06.

練はこくりと頷く。


「……センス…人を殺す、センス……。やっぱり恐い…俺が誰かを殺すなんて……。あれ…変、だな…。決めたのに……震えが……」

「それは、てめえの覚悟が足りねえからだ。ここは、てめえみたいな一般人がいる場所じゃねえんだよ」


 仁兎は一瞬で刀を引き抜くと、練との間合いを詰める。

混ざり合う金属音。

咄嗟に美月がここに来る際、紅蓮から取り上げていた小太刀を練に投げたのだ。


「…っんだと!?」


素人が、そう簡単に出来ることではない。

これこそが、祐希の言っていた”センス”なのだ。


仁兎とつばの競り合いをしながらも、練は言葉を紡ぐ。


「…っ、分かった気がします…。確かに、さっきまでの俺の覚悟は小さかった…。でも今…!こうして殺されかけて……、やっと分かりました。俺はもう…迷わない!俺は…俺は…、まだ死にたくない…!」


練の瞳から迷いが消えた。

劣勢だった練が、少しずつ仁兎の刀を押し返す。


「…仁兎!」


だがしかし、決着がつくことはなかった。

私室に戻っていたはずの明希が騒ぎを聞きつけてか現れ、仁兎の背後に回り込み首筋にナイフを立てていたからだ。


「…勝手な行動は謹め。彼は、大切な仲間だ」

「……っち」


仁兎は明希が離れると、首をさすりながら苛立ちを露わにして、部屋を出て行く。


「…ふん……素人がどこまでやれるか…、見ものだな」


仁兎との一騎打ちを終えて、放心状態の練。


「大丈夫か?コイツ固まってるぞ」

「瑠榎、その子頼んだわ」

「…は!?いやちょっとま…」


美月も仁兎の後を追うように、部屋を出て行ってしまう。


「…咲弥、どうしたらいい?」



side→美月


 部屋を出て、仁兎の後を追う。大方、向かった先は私室だろう。

扉を勢いよく開けて仁兎に詰め寄ると、逃げられぬようベッドに押し倒す。


「…っ何だよ」

「『何だ』は、こっちのセリフよ。

何いきなり刀なんか向けて…!結果的に良かったものの…。他にやり方ってモンがあるでしょ!?」

「…一番、手っ取り早い方法をとったまでだ」

「…はぁ…。謝っておきなさいよ」

「……」

「返事は?」

「…はぁ…はいよ…」


 仁兎を連れて、広間に戻ると練が楽しそうに笑っていた。蓮もいる。


「楽しそうね」

「…あ、はい!みんな面白くて、色々教えてくれるんですっ!」

「×××とかな♪普通に放送禁止ワードばっか♪」


練と蓮が、会話の内容を教えてくれる。

あとで夜満あたりをシメる必要がありそうだ。


「お、俺は何も言ってないからな!」


何故か必死なニーナ。

瑠榎は、美月から目を逸らす。



side→


「ニーナは、ヘタレだから言えないんでしょ?」

「蓮…お前なぁ……。つーか、ヘタレじゃねえって!」

「ふーん、そう…。あんたたち、練に何してくれてんの?」

「…え、いや……。そ、そういえば…玲斗が、四人のこと呼んでた、ぞ」


美月たちが話している間に、練の隣に仁兎がどかっと座る。


「…あの…えっと…」

「……さっきは…悪かった…な」


練にしか聞こえないような小さな声。


「…あ…、いえ…。逆に…ありがとうございました。貴方のおかげで、覚悟も決まりましたし…。あの…、お名前聞いても?」

「…仁兎」

「仁兎さん、これからよろしくお願いしますね」

「……ふん」


その時、憂が四人を呼ぶ声がした。

きっと玲斗の催促だろう。


「練蓮くんと美月ー!それにうさちゃーん、玲ちゃんが早くー!って~」

「それで呼ぶんじゃねぇつってんだろ、くそ家鴨!丸焼きにすっぞ」

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