですか」

 思わず言葉が口から飛び出した。はっと我に帰って、口を押さえかけるが、一度発した言葉は飲み込めない。

「昔からこんな感じよ」

 が、おばあさんは困った顔をして嘆息づいてくれた。僕もすこしほっとする。

「聡太くん、せっかくだからお上がりになって。お茶と羊羹くらいしかないけれど」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」

 帰って掃除機をかける予定だったが、別に、また明日やればいい。

 居間に通されて、好きなところに座ってと言われたので、なんとなく机の端に座る。腰を下ろすと、すぐ隣に深山さんが気だるげに座り込む。

「なんで隣なんだよ……」

「そこは、ホントは私の特等席。でも譲ってあげよう。仕方ないから、私はその隣」

「馬鹿なこと言ってるんじゃありませんよ」

 おばあさんが、お茶と切り分けた羊羹を持ってきてくれる。

「ごめんなさいね聡太くん。仕方のない子で。そこ、冷房の風邪が直接当たるでしょう。寒くはないかしら」

「い、いえ、大丈夫です」

 柄にもなく緊張してしまっている。というのも、ここが同年代の女子の家だから、という訳ではなく、深山さんのおばあさんがあまりにも大人びていて、なんとなく、気後れしてしまっているのだ。

 おばあさんの仕草ひとつ、一挙手一投足が、それはもう「」みたいに見えて、自分の言葉遣いやふるまいは子供っぽくないだろうか、礼を失してしまってはいないだろうか、ばかり考えている。

 隣でアイスキャンディーにかぶりつく深山さんを盗み見る。いまに限り、癒される。

「きんちょーしてるの?」

 深山さんと目が合う。どきりとした。僕の心中を、彼女でさえも見抜いてしまうとは!

「だったら、特別に君に一口あげよう。特別だよ」

 言って、差し出されるはソーダバーの片割れ。見つめること数秒、なんだかむかっ腹が立って、そのままかぶりついてやった。

「あーっ!」

「一口!」

「でかすぎ!」

 そもそもそれは僕が買ってきたものだし、お金(五十三円)も僕が負担しているし、本来ならぜんぶ食べる権利すらある。

「ふふ」

 僕たちのやりとりを見てか、おばさんが小さく笑った。とたんに気恥ずかしくなる。子供じみた行動だ。うかつだった。

「仲が良いわね。青子とは、今日知り合ったの?」

「はい。あそこのコンビニで」

「なにか失礼なことしなかったかしら?」

 思い返してみる。失礼どころか、常識はずれな行動が思い出される。

「この子、ちょっと抜けているところがあるけれど、根は良い子だから、仲良くしてあげてね」

「いえ、こちらこそ……」

「大丈夫! 私と聡太くんは、アイスキャンディーをはんぶんこする仲だから!」

 ソーダバーを口に頬張って、高らかに宣言する深山さん。

「ね、抜けているでしょう?」

「ははは……」

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