08.

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「玲斗、入るわよ」


 ノックをして、練と仁兎と共に中へ入る。黒を基調したシンプルな部屋は、書類などでごちゃごちゃしていた。


「おう、ようやく来たか。

おっ!仁兎の隣に練がいるってことは、もしや懐かれたのか、仁兎?美月、仕事が減ったな」


玲斗の言葉に仁兎が食ってかかる。


「…冗談じゃない!……おい、離れろ」

「…す、すみません……」

「練~、気にしなくていいわよ。それ、仁兎の照れ隠しだから」

「……誰が照れ隠しだ、くそっ」

「…で、玲ちゃん話って?」

「…それで呼ぶなだべ。お前がそれで呼ぶと、なんかこうぞわぞわっとするべ!」

「…じゃあ、ひな

「それは傷付くべ!」

「…じゃあ、鼻布はなぬの


玲斗が”雛”と呼ばれる理由は、ヘアスタイルから取られたもので、彼が鼻布を巻いているのは、本人曰く『鼻がコンプレックスだから』らしいのだが、よくも悪くも目立つのが難点である。


「それはもっと傷付く!…もういいべ……そんで話だが、まあ…練の武器についてだべ」

「契約、させればいいんでしょう?」

「おうよ。ただ…、今あるのが組紐しかないんだべ。今んとこ新しく作る予定もねーし…」

「…組紐?でもアレって……」

「…契約は俺やらねぇぞ」


先に部屋を出て行ってしまう、仁兎。

仕方ないと、玲斗から組紐を受け取って二人で美月の私室へと向かう。


「…美月先輩…こんなもので、一体どうやって戦うんです?」

「さぁ?私に聞かれても困るわ。…私たちが使う専用の武器には、全て魂が宿ってるの。だから、その武器を使うには武器との契約が必要になる。だけど、その組紐には何故か魂が宿ってな「それ…知ってる…」」


美月の言葉を遮って、蓮がつぶやく。


「……俺…使ってた…?……違う…違う……、それ…俺…だ…」

「「えっ!?」」

「だって…蓮は…、ずっと俺の中にいたって…」


困惑する練。


「…うん。

俺は練の中にいた。それは間違いないけど…、数百年前 俺はその組紐として”生”を受けた。けど、俺は強すぎたんだよね。強すぎた故に、主の精神まで喰らってしまった…。その後俺は、組紐から無理やり魂を引き剥がされて、魂だけで彷徨い続けていた。だけど不思議なことに練が生まれた時、自然と練に引き寄せられて落ち着いちゃって…」


呆れたと言わんばかりの顔で、美月は蓮を見つめる。

契約もしていない人間の中で、狂うことも精神を喰らうこともなく”共存”など、聞いたこともない。


「…呆れた…。契約もしてないのに練の身体使って、あれだけ動けたっていうの?」

「年月経ちすぎて、自分が何者だったかも忘れてたというか……」

「…蓮…、アンタ馬鹿なの?……もういいわ、さっさとして契約…」


美月は練にナイフを投げて寄越す。


「練、契約はその武器に自分の血を吸わせることから始まるの」

「その組紐持ったまま、左手の指切って俺と手重ねて。強引だけど、多分いけるはずだから」

「……痛」


怖気づいている練の代わりに、美月は練に組紐を持たせ、指を軽く切りつけ蓮と手を重ねる。

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