07.

side→美月


 練が初めて港で、美月を見たあの日のこと。

あの日美月たちが追っていたのは、”悟堂組ごどうぐみ”という日本の所謂ヤクザたちだった。

英国から大量の武器を裏輸入する代わりに、大量の麻薬を同じく裏輸出しようとしていたのだ。それも今回だけではなく、前々から秘密裏に行われてきていたらしい。そのほかにも、様々な悪行を働いているそうだ。


そしてその話はついにエリザベス女王の耳にも入り、今回日本側の危険因子排除の命が下ったのだ。


蓮が大方悟堂組の連中を大方始末してしまったため、港は静まり返っていた。それでもしぶとく身を潜めていたらしい残党を切り捨てながら、港をくまなく見て回る。


(……切り裂き魔ねぇ…。よくもまあ、こんなに派手に…。毎回毎回、後始末大変なのよまったく…)


美月は、うんざりしたように溜息を吐く。

と、その時。


「……!」

(…人の気配……、まだ残党が…?)


己の武器である、大鉄扇を構え神経を集中させる。

向こうもこちらに気付いたようで、コンテナ一つ隔てて互いに飛び出すタイミングをうかがう。

 一つ分かっているのは、このコンテナの向こうにいる相手は、あの切り裂き魔ではないということだ。あの切り裂き魔ならば、きっといちいち間合いなど取らず、短期決戦を挑んでくるだろうと思うからだ。

 そしてほぼ同時に飛び出して、お互いを認識して驚きの声を上げる。


「…っどうして!?」

「…美月…!?」


武器の構えを解かず、お互い顔を見合わせる。

 美月の前に現れたのは、同じクラスのエレナ。半年前、隣のクラスの黎二れいじとともに兄妹として転校して来たのだ。まさか、同業者だったとは。


先に武器を下ろしたのは、エレナだった。


「…私と黎二は、元INFELNOのGespenstゲシュペンスト、アインスとツヴァイ。今は、INFELNOから追われる逃亡者」


 エレナの言葉に嘘がないと分かると、ようやく美月も武器を下ろす。

そこへ、黎二と見知らぬ金髪の少女がやってくる。


「…お、お前……一ノ瀬か!?何でここに!?」

「貴方…Gespenstだったのね。全然気付かなかった…。ほんと、人は見かけによらないわね。あぁ…、安心して。私も貴方たちと同業者だから。ついでに言うと、敵でもない」

『…美月さーん、ついでに俺のことも喋っといて』

「……。黒崎祐希、あいつも同業者よ。てか、スピーカーにでも切り替えて自分で喋んなさいよ」


そう言うと、美月は耳に付けていたイヤホンマイクを外す。程なくして聞こえてきたのは、祐希の声。


『…そんなわけで、いやぁ…意外っつうか、まさかだな。

んで、さっきから気になってんだけど、その金髪のねーちゃんは?』


美月も祐希の言葉で、金髪の少女を見つめる。

まだ日本なら、中学生くらいであろう少女。


「あたしはサラ。三代目Gespenstゲシュペンスト ドライ。けど、今は黎二たちの味方だよ!そういうあんたたちは?」

「…失礼。私は一ノ瀬美月 Code name:Mituki. 黒崎祐希 Code name:Tasuku. 二人とも、英国マフィアCROWN アジア支部 特殊部隊 Papillon Noir所属よ」

「CROWN…今、荒れてるって聞いたわ。INFELNOとの交戦に、反逆部隊が…」

『その反逆部隊っつーのは、俺らのことやな。

INFELNOとの交戦で結構な損害が出たとかで、ここ最近は大人しくしとるみたいだけど』


美月の言葉に、サラが思い出したように声をあげる。


「マルクが…CROWNを自分の支配下に置くって言ってたよ…」

「…なるほど、そういうこと……」


英国お抱えマフィアを支配下に置こうだなんて、INFELNOのボス”マルク”という男は一体何を考えているのか。それでもCROWNが防戦一方ということは、やはりINFELNOは相当の力を持っているようだ。


「それにしても…、お前らがCROWNだったなんてな。さすが、イギリス王室お抱えってとこか?」

「それは、貴方たちもね。ねぇ…、私たちまた会える?」

「死ななければ、ね」

「まだ死ぬ気はないわよ」

『同じく』


互いにハイタッチをして別れる。いつか、また会えると信じて――

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